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  • クソガキに支配され・・・2

     前作に続く続編。
     まだなお健太に支配され、デート中の辱めを受ける唯華は、やがてバドミントンでの試合を申し込まれる。まともに戦えば唯華が勝つに決まっているが、そのためローター入りというハンデを背負う。
     もしこの勝負に負けてしまったら・・・・。
     

    第1話 久々の再会
    第2話 視聴とお仕置き
    第3話 ローターデート
    第4話 レンタルショップで
    第5話 イキたい唯華、健太の提案
    第6話 敗北
    第7話 奴隷の運命


  • 万引き冤罪の罠

    作品一覧

    
    
    
     栄明学校は中高一貫のスポーツ強豪校で、そんなスポーツ学校があるせいか、スポーツ用品店に顔を出す中高生は自然と多い。
     とある中年が経営しているこぢんまりとした店は、大型デパートの内装店に比べて客の出入りは乏しいものの、喰うに困るほど閑散としているわけではない。ラケットのガットの張り替えや用具の手入れといったサービスで保っている部分もあり、必ずしも商品の売れ行きが良い必要はなかった。
     もちろん、ちっとも売れなくても困りはするが。
    
    「よく来るね」
    
     レジで会計を行う時、一人の少女に何気なくそう言った。
     この時にはまだ邪な思いはなく、ただ持ち前の外向的な気質を発揮しただけだった。他人に躊躇いなく声をかけ、饒舌な会話を繰り広げる性格上、無意識のうちについつい雑談を持ちかけたり、世間話を振ってしまうことがよくあるのだ。
     女子高生や女子中学生に対する声かけ事案というものは聞いたことがあり、だから声をかけてしまった直後に内心焦る。向こうとしては、店員のオジサンなんかとわざわざ話す気などなく、急に驚いているかもしれない。
     だいたい、こちらに何の企みがなくとも、向こうがそう思ってくれるとは限らない。怪しい店員だと思われて、これで常連が一人いなくなっては、その分の売り上げが失われることへの懸念もあった。
     一人くらい減ったところで、直ちに困るほど切羽詰まっているわけではないが、とびっきり稼ぎが良いわけでもなく、客が減るのは決して面白いことではない。
    「まあ、近くに住んでるので」
     しかし、少女は特に警戒した風でもなく、そのまま財布からお金を出してくるので、中年としても淡々とお釣りを出した。
    「だよね。ま、今後も通ってくれると助かるよ」
     あまり長々と足止めしようとはせず、無難に会話を打ち止める。
     すると、少女は会釈だけして店を去る。
    「あーあー。やっちまってないといいけど」
     表情には何の警戒心も窺えず、まあ平気だろうとは思うのだが、後から怖がられては少し嫌だなと、後ろ向きな想像をしてしまう。例えば家に帰った後、そういえば店員に声をかけられたな、と思い出し、よく考えれば急に声をかけてくるなど不審者の行動ではないか? と、後出しジャンケンのような恐怖を抱かれないとも限らない。
    「考えすぎ考えすぎ」
     やってしまったことの取り返しはつかない。
     それに、自分が勝手に悪い方に想像しているだけで、案外何も怖がられることはなく、今後も普通に通ってくれたりもするだろう。くれなかったとしても、やはり一人くらいで直ちに困るわけでもないので、考え過ぎたところで仕方がない。
     さっさと切り替えて、なるべく忘れるように努めていた。
     その数日後、同じ少女がごく普通にやって着て、ごく普通に一品ばかり買っていくので、やはり考え過ぎだったのだな、などと思いながらお釣りを渡す。その一週間後にはリストバンドを買いに、さらに数週間後には靴下を買いに、少女は店に通い続ける。
     もう声をかけはしていない。
     下手に絡んで警戒されても嫌なので、無言の店員として振る舞っていたのだが、ある時になって急に少女の方から声をかけてきた。
    
    「……あの」
    
     客が店員に話しかけたのだ。
     当然、想像するのは商品のことで何か相談があるのでは、というものだったのだが、次に少女が口を開いた時、むしろ中年の方がぎょっとした表情に染まり上がった。
     恐ろしいことを考える子がいたものだ。
     そんな話を持ちかけられて、良識ある大人としては毅然と断るべきだったのだろうが、やはり自分にも邪悪な欲望はあったのだろう。中学生や高校生の肉体に魅力を感じて、手を出してみたい願望はいくらか抱いた覚えがあり、それを実現する計画が持ち込まれて、中年は頭を悩ませてしまっていた。
     悩んだ結果、頷くことにした。
     良心よりも、欲望を優先しようと決めたのだった。
    
         *
    
     先輩は嫌味すぎる。
     別に性格が悪いわけじゃなくて、むしろ良い方だと思うけど、それがもう逆に嫌味になる。華があるのに気取っていないし、努力も欠かさずストイックで、大会では結果を残す。バスケットボール部所属の鹿野千夏という先輩は、欠点のない完璧超人に見えてしまって、もうそれが何か嫌だ。
     それとなくバスケを始めた時期を聞いてみたら、バスケ歴はそう変わらなかった。
     なのに先輩は試合の時にコートに入り、自分はいつもベンチで見ているだけ。
     極めつけは男子の注目を集めているところ。スポーツ強豪校の部員としては、やっぱり恋よりも部活とは思うけど、でも結局は男の子にも興味はあって、気になる男子の一人や二人は現れる。
     まだ、どれもはっきりとした恋にはなっていないけど、もしかしたらこの人なら、いずれ熱い気持ちが育つかも。自分が好きになる相手は、この人なのかも。そう思える男子を見つけたのに……。
     恋できるかなーって思った矢先、決定的なものを見てしまった。
     たまたま水族館に遊びに行ってみたら、そこでデートをしている先輩と、それから猪股大喜の姿を……。
     なんで、よりにもよって、あんなのを見かけちゃったのかな。
     そんなのっていない。
    
     ――なんでアイツばっかり……。
    
     心の中に邪悪なものが膨らんできた。それをどうしようもなく抑えきれなくなって、何か悪いことでもしてやらなきゃ、だんだん気が済まなくなってくる。人はこうやってイジメの犯人になるのかな、なんて思ったりもした。
     で、どうすれば先輩を穢せるか。
     その計画まで考えついてしまった。
     同じバスケ部であることを利用して声をかけ、二人きりになる機会を作って店に向かう。そうすればあとは仕込みを行って、その先のことは店員さんにお任せして……。
     つまり、店員さんの協力が必要なことなので、頼みにいく必要があった。
     でも、普通はやってくれないだろうな、なんて思っていたけど、それでも抑えきれない衝動に押されて、足はスポーツ用品店に向かっていた。
     本当は怒られると思っていた。
     我ながら緊張しきった顔で計画を伝えた時、一体その店員のオジサンはどんな反応をしてくるか。それがもう怖くて怖くて、その時の気持ちはもう完全に、悪いことがバレた後、怒られるのを待つばかりの感覚そのものだった。
     普通の常識的な反応で、きっぱりと断ってくるかもしれない。冗談として扱われ、まともに取り合ってくれないかもしれない。
     ――それか、大真面目に説教してくる。
     そう、怒られても仕方がない。
     悪事に荷担して下さいなんて言われたら、怒り出すのも無理はない。しかも、交流が深いわけでも何でもない、ただ客の一人におかしな計画を持ちかけられて、何か企んでいるんじゃないか、美人局の一種じゃないかとか、疑われても仕方がなかったとも思う。
    
    「いいよ? やってみようじゃない」
    
     店員の答えを聞いた時、まずは怒られなかったことに安心した。
     そして、次の瞬間にあったのは、魂が別の色に染まっていく感覚だった。人として踏み入れてはいけない領域に踏み込んで、そのせいで変わってしまう自分という感覚があった。もう今までの自分ではなくなって、背中に罪を背負った自分に変わってしまうのだと、そう思うと急に恐ろしくなってきた。
     けど、後戻りはしなかった。
     計画通りに先輩を誘い出し、バッグの中に未精算の商品を仕込んでやった。それができるように、隙を見てこっそりとチャックを開けておく準備までして、ついにこの手を悪事に染めてしまった。
    
     先輩を万引き犯に仕立て上げるために――……。
    
     計画は単純なもので、ただそのためにはバッグが半開きになっていないと成立しないから、そこはかなり不安だったけど、上手くいってしまった。
     こちらで未精算の商品をバッグに押し込むので、店を出ようとする先輩に声をかけ、万引き犯として追い詰めて欲しい。学校に電話する。親にも連絡する。脅しを駆使して、できれば陵辱して欲しい。
     つまり店員のオジサンには、これから犯罪を犯して下さいとお願いしたわけで、これで人の道を外れてしまった。
     見返りとして先輩を好きにできるとはいえ、下手をしたら警察沙汰になって、自分達の方が捕まるかもしれない。だから伝えた時ほど緊張したことはなかったし、先輩に声をかけたり、誘い出したり、そして小さな商品をバッグの空きかけのチャックの奥へ差し込む時も、ありとあらゆるタイミングで心臓がバクバクしていた。
     でも、やり遂げた。
     やり遂げた瞬間から、染まり変わった魂がもう二度と元には戻らないんだって、そう思ったけど……。
     でも、先輩だって悪いんだ。
     せめてレギュラーにさえなれたら、こんなやり方には走らなかったかもしれないのに、先輩が完璧すぎるから悪いんだ。
    
    「ちょっと待ってくれないかな」
    
     私の隣へと――先輩へと……。
     何も知らずに店を出ようとした先輩の背中へと、計画通りに店員の声がかかった。
     緊張のせいで、この時もやっぱり、心臓はバクバクいっていた。
    
         *
    
     わけがわからなかった。
    「君、未精算の商品を持っていないかい?」
     この時ほど、鹿野千夏の頭に疑問符が浮かんだことはない。万引きの疑いをかけるような声をかけられ、まず真っ先にきょとんとして首を傾げてしまっていた。
    「え、私……。何も触ってないのに……」
     後輩に付き添いを頼まれて、スポーツ用品店に入ったものの、千夏自身には何の買い物の予定もない。適当に商品を眺めて回り、後輩がレジに向かう姿を見届けた後、自分は何も買わずに店を出ようとしていた。
     千夏と後輩で二人並んで、自動ドアの向こうへ出ようとした時、急に店員から声をかけられ、バッグの中身を確認させろとまで言われたのだ。
     わけがわからなかった。
     何にも触っていないのだから、うっかり会計を忘れているはずもない。間違いを起こす余地などないはずで、しかし店員があまり言うので確認させざるを得なかった。
    「せ、先輩……」
    「大丈夫だよ。何かの間違いだと思うし、先に帰ってていいよ?」
     不安なことに付き合わせるのも悪いと思い、ついそう言ってしまったが、本当は一緒にいて貰った方が良かったかもしれない。
     人を疑いの目で見て来る店員にバッグを渡し、そのバッグがレジの台へと置かれた時の、容疑者として扱われる感覚といったらない。警察の世話になっているわけではないが、一種の取り調べを受けている気分そのものだった。
    (あの子、心配してたよね)
     何かを誤魔化したいように、千夏は帰っていった後輩に意識を傾ける。
     先輩が万引きをするはずはないと、きっと信じてくれているとは思いたい。店員が千夏を疑うのも、何かを見間違えてのことだろう。商品に触ってすらいない以上、何も出て来ることはないはずだと、千夏自身は信じて疑わなかった。
    「これ、なに?」
     しかし、包装されたリストバンドが出て来た時、千夏はさすがに青ざめていた。
    「えっ、そんな……だって……」
    「どういうことかな?」
     どういうことかと言われても、リストバンドなど見てもいなかった。一体いつから、どうやってバッグに紛れ込んだか。聞きたいのは千夏の方だったが、店員が向ける疑惑と嫌悪の眼差しに、自分が犯罪者として見られているショックで胸を撃ち抜かれた。
    「本当に違います! 何かの間違いで……」
    「間違い? なら、どうして入ってるの?」
     確かにそうなのだ。
    「それは……」
     自分のバッグが漁られる光景を面白くない気持ちで見守って、その結果として商品は出て来ている。チャックの外側に乗っかったり、アクセサリーに引っかかっていたのなら、棚からたまたま落ちて来たものだと言えただろう。
     どうして中から出て来たのか、千夏には本当にわからない。
     千夏の脳裏には、一体どうするべきなのか、どう答えるべきなのかの、様々な迷いと焦りが吹き荒れていた。
     ――認めて謝る? やってないのに?
     ――でも、わざとじゃないって、どうやって信じてもらえばいいの?
     ――お金を払う?
     ――払って済むの? ごめんなさいで帰してもらえるの?
     万引きをやってみようなど、まず思いつきすらしていなかった千夏である。こうした事態の想定もしているはずはなく、何をどう選択するべきかもわからない。自分が犯罪者として扱われている衝撃と、何が起きて、どうして商品が入っていたかもわからない困惑と、このまま自分はどうなってしまうのかの恐怖や不安で、心も体も緊張しきってしまっていた。
    「とりあえず、事務所の方に来てもらえる?」
    「……はい」
     千夏はひとまず従った。
     店の裏側に初めて入り、千夏はひとまず座らされ、椅子を使って向かい合う。真っ直ぐに千夏を見つめて、険しい疑念の眼差しを向けてくる中年の表情に、千夏はどんどん肩を縮めていく。
    「じゃあ、詳しく聞かせてもらうかな」
     詳しくも何も、どうやって商品が紛れ込んだか、その想像すら千夏にはつかない。
    (万引きはしていない。それは間違いない)
     心の中で整理して、千夏はゆっくりと息を整える。
    (……チャック、空いてた?)
     バッグが元から開いていたせいで、どうにかして気づかないうちに紛れ込んだのではないか。その後、何かしらの挙動や様子を疑われ、こうして事務所にまで連れていかれることになったのではないか。
     頭の中でそう推測をつけてみるものの、それを具体的に証明できるわけではない。
     だいたい、どう奇跡的に棚から商品が落ちて来て、バッグの中にまで入ったのか。そんな想像が千夏自身にもつかないのだ。
    (信じてはもらえない……よね……)
     もう完全に、窃盗犯として見做されている。
     たとえ無実の罪であっても、素直に認めて頭を下げ、許しを請うしかないのだろうか。
    「…………」
     千夏は俯き、自分の両膝だけに視線を注ぐ。ジャージ素材のハーフパンツを無意味に凝視して、どうにか自分の取るべき行動を決めようと思考を巡らす。
    「何か言ってくれないかな?」
     助けを求めたい気持ちが湧いてきた。
    (……大喜くん)
     あの真っ直ぐなバドミントン馬鹿が傍にいたなら、千夏がそんな真似をするはずはないと、必死に熱弁してくれただろうか。少なくとも、庇おうとしてくれる姿は簡単に想像できて、それだけに今は自分一人であることが心細くなってきた。
    「君、栄明だよね?」
    「……は、はい」
     学校名を口にされ、心がひやりと冷たくなる。
    「学校に電話しようか?」
     その瞬間に吹き荒れたのは、このまま連絡されてしまっては、部活動がどうなるかという不安と恐怖であった。いくら無実であったとしても、それを証明する手立てもわからず、これでは万引き犯として停学や謹慎のような処分を喰らいかねない。
     そして、生徒が犯罪を犯したら、その責任は千夏自身だけでは済まない。
     頭をよぎるのは、部活の活動停止や大会への出場停止だ。
    (駄目! それは駄目!)
     インターハイを目指す千夏自身の努力はもちろん、チームメイトのみんなもそれ相応の努力をしている。たった一人の行動のために、それを全て台無しにさせてしまっては、自分で自分を許せない。みんなにどう恨まれても仕方がなくなる。
    「……すみません。やめて下さい」
    「へえ、どうして?」
     威圧的に尋ねてくる中年を真っ直ぐ見据え、千夏はぐっと屈辱を堪えて頭を下げた。
    
    「どうも申し訳ありませんでした」
    
     違う、自分じゃない。やっていない。どうして、やってもいないことで謝るのか。悔しい思いが嵐となって胸中を掻き乱し、本当は無実を叫びたい思いが滲み出る。意地でも無実を主張して、それを信じさせたい気持ちがいくらでも膨らんでくる。
    「認めるわけね」
    「……」
    「でも、謝って済ませるわけにはいかないよね? 家に連絡しようか?」
     背中に冷たい物が当たった心地がした。
     親戚として住まわせてもらっている家に連絡がいけば、その結果として大喜にも万引きは伝わるだろう。
    (それは駄目……!)
     どうしようもなく、嫌だった。
     何故だか、それだけは決してあってはならない事態に思えて、家への連絡と聞いた瞬間の猛烈な拒否反応から、千夏は下げた頭を勢いよく振り上げていた。
    「すみません! どうしたらいいですか!?」
    「どうしたら、ねぇ?」
    「いくらでも謝ります! だから、連絡は……」
     そうとしか言えなかった。
     いくらでも謝罪して、何なら土下座もするようなことしか、千夏の頭に浮かぶ言葉はない。誠意を見せて切り抜ける以外の道がわからずに、とにかく謝り通そうと必死になった。
     やってもいないことで――。
     その屈辱に歯を噛み締め、千夏は何度でも頭を下げようとしていた。
    
    「ま、とりあえずさ。他にも何か盗っていないか、確認させてもらえる?」
    
     中年のその言葉に、千夏は頷くことしかできなかった。
     一体、どんな風に確認するのか。その想像すらすることもなく、誠意のためにも千夏は反射的に受け入れていた。
     その時だった。
    
    「あらあら、どうしちゃったの?」
    「何か大変なカンジだねぇ?」
    
     さらに二人の中年が現れて、すっかり血の気が引いていた。
     それでなくとも追い詰められている状況で、より危機が増してしまったような感覚だった。
    
         *
    
     中年が犯罪談に応じたのは、実のところ仲間がいたからだった。
     それまで、中年自身は何の犯罪もしたことがなかったものの、友人の中には盗撮を自慢してくる人物が二人もいた。スカートの逆さ撮りをした。電車で女子高生の尻を触った。そうしたことを嬉々として語ってくるので、あまりやるものじゃないと、酒で顔を合わせるたびに諫めはするが、どちらもやめる気配はない。
     警察の二文字が何度頭を掠めたかもわからないが、犯罪自慢をしてくることさえ除けば、それぞれ気の合う友人なのだ。友情が邪魔をして、通報に踏み切る真似はできないまま、諫めるポーズを一応は取っておくだけの形を取って、今までずるずるとやってきた。
     これまで、想像もしたことがなかった。
     まさか自分が犯罪に手を染めて、女子高生に手を出そうとするなどとは……。
     最初に話を持ちかけられた時、おそらく自分一人だけであったら、結局は拒んで終わりだっただろう。冗談でも友達を売るようなことは言うものじゃないと、軽く諫めて済ませただろうが、犯罪自慢の友人二人の顔が脳裏を掠めた時、心は邪悪の方へと傾いた。
     そして、中年は話を聞き入れていた。
     鹿野千夏を万引き犯に仕立て上げ、事務所で追い詰めて陵辱する。
     その計画はいよいよ最終段階だ。
    
    
    

    
    
    
     千夏は椅子から立ち上がり、運動着のシャツを掴んでいた。
    「…………」
     だが、千夏は始終無言のまま、掴んだきりのシャツをどうすることもできずに、ただただ沈黙と共に立ち尽くしていた。
     中年から言われたのは、服の内側に隠していないかの身体チェックだ。
     それを聞いた瞬間から疑念を胸に、そういう目的ではないかと警戒したが、では万引きの件はどうするのか。服を脱ぐことは拒否しながら、学校にも家にも連絡させないなど、そんな真似ができるのか。
     迷った挙げ句、椅子からは立ち上がり、ひとまずシャツを掴んでいた。
     それをたくし上げるわけでもなく、どうしても脱衣に踏み切れないまま固まっているのが、現在の千夏というわけだった。
    「あらまぁ」
     長髪中年がにやりと笑う。
    「どうしちゃったのぉ?」
     白髪中年もまたニヤけていた。
     同じ店員なのか、何なのかはわからないが、このさらに二人の中年は急に現れ、関係者のような顔をして店員の背後に居付いた。店員は二人に何を言うでもなく、そのまま身体チェックを言い渡してくるので、千夏も立ったままシャツを掴み続けているが、実に三人分もの視線があるのも、脱ぎにくい原因の一つであった。
     一対一の状況ですら、当然の抵抗感がある。
     いくらスポーツで鍛えていても、男の力で本気で襲われては分が悪い。女の身に生まれたための、強姦に対する本能的な恐怖と警戒心から、それは越えてはならない一線だと警告してくるような、神経が発するシグナルが全身を駆け巡った。
    「ほらほら」
    「いつまで躊躇ってるのかなぁ?」
    「早くしないと連絡しちゃうけど?」
     店員がこれみよがしに電話に手を伸ばすフリをしながら、三人がかりで煽るような圧力をかけてくる。このまま脱がずにいるわけにはいかないような、かといって裸になんてなりたくない板挟みに囚われて、千夏は苦悩の中に陥った。
    「いい加減にしないと、本当に電話するよ?」
     そして、プレッシャーをかけられ続けた。
     躊躇っている時間の分だけ、視線や態度まで駆使した無言の圧力をかけられ続け、言葉によっても苦しめられ、とうとう千夏はシャツをたくし上げていく。そうしなければ苦しみから解放されることはないような、他に道などありはしないような心理に陥り、泣く泣くとそうしていた。
     一枚目を脱いでいく。
     シャツを脱ぐ際の、視界が一瞬だけ布に隠れる時を経て、千夏の目の前に並ぶ三人の顔付きが変わっていた。着衣の女子高生を前にした視線から、下着の女子高生を見る眼差しへと、その一瞬によって切り替わっていた。
     頬が染まっていく。
    「へえ、スポブラか」
    「運動に適したものがいいもんねぇ」
    「練習で汗を吸ってるんだろうねぇ?」
     白いスポーツブラジャーに向け、三人揃って口々にコメントを飛ばして来る。見られるばかりか感想まで言われる恥ずかしさに頬が強張り、千夏の表情は歪んでいった。
    「ほーら」
    「続きが残っているでしょう?」
    「下の方もチェックしないとね?」
     下着を視姦される恥ずかしさに耐えながら、千夏はジャージ素材のハーフパンツに指を入れるが、腕が震えて動かない。ますます恥ずかしくなるのがわかりきっている上、これからどんな目に遭うかもわからない恐怖が腹の底には広がっていた。
     やはり、猥褻目的になっていないか。
     だからといって、目の前にいるのは三人もの大の男で、逆らったり逃げたりすれば、かえって暴力を振るわれるかもしれない不安から、逆らいたくても逆らえない。
     ハーフパンツを脱ぐにも、千夏は長らく躊躇っていた。
     躊躇うだけ躊躇って、それに対して圧力をかけ続けてくる三人に屈する形で、千夏はハーフパンツを下ろし始めた。
    (どうして……こんな……)
     ただ後輩の誘いに付き合って、適当に陳列棚を眺めていただけなのに、それでこんな事態になっている理不尽に、運命すらも恨めしくなってくる。
    「パンツもスポーツ用なんだよね?」
    「汗をよく吸ってるのかな?」
    「これで下着だけになっちゃったねぇ?」
     下着姿となった心許なさと恥ずかしさに、千夏は赤らみきった顔で下を向き、床の素材や自分自身の爪先ばかりを凝視する。
    「おっと、調べないとね」
     店員は脱いだものへと手を伸ばし、まずはシャツからチェックする。内側に何か隠れていないか、ポケットの中に何かがないか。他に盗ったものがないかを調べているが、何も出てこないはずである。
     バッグはともかく、身体にまで紛れ込めばさすがに気づく。
     かといって、千夏が何も盗っていないと知っているのは、ここにいる中で千夏自身だけなのだ。
     店員はハーフパンツも持ち上げて、ポケットに指を入れるなどして確かめる。
     それが終われば、次は一体何が待っているのか。その薄々とした予感に千夏は緊張しきっていた。お願いだから杞憂でありますようにと、心の中では必死に祈っていた。
     しかし、祈りなど通じない。
     脱いだもののチェックが終われば、その次のチェックを言い渡される流れは、頭のどこかでは薄々わかっていた。
    
    「次は下着も脱ごうか」
    
     恐れた通りの言葉を聞いた途端、千夏は全身を固く強ばらせた。
     脱げるわけがない。
     だが、脱がなければ許してもらえるはずがない。いや、しかし脱いでしまえば、猥褻目的と化した男達は、一体次に何をしてくるかもわからない。あらゆる予感が不安と共に押し寄せて、千夏は震え始めていた。
    (無理……こんなの…………)
     やはり、脱げるわけがない。
     下着姿だけでさえ、かなりの苦痛と羞恥を感じているのに、これ以上など想像できない。
     しかし、躊躇えばためらうだけ、やはりプレッシャーをかけられ続ける。やがて千夏が観念するまで、どれだけ時間がかかろうとも、男達は延々と高圧的な態度を取り、嫌な言葉を投げかける。電話をかけようとしてみせるなどして、千夏のことを繰り返し脅かす。
     その果てに千夏はスポーツブラジャーに手をかけて、ついにそれさえ脱ぎ始めていた。
    
         *
    
     後輩と一緒にどこかへ寄り道に行く姿は見たが、それにしても帰りが遅い。
     いつまでも帰って来ないので、両親にも聞かれたが、猪股大喜にも千夏がここまで遅くなる理由がわからない。スマートフォンを見てみても、そこには何のメッセージもなく、試しに送った文章にも今のところ返事がない。
    『千夏先輩、いつ帰りますか? うちの人達、そろそろ心配してますけど』
     と、そう送ってあるものの、今のところ既読もつかない。
     そのずっと前にある千夏からのメッセージでは、寄り道をするので少しだけ帰りが遅くなるとある。つまり、それに対する返信の形で心配していると伝えたわけだが、どうして既読すらつかないのか。
    「まあ、どこかで夢中になってるんだろうけど……」
     ベッドに背中を落とし、天井を見上げて想像するのは、友達との時間が楽しくて、つい連絡も忘れてしまっている姿である。
    「いや、なんかなぁ……」
     大喜に言わせれば、少しだけ無理のある想像だ。
     ストイックに練習をこなし、睡眠時間にも気を遣う千夏が連絡も無しに遅いのは、さすがに珍しい話である。いつまでも体育館に居残って、延々とボールを投げ続けているせいで遅れる
    方が想像しやすい。
     ただ、現に今まで帰って来ないまま、メッセージにも返事がない。
     そして、後輩と寄り道をしているとなれば、考えられる展開としては、楽しい時間に夢中になって、ついついといったものくらいだ。
    「あんまり遅いようなら、探しに行くか」
     少しだけ、ほんの少しだけ、大喜の胸はざわついていた。
     しかし、まさか万引き犯に仕立て上げられ、事務所で追い詰められている最中など、いくらなんでも想像できるはずもなかった。
    
         *
    
     スポーツブラジャーをたくし上げ、とうとう乳房を晒したのも、やはり羞恥心や恐怖から、躊躇いに躊躇った末のことだった。
     頬の内側に見えないものが吹き荒れて、皮膚を内部から焼き尽くそうとしてくるような、激しい感情に千夏は囚われていた。片方の腕で必死になって胸を隠して、決して見えないように気をつけながら、腕と肌の隙間から引き上げていく形で、右手だけを駆使して脱いだのだ。
     上半身裸となり、机の上に脱いだものを置いた途端、店員の手にスポーツブラジャーは取り上げられる。
     いくら腕で隠しているとはいえ、もうショーツしか残っていない心許なさを味わいながら、しかも下着を触られている状況に、千夏は恥辱で表情を歪め尽くした。
    「体温が残ってるねぇ?」
     わざとらしい言葉をかけてきながら、店員は両手でブラジャーを広げている。物など隠せるはずもないのに、わざわざ指でなぞって確かめて、繊維の肌触りを確かめている。それはしかも、布の裏側の、乳房が当たる部分であった。
    「お願いします……」
     千夏は堪らず口にする。
    「もう……許して…………」
     ここまでしたのだ。
     だいたい、無実なのだ。
     こんな目に遭わなくてはいけない理由がそもそもないのに、もうこれ以上は無理とばかりに許しを求め、心の底から懇願していた。
    「でもさ、その腕は何?」
     長髪中年が言う。
    「誠意ってものがないよねぇ?」
     白髪中年もここぞとばかりに指摘してくる。
     腕で乳房を隠しているのは、反省の足りていない証拠であり、本当に誠意を見せようと思うなら、きちんと気をつけの姿勢になるはずである。それができないのは、心のどこかに『万引きくらいで何だ』という気持ちがあるからだ。
     二人がかりでそんな論調を唱えてくる。
     声量を上げてまで、威圧的に行ってくる説教に、千夏の心は追い詰められる一方で、やはり圧力に押し負ける形で千夏は腕を下ろしていた。
    
     かぁぁぁぁ…………!
    
     と、乳房を曝け出した瞬間から、ますます顔は赤らんでいた。
     貧乳というほど貧しくはなく、かといって大きいとも言い難い。皿よりは厚く、茶碗よりは薄いボリュームの、淡い桜色の乳首を生やした胸に三人の視線が注がれる。恥ずかしい部分を凝視され、千夏のそれでなくとも加熱していた頭はより一層のこと熱を上げていた。
    「うんうん、それでいいんだよ」
    「可愛いおっぱいだねぇ?」
    「しゃぶりたくなっちゃうよ」
     説教の時は大真面目な顔をして、さも正しい論調で責めていたのに、いざ腕を下ろした瞬間から、その表情はいやらしいものに変わっていた。視姦目当てでしかなかったような、ニヤニヤした眼差しは耐えがたかった。
    「すみません……もう許して下さい……お願いします…………」
     歯を噛み締め、千夏は改めて謝った。
     無実なのに、無実なのに、無実なのに――納得いかない思いが反芻して、だからこそ胸が締め上げられている。万力で潰されるように痛む心は、しかも羞恥の熱で燃え盛り、顔の赤らみを耳まで及ばせようといているのだ。
    「まだパンツが残ってるよね?」
    「それも脱いで?」
    「これは身体検査なんだからさ」
     今度はショーツに狙いが定められていた。
     千夏はもちろん躊躇って、抵抗感からすぐには脱げない。ゴムに指を入れこそしても、固く強張った腕が動いてくれない。
     しかし、それに対する三人の行動は、やはり圧力をかけ続け、脱げないことを責め立ててくるものだった。千夏がショーツを下ろし始めるまで、千夏こそが悪者であるように糾弾する。実際に万引き犯ということになっている以上、正義は自分達にあるというわけに違いなかった。
    (なんで……いつになったら……)
     千夏はショーツを下ろしていく。
     下ろせば下ろすほど、それが足首に近づいていくほどに、万力の力が強まるように胸の痛みは大きくなる。耳もはっきりと真紅に染まり、首から上の全てをまんべんなく染め変えて、千夏はショーツを脱ぎきっていた。
     そのスポーツショーツを寄越せとばかりに、店員は手を千夏へと伸ばしてくる。
    「…………本当に、これで許して下さい」
     そう言いながら、千夏は歯を噛み締めながら、顔中を激しく歪めながら手渡した。本当は隠しておきたいアソコも、腕を下ろさせられたことから隠していない。またもや説教されるより、初めから曝け出しておく道を選んだ結果、当然のように視線はワレメに突き刺さった。
     長髪中年と白髪中年は、血走った目で鼻息まで荒げている。
     その一方で、店員は目の前でショーツを触っている。好きなように弄び、裏返すなりクロッチの部分もチェックして、店員は繊維の表面をくまなく調べ尽くしていく。商品が隠れている余地などないのは、見れば一目瞭然のはずなのに、やけに詳しく撫で回して、その末にようやくショーツは机の上に放られていた。
     ここまでしたのだ。
     全裸にまでなったのだから、いくらなんでもこれで許してもらえなければ納得できない。
    
    「あとは穴のチェックだね」
    
    「そんな……!」
     千夏の顔には絶望さえ浮かんでいた。
    
         *
    
     千夏はテーブルで仰向けとなっていた。
     周りを三人に囲まれながら、不安と恐怖でならない顔で、しかし青ざめる余地もないほど真っ赤な顔で、脚をM字に広げている。直立の時に比べて、はっきりと見えやすくなったアソコに視線は集中して、それが余計に羞恥を煽っていた。
     女なら物を隠せる穴がある。
     そんなことまで言い出して、中身を確認させろと言われた時の絶望といったらなかったが、拒もうにも時間をかけた圧力で攻撃して、意地でも千夏の心を追ってくる。やがて千夏が押し負けるまで、延々とゴリ押しを行う方法で、結局は必ず従わされていた。
     ベンチ型のソファに挟まれたテーブルで、股をあけっぴろげにした千夏の前へと、店員はしゃがみ込む。アソコにぐっと顔が近づくことで、ただでさえ激しく吹き荒れる羞恥心は、その勢いを増していた。
     嵐のあまりに頭部を内側から削り取っていくような、凄まじい熱の嵐に苛まれ、千夏の顔にはまるで拷問でも受けているような苦悶が浮かび上がっていた。
    「うぅぅ…………!」
     指が挿入されてくる。
     男によって与えられる異物感に、千夏はますます苦悶していた。恋をして、大切なパートナーを見つけた時でなければ、決して触らせることのなかったはずの、重要な部位にこんな形で接触されて、千夏は苦痛を顔中に滲ませていた。
     幸いにも、実際の痛みはない。
     しかし、究極のプライベートゾーンを他人に侵略されている感覚で、苦悶と苦悩が顔中に満ち溢れ、羞恥による熱気もかなりのものとなっている。額に触れれば高温がもろに伝わってきそうなほど、真っ赤な顔から熱の揺らめきは漂っていた。
     指が根元まで入ったことで、拳の部分も股にぶつかる。
    「どうかな?」
    「何かあるかな?」
     あるはずがない。
     だいたい、何をどうしたら下着の内側に物を隠せるのか。アソコの穴に入りうる商品が一つでもあったのか。それさえ疑問でならなかった。
    「ま、ないみたいだね」
     当たり前の答えを述べて、店員は指を引き抜く。
     これで、終わっただろうか。
     少なくとも、他にはもう盗ったものは何もないと、それだけは証明されたはずである。ここまでやって、なおも疑う余地などないはずだ。
    
    「じゃあ、あとはお仕置きかな」
    
     その言葉に千夏は引き攣る。
    「ま、待って下さい! お仕置きって何ですか!?」
    「当たり前じゃない。盗ったのは一個だけだったみたいだけど、万引きには変わりないし、それで家にも学校にも連絡しないで欲しいんでしょ?」
     店員がベルトを弄り始める。
     その時点で千夏は凍りつく。これから起こることへの恐怖で、まずは身が竦んで固くなり、次の瞬間には逃げだそうとしていた。
     だが、逃げることすらできなかった。
    「おっと」
    「動いちゃダメだよ?」
     両側から腕が伸び、手足が押さえられてしまい、千夏は身動きを封じられていた。店員がベルトを外し、ズボンを脱いでいく前で、ただ大人しくしていることしかできなかった。抵抗で身を捩り、そればかりは避けようともがいていたが、男二人がかりで押さえられては無意味であった。
     トランクスまで脱いだ店員が迫って来る。
    「お願いします! 許して下さい! 許して……それだけは……!」
     必死の懇願も無意味であった。
    
     ずにゅぅぅぅぅぅ………………!
    
     固くなった逸物があっさりと押し込まれ、股には男の腰が密着してきた。正常位で挿入してきた店員の、奪ってやったと誇らしげにしてくる表情が目前に迫り、千夏は涙を零していた。
    「いやぁ……あぁぁ……!」
     痛みと苦しさへの喘ぎであった。
     生まれて初めての挿入で、破瓜の血を流した上に、太さによって穴を内側から押し広げられる圧迫感もあっての苦しさで、千夏は脂汗を噴き出していた。感じるものに快感はなく、身体の一部を抉られでもしているような苦痛に髪を振り乱していた。
    「んぅぅ……んぁぁ…………!」
     店員の腰は徐々にスムーズにピストンする。
     最初は動きがおぼつかず、どこか探り探りだったのが、慣れていくにつれ軽やかに、手慣れた経験者のようになっていき、やがては活発な腰振りとなっていた。
    「気持ちいいなぁ? 女子高生の生性器は」
     店員は満足そうに千夏の膣内を味わっていた。
    「いやぁ……あっ、あぁ……!」
    「これならすぐにイケそうだよ。二人はちょっと待っててね?」
     店員は長髪中年と白髪中年の二人に目配せを行って、それを契機にピストンだけにのめり込む。千夏の表情を眺めたり、股間に意識をやることだけに集中しきって、いつの間に乳房に両手まで置かれていた。
     乳を揉まれながら、ピストンもされていた。
    「あぐぅ……! んぐぅぅ……!」
     苦悶に歯を食い縛る。
    「はぁ……いいよぉ……!」
     満足そうにうっとりとしてくる表情は、気持ち悪いといったらなかった。
    「あ……ぐっ、ぐぅ…………ぐぅ…………」
     千夏の脳裏に掠めるのは、ありとあらゆる後悔の念だった。
     一体、どうしたらこうならずに済んだだろう。
     後輩の誘いを受けたのが、果たして運命の分岐点だったのか。それとも、その後の千夏の行動が間違っていたのか。
     だがおそらく、急に万引き犯を疑われた上、身に覚えのない商品が出て来たショックのせいで、どちらにしろ冷静な判断は難しかったことだろう。衝撃に心を揺らされ、思考力が少しでも鈍った頭で大人のプレッシャーに対するには、女子高生ではまだ未熟すぎた。
     試合本番という緊張や、チームメイトの期待といったプレッシャーには慣れていても、悪人扱いされて追い詰められることになど、慣れているはずなどなかったのだ。
    
         *
    
     猪股大喜はさすがに家を飛び出していた。
     連絡先のわかる何人かに千夏の所在を尋ねようとは思ったが、千夏が大喜の家に居候をしているのは、ほとんどの人には秘密にしている。聞くに聞けず、千夏へのメッセージをもう何件か送った後、当てもなく夜の町を駆け回る。
     だが、それで見つかるはずもない。
     道端にいるのでも、公園にいるのでもない千夏の姿を目にする余地など、町中を走り回る探し方ではあろうはずもなかった。
    
         *
    
    「んっ、んごぉ……!」
    
     千夏は前後から犯されていた。
     店員がひとしきり満足して、その身体に精液をかけた後、交代とばかりの残る二人が千夏に手をつけ始めたのだ。四つん這いのポーズを取らせ、長髪中年は後ろから、白髪中年は口の中へとねじ込んで、どちらも快楽を味わっていた。
    「いやぁぁ! いいもんだよ!」
    「盗撮も痴漢もしてきたけど、こういうのは初めてだもんねぇ?」
     長髪中年のピストンで、千夏の尻へと腰がぶつかる。その衝撃によって身体が前後することで、結果的に頭も前後として、前ではフェラチオが成立していた。噛んだら殴ると脅されて、必死になって口を開いている千夏の口内は蹂躙され、暴力的な太さが出入りを繰り返した。
    「記念もばっちりしておかないとね」
     その隣では、店員がカメラを構えている。
     犯されるばかりか、こんな姿を動画にまで撮られているのだ。
     千夏の絶望といったらなく、もはやショックで放心しきり、途中からはしだいに目が虚ろとなっていた。
     やがて口内に射精され、尻にも生温かいものがかけられる。
     それで終わることはなく、次は体位を変えての挿入で、まだ膣には入れていない白髪中年が正常位で押し込んでくる。そして、左右からは二人が肉棒を握らせての、手コキとセックスによる三本を同時にしごく状況に持ち込まれ、千夏は無心のまま体を『使われて』いた。
     千夏自身の意思で動いてなどいなかった。
     握らされる際の、無力な指があっさりと肉棒を包んだ後、その手がきちんと動くこともなく、さながらオナホールで自らの股間を慰めるようにして、二人の中年は千夏の手を『使用』していた。
     千夏のことを一人の立派な人間として扱う敬意など、この空間にはありなどしない。
     バスケットボールがどれほど上手で、大会で実績を残した経験があろうとも、そんなことに関係無く、彼ら三人は千夏を性処理道具として使用していた。
     それは一人一回の射精などでは終わらない。
     千夏の身体にかかる負担など考慮になく、三人は順番に膣を使って肉棒を慰めていた。たまに体位を変えての性交で、正常位なら両手に握らせ、四つん這いなら口にも入り、必ず一人はカメラを構えて事を動画に撮り続ける。
     やっと解放される頃には、たっぷりと動画を撮ってあると脅された。警察に行けばバラ撒くという脅迫が脳に染み込み、股に散々出し入れされた苦痛の余韻を引きずりながら、生気を失った顔で千夏は店を出て行った。
    
     そして……。
    
     道端をぼんやりと、幽霊のような顔で歩く千夏をやっと見つけて、しかしその表情を見た瞬間、大喜はかけるべき言葉を失っていた。
    
    
    


     
     
     


  • 女王の呪いに救済あれ

     共和国からの帰投命令の下ったレーナは、一時的に帰国する。
     しかし、それは鮮血の女王を我が物にせんがばかりの、恥辱の罠なのだった。

    第1話 女王の呪い
    第2話 マイアーレの開発
    第3話 恥じらいの女王
    第4話 逆らえぬ検査
    第5話 まるで罪人のようにして
    第6話 剥奪という祝福
    第7話 救済あれ


  • 王族の母娘 検問の向こう側で2

    作品一覧

    
    
    
    前編 使用人となりし王族
    
     魔法力の高低がそのまま権利や地位の高さに関わり、魔力無き者は奴隷のような生活を強いられる。そんな魔力主義の国家において、魔法での決闘に敗北は、そのまま人権を失うことに繋がりかねない。
     たとえ魔力量そのものは大きくても、勝者と敗者という形で上下関係が決定され、負けた者は勝った者より格下とされてしまう。それが王族や貴族同士の戦いであった時には、政治の場での発言権などまず失われるわけだった。
     決闘法の存在により、立法の審議や行政など、政治的な事柄が実力によって決定された例は歴史上いくつかあるが、今回のそれは史上初のことになる。
    
     ――王族の敗北。
    
     この衝撃は国中を震撼させた。
     王族とは代々の血筋によって高い魔力を保障され、誰もが極大魔法を身に着けてきた。魔力と魔力のぶつかり合いなら、まず負けることのなかったはずの王族だ。だからこそ、力という名のカリスマに忠誠心は集まって、実に百年以上も支持をされ続けてきた。
     その王族が負けたという報せが国内に広まって、まず誰もがデマだと思った。王族の魔力を身近に感じ取った覚えがあったり、魔法力を見たことのある人間ほど、どこぞの地方領主ごときが勝ったなど信じない傾向にあった。
     王族の力に比べれば、あらゆる魔術師が野ウサギに過ぎない。
     猛獣を相手に野ウサギが勝ったと聞いて、それを信じる人間がどこにいるか。おとぎ話の中の出来事と捉えるのがせいぜいだ。王族の敗北と聞かされて、誰もの胸に湧き起こる感覚は、およそそういうものだった。
     しかし、真実は真実である。
     負けた王族を召し使いとして抱え込み、まさに奴隷のように扱っている。そんな確たる証拠が存在していれば、最初は信じていなくとも、やがて嫌でも信じざるを得なくなる。
     やがて、視察という名目で多くの者達が真偽の確認に訪れたが、その誰もがショックを隠せない顔で領地を出て、放心しながらぼーっと空を眺めることとなっていた。現実を見た上で報告を行って、それでもやはり信じない者がまた視察に赴いて、似たような表情で空を見上げることとなる。
     現実を目の当たりにした人数が増えれば増えるほど、自らの目で確かめるまでもなく、王族の敗北を信じる者もまた増えていく。
     そして、決してデマではない、れっきとした真実であることが広まれば、次に湧いてくるのは疑惑である。
     イカサマに違いない。
     何か卑怯な手を使ったのだ。
     忠誠心や信仰心など、慕う気持ちが強ければ強いほど、敗北の事実をそのまま受け止めることができずに、何か理由があるに違いないと思おうとする。
     件の勝者、領主ユミルが用いた手段は、確かに卑怯なイカサマではあった。検問所で事前に媚薬を使い、奴隷から吸い上げた魔力を行使することで、王族の持つ莫大な魔力に対抗した。その勝利への過程自体は、決して正々堂々とは言えないが、そんな勝ち方であっても勝利は勝利だ。
     イカサマといっても、その方法が良かったとも言える。
     不正な行為を働いて、たとえば魔力を減衰させる薬で実力を発揮できなくさせれば、それは本当の勝利には見えにくい。だが、魔力そのものは自由に使わせ、王族の魔力に対抗する場面を曲がりなりにも披露しており、視覚的にはユミルの力が上回って見えたのは、政治パフォーマンスの観点でも良いように働いていた。
     全員に好かれる王などいない。
     どれほど良心的な人格者でも、必ず誰かには嫌われる。
     加えて、強いからこそ、魔法力があるからこそ、それを信じて支持していた人間にとって、敗北と裏切りはイコールで結びつく。強いと聞いていたから応援したのに、てんで弱いのでは話が違うと、そういった感じ方をしてしまうわけだった。
     つまるところ、支持率は暴落した。
     チャンスさえあれば成り上がろうとする貴族もいる中で、王族の負けを都合の良い出来事と捉え、この気に王政を手中に収めようとする者まで現れて、国中の騒動はもちろん、王都城内も混乱を極めていた。
     まず、対立が生まれていた。
     それでも王族を支持しようとする人間と、王族の不在を利用して、我こそが不在期間の穴を埋めようと名乗りを上げ、そのまま王の立場に居座ろうとする貴族。王族の支持派と不支持派の争いが表面化して、対立構造が明確となっていた。
     女王の不在期間を埋めるための任命役は、もちろん用意されている。
     そして、誰がいち早く王族に成り代わろうとするかの競争で、同じ王族不支持同士であっても敵対するため、そのおかげで直ちに王政が乗っ取られることはない。城内の混乱や対立が続く代わりに、表面的には今まで通りの行政が続いていく。
     無論、それがいつまで持つかの保障はない。
     王の代役を務める人物やその補佐は、常に周囲からの口撃に晒されている。親切心を装って、大変な仕事を手伝ってやろうと言い出す手口もある。誰が敵で、誰が味方かもわからない状況は、人を疑心暗鬼にさせるには十分で、やがて忠臣のことさえ信じられなくなっていくのは、代役にとって時間の問題と言えた。
     この混乱を解決して、対立構造を解消する手段はただ一つ。
     領主ユミルの卑怯な手段を暴いた上で、決闘の再戦を挑み、一人でも多くの国民や貴族の前で打ち倒す。本来の力を見せつけて、敗北は何かの間違いだったとアピールする以外、もはや手立てなどないのであった。
    
         *
    
     もっとも、その王族たる母と娘は、ユミルの屋敷で使用人として働かされていた。
     揃って魔封じの首輪をかけられており、どんなに莫大な魔力を保持していようと、二人にそれは行使出来ない。魔力の起動からして封じる原理は、例えるなら燃料への着火そのものができないことと同じである。
     ただ無駄に存在するだけで、燃料として消費されることの決してない、無意味な油や薪のようなものと化す。
     しかも、そのユミル製の首輪には、設定された範囲の外には決して出られなくなる効果も付与されている。鎖に繋いだり、監視をつけるまでもなく逃亡を封じる術で、屋敷の敷地外へ出ようとすると、たちまち意識を奪われ気絶する。
     魔法は使えず、脱走もできない。
     そして、武器になるものは当たり前だが与えられず、ユミルの屋敷内には剣や槍などが一切ない。侵入者への対策や警備など、そういったことの全てを魔法に任せてあり、だから二人は反撃のチャンスをまず掴めない状況に置かれていた。
     魔法無しで戦う手段は、手で武器を操るくらいなものなのだが、そもそも屋敷内に余計なものを存在させないことで、入手できる可能性は皆無である。それでも入手しうる現実的な凶器となると、食器のナイフやフォークなのだが、ユミルにはそもそも警護を不要とするだけの力があり、そんなもので刃向かうことは現実的ではない。
     首輪を外さなければ、こっそりと逃げ出すことは不可能だが、その外す手段がない。鋭利な金属でがしがしと突いたところで、何年かけても壊れるような代物ではなく、外部からの魔力行使だけが唯一の方法だ。
     では適当なメイドや執事を捕まえて、誰かを脅して無理に外させる方法はどうかというと、屋敷に勤める人間は誰もが大なり小なり魔法を使える。日々掃除に励むメイドにすら多少の自衛能力はあり、兵士の訓練を積んでいるわけではない、魔力を使えなければ実力などないも同然の母娘には、そうした手段も実現性の低いものとなる。
     そもそも、解除方法は難解らしく、ユミルのレベルでなければ解除できない。
     だから、そういう方法が頭に浮かんだはいいものの、困難な手段を達成する意味が初めからないのだ。
     ユミルを脅し、ユミルを観念させる以外、自力で脱する手段はない。
     つまり、不可能と同じだ。
     こうなると、外部からの助けでもない限り、二人がここから助かる道はない。
     その外部からの訪問も、検問を通じてユミルに管理されており、またユミルは他の領地に圧力をかけ、政治的優位さえ勝ち取っている。王族を人質として扱っている上、他のいくらかの貴族と横の繋がりも持っているため、母娘救出の動きに対して牽制をかけやすい。
     聡い二人にとって、そうした政治的状況など、確かめるまでもなく想像だけで目に浮かぶ。
     希望も何もないままに、二人は使用人としての毎日を過ごしていた。
     首輪に加え、与えられる衣服は下着のみ、まともなシャツやスカートは与えられない。恥ずかしい格好で屋敷内を行き来することを余儀なくされ、それを他の使用人や訪問してきた貴族達にからかわれる毎日だった。
     しかも、その下着にしても、露出度の高いショーツを穿かされていた。
    
    「おうおう。いい尻だねぇ?」
    「確か、見るのは自由なんだろ?」
    「職務を怠らない範囲。つまり、やることやってあるなら見放題さ」
    
     二人は今、窓拭きの最中だった。
     広い屋敷の、いくつあるかもわからない窓を拭くため、窓拭き用の雑巾を手に、母娘は廊下で窓ガラスを磨いていた。
     金髪のロングヘアを髪留めに結わき、滑らかな背にポニーテールを垂らしたマリエルは、かすかに頬を染めながら、屈辱を堪えつつも作業に専念している。三八歳という年齢に関わらず、二十代半ばに見える外見は、男達の好奇な眼差しをいくらでも惹きつける。
     その娘であるアリシアは、腰まで届くロングヘアで背中を覆い隠している。母よりももう少しだけ赤い顔で、背後からの視線を気にしながらも、同じく窓拭きに専念しようとしているのだった。
     二人して、穿いているのはTバックだ。
     紐と紐を掛け合わせ、まさしくTの形を取った下着では、尻を隠すことなどできはしない。紐が割れ目に入り込み、丸出しとなった尻たぶに男達の視線が刺さる。
    「これが王族の尻かぁ」
    「プリプリしてんなぁ?」
    「母親の方がデカいみたいだぜ?」
     使用人が三人ほど横並びに、楽しそうに尻を眺めて見比べている。
     母娘でそれを堪えていた。
     視姦される恥ずかしさと、後ろから感想を言われる屈辱に、歯を食い縛って掃除に励む。掃除をきちんとできなければ、ユミルにお仕置きをされるため、そうならないようにと丁寧に拭いているのだが、それ自体でさえ屈辱だ。
     王族である母娘は、本来ならば掃除など使用人に任せる立場だ。
     それを地位では下のはずのユミルにやらされ、自分こそが使用人の立場を味わう状況が面白いはずもない。しかも下着姿で過ごさせられ、こうして見世物にまでなってしまうのだから、屈辱の上塗りだった。
     やらされている窓拭きは、長い長い廊下のものだ。
     どこまでも絨毯が続いていき、幾つも並ぶ窓ガラスの、その一つ一つを順番に磨いている。母娘で協力し合いつつ、足元のバケツをその都度運び、水で絞った雑巾で窓を拭く。綺麗に見える窓であっても、木枠の部分に意外にも埃はあり、その汚れが雑巾の中に蓄積していくことで、絞った際の水は少しずつ黒ずんでいく。
     そうやって、やっと何十枚もの窓を磨き上げても、広い上に三階建ての屋敷な上に、西館と東館、それを繋ぐ中央といった構造では、まだまだ気の遠くなるほどの窓が残されている。
     それを延々とこなすには、気の遠くなるほどの時間がかかった。
     窓を拭いていくだけで、軽く半日は使った。
     やがて休憩時間を与えられ、昼食として食事を受け取るが、皿に乗せられてパンと野菜にスープの組み合わせは、あまりにも貧相なものだった。
     まず、野菜は調理がされていない。生で食べられるものを適当に手で千切り、乱雑に盛り付けたものは、他の使用人が食べるサラダに比べて、見るからに見栄えが異なる。しかも鮮度の落ちた野菜が使われるので、サラダらしいサラダに対して材料の質すら悪い。
     コーンで彩りを与えて華やかにした上に、さらにベーコンまで入ったものを見ていると、わざと差をつけているのがよくわかる。
     パンもただカビが生えていないだけの、傷む直前のものを処分するため、それをよりにもよって王族の腹の中へ捨てている。
     さらにはスープである。
     巨大な鍋を使用して、多人数分を一度に作る方法だ。
     それ自体は皆と同じものを与えられ、だから味そのものは皆と変わらない。その盛り付けが最悪で、具が一切入っていない。破片がかすかに浮かんでいるところを見れば、本当なら肉や人参が入っているはずだとわかるが、母娘に対しては具が入らないように入れてあるのだ。
     そして、他の使用人にはおかわり自由の待遇が与えられ、大食いであればあるほど好きなだけ食べているが、母娘にその自由はない。
     全てがユミルの指示だ。
     本来の使用人よりも低く扱うことで、使用人にも格下の使用人として、極めてぞんざいな扱いを受けている。
     だが、これもユミルに言わせればこういうわけだ。
    「奴隷に比べれば贅沢な暮らしだぞ?」
     人権が保障されていない、ただの消耗品や燃料のように見られている人々に比べれば、なるほど贅沢なのだろう。そこまで低い位置と比べて、ようやくまともに見える生活こそ、二人の置かれた状況というわけだった。
    
         *
    
     与えられる下着は過激なものが大半だった。
     Tバックは当然として、ブラジャーもカップ部分の布が少なく、今にも中身のこぼれ出そうなものが用意されてくる。母娘揃って巨乳のため、サイズの合わないハーフカップでは乳肉が下品にはみ出て、それを使用人に笑われる。
     乳首の部分を穴あきにしたものを着せられる。アソコを穴あきにしたショーツを穿かされる。
     日替わりの下着の過激さは、その日によって異なるものの、いずれも好きで着たいようなものではない。
     そして、今日の朝になってメイドが用意してきたのは、サイズの合わないハーフカップだ。仮にも乳首を隠せる分だけ、穴あきよりもマシではあるが、ショーツの方は前の方すらT字型で、およそ布というものが使われていない、本当に単なる紐の繋ぎ合わせなのだった。
     二人は恥辱感を覚えながらも、それぞれ下着を身に着ける。
     尻は丸出し、アソコの肉貝にも少しばかり紐が食い込み、丸出し同然の露出度合いとなっている。
     酷いのは下着だけではない。
     二人には身体を敏感にする魔法がかけられており、普通よりも発情しやすい、刺激も感じやすい状態が絶えず続いている。放っておくだけでも息は乱れ、掃除の最中に愛液が下着に染み付く毎日なのだ。
    「はぁ……ふはぁ…………」
    「んっ、はぁ…………」
     息が荒い。
     窓に向かって二人して、雑巾で磨きながらも熱い吐息で表面を曇らせる。母であるマリエルは頬を火照らせ、その横顔から色香を放つ。娘のアリシアも熱く火照って、しかし自分の興奮を抑えようと、どちらかといえば強張っていた。
     それぞれの表情に差異はありつつ、どちらも肉体に疼きに翻弄され、今にもアソコに手を伸ばし、自慰でも始めてしまいたい衝動に駆られている。ユミルの魔法は強力なもので、高い発情効果はタフな精神をも徐々に蝕んでいた。
    「おっと、今日も息が荒いぞ?」
    「観念してオナニーしちまったらどうだ?」
    「はっはっはっ、それをやったらユミル様にお仕置きされちまうもんな」
    「にしても、王族のケツを眺め放題になるとは」
    「ユミル様に忠誠を誓って大正解だぜ」
     いつものことだった。
     使用人の群れが通りかかって、母娘を眺めに足を止める。休憩時間を迎えたり、職務に区切りのついた者がわざわざ鑑賞を楽しみにやって来る。
     そうやって集まるのが、昨日は三人だけだったが、今日は五人もいるわけだった。
    「んっ、くぅ……」
     アリシアは歯を食い縛った。
     母に比べて一九歳と若い分だけ、こうしたことで衝動に駆られやすい。しかも、悪逆な政治で人々を差別して、多くの人間を奴隷に貶めているような、そんな領主に忠誠を誓って良かったなどと、アリシアにとっては許せない発言だった。
    「おお、怖い怖い」
     つい肩越しに振り向いて、睨みつけてしまっていた。
    「そんな顔したって、ケツが丸出しだぜ?」
    「内股のそれはなんだ? エロい汁なのか?」
    「悪いこたぁ言わねぇ、ちっとくらいサボってオナニーしてこいよ」
     そのオナニーを奨める言葉の、一体何がそこまで面白くてか。一人の冗談で残る四人が一斉にケラケラと笑い出し、アリシアはより一層の屈辱感に沈んでいった。
    「アリシア」
     名前を呼んでくる母親の、ただ一声に諫められ、アリシアは掃除に集中し直す。
    「わかってるわ。お母様」
     彼らに対して、どんなに憤ってみせたところで意味はない。
     所詮、ここで働く使用人は、ユミルの元で甘い汁を吸うことが目的の連中だ。ユミルが一体どんな政治をして、どうやって裕福層を作り上げているのか。その方法を知っていながら、悪逆を罵ることなく、むしろ優遇される側に立とうとする。
     良く言えば現実的で賢いが、悪く言うなら卑怯極まりない身の振り方だ。
     王族よりも、ユミルの方に忠誠を誓うユミル派など、綺麗な理想を語ったところで鼻で笑って済ませるだろう。相手にするだけ意味はないと、アリシアは窓ガラスと向き合って、やりたくもない掃除の方に意識を注ぐ。
     だが、かけられる言葉のことごとくが、やはり自尊心を抉ってきた。
    「お股に汁が見えてるぜ?」
    「くせぇくせぇ」
    「女の香りをプンプンさせてちゃ、誘ってるって勘違いされちまうぜ?」
    「そいつはいい。王族とヤってみてーよ」
    「俺はマリエルのケツを見ながらよ、バックで突きまくってみてーな」
     人の後ろで猥談まで繰り広げた。
     その内容はどちらとセックスをしてみたいだの、どちらの尻が好みだの、人の体を好き勝手に論評しながら語り合う。本人達は楽しくても、ネタにされる身としては不快でならない話題を聞かされて、アリシアはきつく歯を食い縛った。
     性知識がほとんどない、そして経験もないアリシアである。
     後ろから突く、喘がせる。オナニー。そういった言葉の意味を真に理解しているわけではなかったが、いやらしい話題によって、いやらしい言葉をかけられていることさえ理解できれば、恥辱感を覚えるには十分だった。
    「最低……」
     聞こえないように小声だが、アリシアはそう呟いていた。
    
         *
    
     毎日、同じ仕事だけを繰り返すわけではない。
     掃除や料理、領主の世話についてはメイドの指示に従う形でこなしているが、午前中の窓拭きが終わったところで、今日はユミルの執務室を訪れていた。
     領主ユミルが机に向かい、山のように積み上がった書類の一枚一枚に目を通している傍らで、母娘揃って掃除をする。箒をかけ、目立った塵や髪の毛など、わかりやすいゴミを回収した後、さらに雑巾掛けも行っていく。
     自分達の本来の姿がそこにはあった。
     行政に関わる書類、食料生産の見積もりに、貿易管理など、様々な書類と向き合って数字や政治に頭を悩ませる。そんな王族としてあるべき姿を背にしながら、自分達は床掃除をしていることに、屈辱にも似た何かが胸で膨らむ。
     その時だった。
    「いやはや、大きな尻を見ていると笑いが込み上げるというものだ」
     女児のものにしか聞こえない、実に幼い声が机から聞こえてきた。
     ユミルの声だ。
     魔法によって若さを作り、八歳か九歳ほどの、まさしく子供にしか見えない姿の領主こそ、二人を決闘で敗北に貶めて、このように扱っている張本人だ。
     領民に重い税を課し、奴隷にはさらに厳しい労働の義務まで与え、そうやって作り上げた土台の上で、裕福層のことは甘やかす。甘い汁を吸わせることで支持を集めて、王族の政策に同意できない、魔力史上主義社会を維持したい派閥との繋がりまで作っているのが、このユミルという人物なのだ。
     そのユミルが書類作業の手を止めて、実に楽しそうに二人の尻を眺めるのだ。
     ユミルの景色として映っているのは、雑巾掛けのために四つん這いに近い姿勢となり、尻を高らかにした母娘だ。
     高く振りかざされた尻は、Tバックのために丸出しで、紐の太さだけでは隠しきれない肛門さえもが見えている。アソコの方さえ紐状なので、はしたない姿勢になれば、性器も見えてしまうわけだった。
     そうやって、尻を高くしながら行き来する。
     机から遠のく際の、尻がユミルへ向いた時はもちろんのこと、向かって来る際ですら、尻山はよく目立つ。
     ユミルにしてみれば、政敵を完膚なきまでに叩きのめして、しかも召使いとして傍らに置いている。決闘で勝敗をつけるに飽き足らず、なおも屈辱を与え続けるのは、優越感が湧いてたまらない。
     だからユミルはニヤニヤしていた。
     おかしくてたまらずに、笑いが込み上げているわけだった。
     それに――。
    「おい、どちらが好みだ?」
     ユミルは傍らの男に尋ねた。
     政治の補佐官として、ユミルが脇に抱えているその男は、当然のように母娘に対する視姦を許されている。
     むしろ、見ない方が面白くない。
     好奇の視線に曝け出し、クスクスと笑われるように仕向けたり、視姦に対して羞恥や屈辱を感じてもらおうと、下着だけで過ごさせているのだ。
     見てもらわなくては困るくらいだ。
    「そうですね。下品なほどに豊満な尻、垂れ下がらんばかりの乳房。若い娘が好みではありますが、こと体つきに関していえばマリエルかと」
    「そうかマリエルか」
    「もちろん、アリシアとて乳と尻は大きなもので、やはり私の好みです。強いてどちらかと聞かれればマリエルを選びますが、実際にはどちらもそそられるというもの」
    「だそうだぞ? アリシア、今の気持ちを正直に言ってもよいぞ? 好みと言われて嬉しいか? それとも、僅かながら母に劣って悔しいか? 気分が良いので、礼を欠いた言葉であろうと今なら許そう」
     それはユミルの遊びであった。
     アリシアが攻撃的な姿勢を見せ、一丁前の口でユミルのことを罵倒しようものならば、それを直ちに黙らせる。そういう楽しみを思いつき、だから是非とも強気な言葉を発して欲しいと、ユミルとしては期待していた。
    「…………」
     アリシアは答えない。
     無言で掃除を続ける姿から、ひしひしと伝わる何かによってユミルは察する。無言であること自体が、アリシアにとっては態度の表明のつもりなのだ。ユミルの思う遊びに乗らず、淡々と掃除をこなしていようというわけだ。
    「なるほど? 答えんというのなら、別の遊びをするまでの話よ」
     ユミルは魔力を行使した。
     軽く呪文を唱えたその瞬間、アリシアの中で何かが弾けた。
    「あぁん!」
     甘い悲鳴を上げながら、ビクっと尻を震わせて、その次の瞬間にはワレメから潮を噴き出す。噴いたばかりの床に滴が飛び散って、ユミルは愉快そうに腹を抱えて笑い出す。
    「ははははは! 近頃の王族というものは、そうやって拭いたばかりの床を汚すのか! これは面白いことを知ったものだ!」
    「……っ!」
     悔しげに睨む視線がユミルに向く。
     快感魔法を使ったのだ。
     呪文一つの力によって、手を触れるまでもなく快感の限界を迎えさせ、次の一瞬には絶頂をしてもらう。そんな女殺しの魔法によって、アリシアは見事に尻をビクビクさせたわけだった。
    「素晴らしい光景ですね? ユミル様」
    「そうだろうそうだろう。愉快なものだろう? 生意気な小娘の絶頂というものは」
    「ええ、まさしく。せっかくなので、その生意気な口を利いて頂きたかったところです。ま、こうなることが読めていたから、わざと黙っていたのでしょうね」
    「それだ。それもそれで、まあ生意気なものだが――」
     ユミルはマリエルの方に視線を向け、口角を釣り上げる。
    「……なんでしょう」
     その視線を察してマリエルは答えた。
    「おい、娘が床を汚したぞ」
     わざとらしく、楽しげに指摘していた。
    「……はい。申し訳ありません」
    「良い良い。もちろん許してやるのだがな? ただ許すというわけにもいかんな。他ならぬ領主の部屋で粗相とは、お前達が王族でなければ即刻処刑だ。仮にも尊い血であればこそ、私は寛容になってやろうとしているが、多少は罰を与えないとな」
    「では、この母が娘の責任を取りましょう」
     粛々と答えるマリエルへと、アリシアの心配そうな視線が向いていた。
    「お母様……」
     そんなアリシアの様子を見るのも楽しいが、ユミルはもっと面白みのあることを思いつき、それを今まさに口にする。
    
    「舐めろ」
    
     指で床を指しながら、ユミルはそう言った。
    「一切の布も使うな。その唇を床に付け、そして舐め取れ」
     愉快で愉快でならなかった。
     言うが否や、アシリアの顔には憤怒が浮かび、マリエルには憤りのような悲しみのような、どちらともつかないものが見え隠れした。その感情の機微を伺うことで、悔しがったり泣きそうになったりしていく姿を見るのは面白くてたまらない。
     マリエルは床に唇を近づけていた。
    「お母様……そんな……」
     悲壮のよく現れた表情で、アリシアは母を見ている。
     そして、そんな視線の先でマリエルは娘の愛液に舌を伸ばして、ペロペロと木目の表面を舐め始めた。
    「はっはっはっは! 舐めてる舐めてる!」
     ユミルは大笑いした。
     王族が床を舐める光景など、普通に生きていては決して拝めるものではない。ありえないはずの光景を作り出し、それを上から見下ろし楽しむのは、自分の力を実感できてならずに気持ち良かった。
     一体、どんな気持ちでいることだろう。
     憤った眼差しを向け、何かを言いたそうにしているあたりから、アリシアの心はよくわかる。自分の母を侮辱され、良い気分などしないのだろう。
     そして、マリエルは粛々と舐め取っている。
     舌を使って一つ一つの滴を拭き取って、丁寧に磨いている。その床にほとんど顔をつけ、そのために垂れ下がった前髪で目鼻が隠れた有様は、これ以上なく加虐嗜好を満たしていく。
    「そら、尻を振れ。フリフリしながら舐めろ」
     そんな命令にさえマリエルは従っていた。
    「これ以上させたら……!」
    「させたら、何だ? もし許さないとでも言うつもりなら、どう許さないつもりでいるのか教えて欲しいものだ。うん? どうした? 言ってもいいんだぞ? その可愛い拳でパンチでもしてくるのか、それとも雑巾でも投げるのかな?」
     ユミルはどんどん調子に乗って、煽り放題となっていた。
     どんな攻撃をしてこようとも、ユミルにはそれを問題なく捌く自信と実力がある。もっとも魔封じの首輪をかけている以上、逆にアリシアの方に力がないわけでもある。
    「くっ……」
     アリシアは悔しげに歯を噛み締め、押し黙る。
     それもまた、多少なりとも愉快であった。
    
     ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
    
     マリエルは尻を振りたくる。
     床を舐めながら、腰は高らかに突き上げて左右に動かす。その尻を振った姿は、さながら真後ろに男でも立っていて、必死に誘っているかのようだった。
    
    
    

    
    
    
    中編 屈辱の日々
    
     ユミルは半数以上の使用人に暇を与えた。
     急に休暇を与えると、失業ではないかと不安がる小心者もいくらかいたが、目論見を伝えればすぐさま安心しきっていた。
     本当に最低限の人数だけを残した屋敷は、廊下や広間を行き交う人の気配がほとんどなくなり、普段に比べて随分と静かになる。住み込みで働いている使用人は、休みも仕事も関係無く屋敷内にいるものの、そうでない者は久々に家にでも戻って、家族と過ごすなり何なりをしているはずだ。
     そして、マリエルとアリシアには仕事を押しつけた。
     使用人が減った分だけ、掃除の量は目に見えて増える上、料理や洗濯など他の家事まで母娘に回る。明らかな過重労働ではあったが、ユミルがそんな気遣いをするはずはなく、わざと仕事を増やしているくらいであった。
     しかも、ユミルは執務室でその監視を行っていた。
    「ふむ、やっているようだな?」
     机に置いた水晶玉に、二人の様子を映し出していた。
     遠見の魔法によって、現実の風景をそのまま切り取り、ぼんやりと浮かべたかのように、水晶玉の中には母娘の姿があった。
     マリエルは厨房で野菜を刻み、アリシアは大きな鍋をかき混ぜながら、具の様子を見守っている。一応、いくらかの料理人は残してあり、あまり粗末なものを作らせないように見張らせているため、素人の調理だろうとそう不味くはならないだろう。
    「さて」
     ユミルは映像を切り替えた。
     水晶玉への投影は、念じることで映すべき場所を変更できる。そうしてユミルが眺めているのは、マリエルの立派な尻だった。Tバックの紐はほとんど埋もれ、割れ目の中に入った分がもはや見えない。
     巨尻に対する恨めしさというべきか。
     スタイルの良さは羨ましいもので、だからこそ傷つけたい。女として自分よりも優れた肉体には、何かしらの屈辱を与えたくもなってくる。
    「そうだな。感じてもらおうか」
     ユミルはぼそぼそと呪文を唱え、その効果は直ちに現れていた。
    『ひっ! うっ、うぅぅ……』
     急に尻がぴくっと動き、明らかに何かに反応した直後、そのまま固く強張った。内股に力が籠もり、太ももを擦り合わせて我慢する。
     快楽を与えたのだ。
     相手の肉体に自由自在に快楽を送り込み、興奮度合いを好きなように調整する。そうした肉体にかける魔法は、普通であれば効果が薄い。戦闘中に筋力を低下させられたり、まして呼吸の止まる魔法でもかけられようものなら、不利になったりそれで勝負が決まりもする。そうならないための抵抗を、本来ならば行うものだ。
     攻撃や弱体化など、相手の魔法効果が弱まるように、魔力によって自分自身の肉体を保護するのは、戦闘や自衛において常識だ。
     しかし、魔封じの首輪がある母娘には、そういった抵抗すらできない。
     ユミルの気持ち一つで自由自在に興奮度合いの切り替えは可能となり、思い通りのタイミングで好きにイカせることさえ簡単なのだ。
     こうして、その場に居合わせるまでもなく、水晶玉を通してセクハラや痴漢ができる。
    「次はこういうのはどうだ?」
    『やっ、一体……!』
     人形操作の魔法を使い、そこに『手』を送りつけていた。
     既に用意のある魔法道具を転送によって出現させ、さらには宙を浮遊させながら、人形から切り取った手首だけの存在を駆使して、マリエルの尻を撫でさせている。人間の手の平と変わらない、生身のそれと酷似した感触を味わえば、まるで急に後ろに人が立ち、痴漢をされた気分が味わえることだろう。
     マリエルは後ろを振り向いていた。
     本当に誰かに触られていると勘違いして、しかし背後には誰もいないことへの戸惑いと共に、快楽によっても瞳を震わせる。動揺と焦りの見え隠れするオロオロとした姿は、実に見ていて愉快であった。
     やがて、手で尻を気にすることで、マリエルは気づいたらしい。
     料理人の誰かであれば、果たして注意しようとでも思っていたのか。
     だが、一体誰の魔法の仕業なのかに気づくなり、諦めたように調理を再開して、快楽を堪えながらも包丁で野菜を切る。
    『んっ、くぅ……んぅぅ…………』
     抑え気味の喘ぎ声で、手を震わせていた。
     誤って指を怪我したくもないだろう。
     ただでさえ慣れない料理で、経験豊富な料理人に比べて随分と時間がかかっていたところ、人参を小さくしていくだけで苦戦していた。快楽の余波で手が震え、ぷるぷると動く両手のせいで慎重になりきっていた。
    「おやおや、作業が進まないなぁ?」
     ユミルはニヤニヤと楽しみながら、次はアリシアに切り替える。
     アリシアは後ろから料理人に見張られながら、大鍋のスープをかき混ぜている。きっと尻にでも視線を感じて、視姦されての気分を味わっている最中だろう。はっきりと振り向くことはないまでも、後ろを意識しているのが様子でわかる。
     ユミルはアリシアにも同じ魔法を行使した。
     人形の『手』を出現させ、それに尻を触らせた。
    「なっ! ちょっと……!」
     驚きながら振り向くが、そこに立っている料理人は、決して尻に手の届く距離にはいない。手を伸ばしたよりも、もう少しだけ遠い位置にいて、そもそも振り向いている最中にも、アリシアの尻は揉まれ続ける。
    「んぅ……!」
     次に魔法をかけた時、アリシアは大きく喘いだ。
     娘の方にも快楽の魔法をかけ、それによってアリシアは、急に太ももを引き締めながら、我慢のために腰をくねくねと踊らせ始める。
    『どうした?』
    『んっ、んぅ……んぅぅ……』
    『小便でもしたいのか?』
    『ち、ちがう……そんなんじゃ…………』
    「はっはっはっはっはっはっは!」
     ユミルは大笑いした。
     小便、確かにそうだ。股を気にして強張って、その結果として腰が微妙にくの字に折れたその姿勢は、オシッコを我慢して見えるではないか。そのわざとらしい指摘も面白いが、赤らみながら否定するアリシアの反応も見物であった。
     作業の質が悪いのは言うまでもない。
     料理人達もユミルの目論見はわかっており、だから作業が遅い理由をわざわざ考慮せず、ユミルを楽しませるための言葉を放ってくれている。
    『親子そろって、まともに皮剥きもできないか?』
    『そんな……そう言われても……』
    『お? マリエル、いくら王族だからって、今は俺より下なんだぜ? 奴隷なんだよ奴隷。敗北者は元がどれほど高貴だろうと、ただの奴隷でしかなくなるんだ』
    『しかし、この状態では……』
    『あまり言い訳をするなよ? どんな理由があろうと、作業が遅いと罰せられる。ひょっとしたら、いつか娼婦の仕事をさせられるかもな』
    『…………』
     マリエルは言い返すことを諦めて、快感を堪えながらジャガイモを手に取った。
     その皮を剥くのも大いに時間がかかってのこととなり、やっとの思いで調理場での作業が終わっても、今度は庭の手入れが待っている。本棚の整理が待っている。浴場の掃除が、銅像磨きが、ありとあらゆる仕事が待っている。
     ユミルはその都度、魔法で邪魔をした。
     はっきりとした妨害で、手を直接止めさせることはしない。快楽魔法で絶頂直前の切なさを味わってもらったり、男達にセクハラの許可を出し、尻を触るように仕向けるような、間接的な邪魔しかしていない。
     きちんと作業に集中しうる余地はあえて残して、それでいて滞っている様子を鑑賞した。
     当然、時間までにノルマをこなしきることはなく、二人にはお仕置きが必要となるのであった。
    
         *
    
     母娘を執務室に呼び出して、ユミルはこれ以上なくニヤついていた。
     下着を脱がせてあるのだ。
     さらに使用人の中から働きの良い男を二人ほど選び出し、母娘の下着を日頃の報酬として与えたのだ。今日のブラジャーやショーツはどちらも男の手に渡り、アリシアの隣にいる男はアリシアの下着を、マリエルの傍らにいる男はマリエルのを、それぞれ嬉しそうに握り締めている。
     隣で自分の下着を触られて、堪能されている状況に、親子揃って気まずさと不快感の入り交じった恥ずかしそうな表情を浮かべているのは、見ていて実に面白い。
     だが、ユミルが何よりも楽しみにしていることは、もちろんそんなことではない。
    「見れば見るほど、まったくだらしのない乳をしているものだ」
     ユミルは二人の裸体を見やった。
     アリシアの巨乳と、さらに一回り大きなマリエルの巨乳は、張りの良さで手前にツンと突き出ようとしているが、大きさのあまり重力には逆らいきれない。アリシアの方はまだしも下垂が控え目だが、マリエルの大きさでは物理法則に従うままに下向きに、さすがのサイズ感で下垂も目立つ。
     かといって、垂れすぎるほどには垂れておらず、どうにか美観を損なわないギリギリのラインに踏み止まっているあたりに腹が立つ。
     妬ましいものだった。
     別にマリエルほどの豊満さまでは求めないが、ユミルの肉体は十代の思春期や成人年齢を超えてなお、幼児体型のまま膨らみを得られなかった。魔法によって肉体年齢を若返らせ、いっそ見た目だけは女児に戻ることで釣り合いを取っているのだが、それだけに母娘のことは前々から気に入らなかった。
     無論、乳のサイズがどうという理由のみで王族を貶めるはずもなく、二人の権威を穢す理由はもっと政治的な目論見のためなのだが。
    「作業がまるで進まなかったな?」
     ユミルは早速、作業の遅れについて追及を開始した。
    「だ、誰が……」
     お前のせいだろうと言わんばかりの、抗議の意思の宿った睨みの眼差しは、もっぱらアリシアから向けられる。
     ユミルにはその性質が読めていた。
     血の気の多さと誤解する者もいようが、あれは正義感だ。不正や悪徳を許せない理想主義による感覚で、妨害しておきながら追求してくるユミルに対し、それ相応の怒りがあるというわけだ。
     その辺り、マリエルの方がもう少し大人しい。
    「……申し訳ありません」
     母の方は大人しく謝るのだ。
     そんなものは表面だけで、腹の底にはアリシアと同じ感情を抱えているといったところだろうが、マリエルの方が長生きをしている分だけ、世渡りを意識している。噛みついても仕方のない時は牙を収め、じっと密かに研いでいるのが彼女の性質なのだろう。
     どうせ心は諦めていまいと、ユミルはそう考えていた。
     自力での脱出手段は無きに等しいと、二人揃ってわかってはいる状況で、きっとあるかもしれない外部からの助けを待っている。そうでなくとも、ユミルが何らかの隙をうっかり見せてはくれないものかと、気の遠くなるような期待を延々と胸に隠し続けているに違いない。
     もっとも、そういったものはゆくゆく砕く。
     完膚なきまでに打ちのめし、絶望のどん底に落としてやるのが楽しみなのだ。
    「おい、アリシアのパンツはどうだ? 何か感想を言ってみろ」
     ユミルは使用人に命令する。
    「ええ、そうですね。ユミル様の術……いえ、アリシアめの卑しいメスの気質により、股布の部分にはとても甘美な蜜が染みついてございます。わたしのような変態は、こういうものを脇目も振らずベロベロと舐め回したくなるのです」
    「ほう? 構わん。許可しよう。今ここでやってみせよ」
    「はっ、喜んで」
     使用人はショーツを舐め始めた。
     後ろ側は紐でしかないTバックの、前の部分にだけは多少の布を使ったショーツの、アソコに当たる部分に舌を這わせて、染み込んでいた汁を存分に味わい始める。これみよがしに、お前の体液を味わってやっているぞと、得意な顔でアリシアのことを見やっていた。
    「うぅ…………」
     さぞかし寒気がすることだろう。
     自分の下着を握られているばかりか、舐める真似までされて嫌悪感がないはずがない。
    「お前はどうだ?」
     もう一人の使用人にも、マリエルのショーツについて感想を言わせた。
    「わたしも同じく、この甘美なる蜜の香りに酔っていたところです。マリエルめはなかなかの匂いを持っているようで、先ほどからそのかぐわしさを吸い込もうと、鼻息ばかりをしているほどです」
    「では私の前であることを気にせず、自分一人しかいないつもりになって、好きなように嗅いでみせろ。ついでに舐めてもいいぞ」
    「では喜んで」
     そうして、マリエルの真横でも、マリエルの下着に鼻が押し当てられている。すーっと、わざとらしい鼻息の音を立て、たっぷりと鼻孔に吸い上げている。すんすんと聞こえる鼻息に、引き攣ったような羞恥の顔をマリエルは浮かべていた。
     これもまた、ユミルの思い描いた光景の一つであった。
     全裸で立たされ、その隣には脱ぎたての下着を握った男がいる。その男達にそれぞれの下着を触られたり、嗅がれるなどして、存分に堪能されている状況に立たせてみたいと、我ながら良い思いつきだとは思っていたが、想像以上の満足感が溢れてくる。
     しかも、まだ楽しみに続きはあるのだ。
    「ではこの辺りで、お仕置きをしないとな?」
     ユミルは席を立ち上がり、二人の前へと近づいていく。
     もし二人が暴れ出しても、丸腰の母娘は魔法無しでは戦闘力を丸ごと取り上げられたと同じである。警戒の必要もなく距離を詰め、ニヤニヤと見上げて、まずはアリシアへと命じた。
    「四つん這いになれ」
    「なんで……」
    「仕置きだ。尻を叩いてやる」
    「そんなこと……」
    「できんと言う気か? もし拒むなら、そうだな。お前の隣に立っているその男は、マリエルよりもお前の方が好みだそうだ。お前と夜を過ごす許しをそこの男にでも与えるとしよう」
    「くっ、わかったわ…………」
     アリシアは大人しく膝を突き、ポーズを変える。
    「腹はここに乗せるんだ」
     ユミルは片膝を突き、アリシアが脚に腹這いになるように導くと、その大きな尻へと早速腕を振り上げる。
    
     ぺちん!
    
     叩き始めた。
     その瞬間に全身がぐっと強張り、尻がミリ単位でかすかに反り上がる。見れば床に置いた拳も固く震わせ、屈辱に震える様子でいるところを見て、ユミルは顔のほころびを抑えきれずに歓喜しながら平手打ちを繰り返す。
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     打ち鳴らしているうちに、呼吸が怪しく聞こえて来た。
    「あっ、ふぅ……くっ、んぅ…………」
     息が荒っぽくなっている。
     その様子を見逃すことなく、ユミルはさらに平手打ちを繰り出した。
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
     ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     実に愉快だった。
     人をコケにした上で、しかも尻まで叩いて尊厳を辱める。わざわざ見物人の男を立て、使用人ごときに見下ろされている状況も、王族としてはプライドを傷つけられるはず。その楽しさでたまらずに、口角が吊り上がるのを止められない。
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
     ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     叩いているうち、アリシアは明確に感じ始めた。
    「あっ、あぁ……! あっ、そんな……!」
     快楽魔法をかけてあるので、元より感度は高いはずだが、どうやら痛みが快感に変わっているらしい。ユミルはどちらかと言えば容赦なく、この尻が腫れても構わないつもりで叩いているが、とんだマゾ気質があるようだ。
     叩かれて喜ぶ性癖でもなければ、興奮状態となって感度が上がる魔法しかかけていないのに、勝手に痛みが快感に変わることはありえない。
    「どうだ? じっくり見てみるがよい」
    「ではユミル様のご厚意に甘え、視姦させて頂きます」
     使用人がアリシアの尻に顔を近づける。
     自分の尻の、すぐ真後ろに男の顔がある状況は、ますます羞恥を煽るはず。恥じらいきった表情が目に浮かび、優越感から叩き続けているうちに、使用人は感想を述べ始めた。
    「お尻の筋肉やアソコの様子を見ていると、その一発ごとにヒクっと収縮しているのがよくわかります。心でどう感じていようと、肉体は興奮しているいい証拠ですね。何より、だらしなく溢れた愛液が滴になって、糸まで引いている光景といったら、もう面白くて面白くてたまりませんよ」
     随分とはしゃいだ早口だった。
     熱く語らずにはいられないほど、見ていて興奮するようだった。
    「あ、申し訳ありません。ユミル様」
    「よい。言葉による辱めも、こいつを存分に悦ばせるだろう」
    「で、では……。痛みで気持ち良くなるとは、なかなかの変態ぶりですね? それだけアソコを濡らして、糸の引いた愛液をぷらぷらと揺らしているのですから、とても言い訳など出来ませんよ? ああ、こうしているあいだにも、あなたのパンツの味を確かめています。匂いも嗅いでいますが、いい具合の臭気が染みついていて、とてもとても香しい」
    「だそうだぞ? よかったなぁ? 男に悦んでもらえて」
     喜悦の顔で、ユミルはさらに尻を打ち鳴らす。
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     と、その時だった。
     急にビクっと、身体を反り上げるような反応をしたかと思うと、アソコから潮が噴き、飛び散った飛沫が使用人の顔へとかかっていた。ユミルの手にも数滴ほどが染みついて、ユミルは手の平に残った絶頂の証拠を思わず見つめた。
    「ほう?」
     イった。
     確かにアリシアはイった。
     こんな方法でイカされた屈辱もさることながら、言葉で辱めるためのネタも増えたのだ。
     愉快なことこの上なく、上機嫌にマリエルへ視線を向けた。
     その瞬間、マリエルは反射的に強張っていた。
     次は自分の番だと悟り、身構えているようだった。
    
         *
    
     娘の有様を見せつけられ、それに対して何もできない自分が歯がゆくてたまらなかった。
     力さえあれば、こんな真似は決してさせない。
     魔封じの首輪さえなければ、アリシアをこんな目に遭わせずに済むかもしれないのに、ただ見ていることしかできない悔しさで堪らなかった。
    「アリシア……」
     全裸で尻を叩かれるだけでさえ、それ相応の屈辱となって心は傷つく。プライドを踏みつけられ、蹂躙される気持ちに耐え忍ぶことになるというのに、しかも男を二人も招き入れ、わざわざ視姦や言葉攻めの許可を与えているのだ。
     そして、娘が潮を噴いた時、次は自分が同じ目に遭うことを悟った。
     マリエルが出来るのは、ただ覚悟を決めたり、身構えることくらいである。心の中で悪態でもつき続けるか、それとも受け入れきってしまうか。向き合い方を心の中で決める程度の、たったそれだけの自由しかマリエルにはない。
     マリエルもまた、四つん這いに近いポーズとなった。
     剥き出しの腹にはユミルの脚の感触があり、そして後ろにはマリエル派の使用人が立っている。視姦や言葉攻めの役目を果たすため、尻のすぐ真後ろから、平手打ちの邪魔にならないちょうど良い距離を取りつつ視姦してくる。
     それはすぐに始まった。
    
     ぺん!
    
     その一発目は痛かった。
    「さあ、お前も存分に仕置きを受けろ」
     ユミルの楽しそうな表情など、見るまでもなく目に浮かぶ。
    
     ぺん! ぺん! ぺん!
    
     屈辱に歯を噛み締め、床に置いた両手は固い拳となっていく。
    (試練よ……試練と思うのよ……)
     そうすることで、耐え抜こうとしていた。
     娘も同じ試練を受けた。
     ならば母の自分が挫けるわけにはいかない。娘と同じ屈辱を分かち合い、共に心を保って脱出の時を伺い続ける。そのためにも、どんなに悔しくて恥ずかしくても、たとえいつ脱出できるかの未来が見えなくとも、最後の最後まで諦めない心を抱き続ける。
     この国を変えるためにも……。
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
     痛みは徐々に快楽へと変わっていた。
    (どうしてなの……?)
     こんな痛みなど嬉しくない。
     まして、後ろから男に視姦され、アソコや肛門も見えている状態で、叩かれて嬉しいことなど一つもない。
     それなのに下腹は疼き、アソコからは熱い蜜が滴り落ちる。叩かれれば叩かれるほど、痛みとは違う何かが尻に走って、呼吸もどんどん乱れていく。
    「あっ、くぅ……んぅ…………んぅぅ………………」
     娘と同じになりそうだった。
     アリシアも叩かれることで愛液を流し、それが糸となってぷらぷらと揺れたそうだが、マリエルもまた自分に滴の玉が形成されているのを感じていた。ワレメの表面に滲み出て、着実に形となって大きくなる。そんな滴がやがて重力に引かれて下へ下へと、糸となって垂れ下がる時、背後の使用人は嬉々として指摘を始めた。
    「おやおや、お母様もはしたない蜜をお出しになるようだ! しかも、長々と糸を引いておるようですが、親子そっくりというやつですかな? もしや、娘さんがお尻ペンペンされて悦ぶ変態マゾ女なのは、母親譲りの性癖では?」
     酷い言葉攻めだった。
     心を深く抉り抜き、屈辱のあまりに何かを言い返したり、仕返しをしてやりたい気持ちが大きく膨らむ。
     しかし、そもそも力が出せないのだ。
     魔力を封じられている限り、男の腕力の前ではマリエルも一人の女でしかない。魔法がないとこうも無力で、しかもたとえ力を取り戻してもユミルには太刀打ちできない。ユミルのあの領地から魔力を吸い上げ、奴隷を燃料として扱う技を封じなければ、王族ほどの力があっても現に二人がかりで敗北している。
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
     無力感に打ちのめされる。
    「んっ、んぁ……あぁ……あぁぁ…………」
     こんなことを気持ち良く感じてしまっている自分がいる。
    「お前の尻は大きいからな」
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
    「娘に対してよりも、いささか力を込めているぞ?」
    「ユミル様の手によって、いかに肉がぷるぷると振動して、見ていて面白いことになっているか、おわかりになりますか? しかもほら、下腹の疼きによって、アソコや尻穴がヒクヒクしているのがよく見えますよ?」
     羞恥を煽る言葉によって、耳まで染まり上がっていく。
     しかも、その時だった。
    
    「あっ、お……お許しを……!」
    
     とある一つの予感に、さしものマリエルも急に許しを乞い始めた。
    「なんだ? 急にどうしたのだ?」
     問いながら、ユミルは尻打ちの手を止めない。
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
    「あぁ……と、トイレに……!」
    「ほう?」
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
     トイレの一言を発した瞬間の、ユミルのほくそ笑む表情が脳裏に浮かんだ時、マリエルは己の運命を察していた。
     このまま娘の見ている前で……。
     平手打ちが生み出す痺れで、アソコの奥までぴりっと弾け、その都度ヒクヒクと反応を続けている。そんな下腹の反応は、膀胱にも刺激を蓄積して、緩んではならないものまで緩みつつあったのだ。
    
     ちょろっ、
    
     一瞬、少しばかりの水が流れる。
     それをきっかけに、決壊した。
    
     チョロロロロロロロロロロロ………………。
    
     失禁してしまっていた。
     ある程度の尿意は元よりあって、実のところ出そうとすれば出せる状態だったが、かといって我慢が利かないほどでもない。そういった具合にあったアソコは、度重なる刺激によって我慢の力が緩んでいき、ついに噴き出すこととなったのだ。
    「あっはははははは! 失禁とは! 王族が失禁とは! 血族の名を汚すにもほどがあるのではないか? お前、それはもはや血筋に恨みでもあるのかと疑うぞ! 自分を貶めてまで家名に傷をつけたいのかとな! はははははははははは!」
     ユミルの笑いが天井を貫く勢いで響き渡った。
     そのまま笑い死ぬ勢いで、笑いのあまり平手打ちまで中断して、しばらくは腹を抱えていた。やっと笑いがやむ頃になってな、声色によって表情が目に浮かぶ。未だ愉快でならない顔をして、きっと平手打ちを再開しようと考えていた。
    
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
     ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!
    
     そして、実際に再開された。
    「仕置きの理由が増えてしまったな? 我が執務室を尿で汚すなど、一体どう掃除してくれるのだ? 匂いが残ったらどうする? いや、綺麗になったとしてもだ。お前が小便を垂らした事実は消えん。その不快感を一体どうしてくれる? どう責任を持つ?」
     掃除をして謝るくらいしか、マリエルには何の責任も取りようがない。
     しかし、マリエルは言ってくるのだ。
     不快な気持ちはどうするのか。尿が染み込んだ部分への、その気分の悪さはどうするのか。マリエルにはおよそ払拭しようのないことまで、しかしユミルはわざとらしくねちねちと、嫌らしい声で追求を続けてくるのであった。
     無論、掃除はさせられた。
     自分自身の失禁が作った水溜まりを雑巾で拭き取って、その雑巾が吸った水気でマリエルの手には匂いが移る。
     アリシアと目が合った時、そこには絶望が浮かんでいた。
    (ごめんね……こんな母で…………)
     己の肉親のこんな惨めを見て、何も感じない娘がいるだろうか。
     アリシアに余計な絶望を与えてしまった。
     せめて失禁さえしなければ、今ほどの顔はさせなかったかもしれないのに……。
    
    
    

    
    
    
    後編 結末
    
     ユミルはすっかり気を良くしていた。
     母娘の暗く染まった表情は、逆にユミルを明るくしていた。
     マリエルの失禁は、どうやらむしろアリシアを打ちのめしていた。自分の母が小便を垂らす姿は相当に堪えたらしい。その絶望した娘を見ることで、マリエルもまた連鎖的に沈んでいき、二人の顔からは目に見えて光が薄れていた。
     心のどこかでは可能性を信じて、ぐっと堪えてチャンスを待つ。
     諦めない気持ちを抱き続けようとする粘り強さの気配が今まであったが、それが消えたとまでは言わないまでも、めっきり薄れているようだった。
     そこでユミルは一つの計画を立てた。
    
    「モニュメントを作るぞ」
    
     歴史の象徴を意図したり、偉人の偉大さを語り継いだり、自らの権威を誇示するなど、様々な意図によって建造物は作られる。
     ではユミルの意図は何か。
    
     王族二人を参加させた上で、魔力主義を象徴するモニュメントを建造する。
    
     かねてより魔力主義廃止を目標とし、あらゆる事柄を魔力の高低によってのみ判断してしまう風潮を何とかしようとしてきたのが王族である。その王族自身が莫大な魔力の象徴であり、魔力主義の根幹を支えているのだから皮肉なものだが、とにかく代々より廃止を志してきているのだ。
     ユミルにも、その理屈はわかる。
     建築、芸術、数学など、魔力の高低に関わりなく、魔法が使えずとも才能を発揮できる分野はいくらでもある。そういった分野ですら、その分野の才能よりも、魔力の有無が優先され、優れた人間さえもみすみす奴隷に堕としかねない。
     そんなことはユミルに限らず、いかなる魔力主義の貴族とて薄々とわかっているのだ。
     しかし、既得権益を手放すつもりがない。
     頭で理解していることと、実際に心で同情したり、問題を問題と感じるか否かはまた別である。
     そもそも、魔力はないが別の分野で優秀という人間は、それこそ奴隷名目で確保すればいいだけの話だ。奴隷といっても、その待遇は持ち主の好きにできるのだから、優秀な人間を殊更可愛がりたいと思うのなら、それぞれ勝手にそうできる。
     よって、ユミルに現状を変える気はさらさらない。
     むしろ王族の権威を乗っ取り、我こそが新たな王族となろうとする野望さえ抱いている。魔力主義廃止の動きを鬱陶しく思い、王族を目の敵にしている貴族は他にもいるため、それらとの連携も十分に進んでいる。
     そして、王族をひとしきり奴隷扱いした上で、その王族にモニュメント建造の労働をやらせることは、いよいよ権威失墜の象徴となるだろう。
     見せてやりたいものだ。
     王族の寛大なる目標を指示し、奴隷解放を夢見た市民に、その聖人君主がズタボロになっている姿を――。
    
     その日のうちに予定を組み上げ、数日後には作業開始の命令を出したことにより、母娘は作業員として現場に駆り出される。
    
     当然、下着姿だ。
     魔封じの首輪に付与されたもう一つの効力として、定められた領域の外には決して出られないというものがある。その領域を再設定して、作業現場一帯からは決して逃げられないようにされた上、しかも衣服がまともに与えられていない。
     ブラジャーとショーツの替えだけが用意され、シャツなど一枚もありはしない。
     しかも、ショーツは全てTバックで、ブラジャーもカップ部分の布が少ない。谷間を見せびらかすためのハーフカップだけでなく、乳首の部分を穴あきにした構造に、乳首だけを隠すマイクロ型など、いやらしさにもバリエーションがあるくらいだ。
     そして、現場の他の奴隷は男ときている。
     ボロボロのシャツを着たり、生気のない眼差しでぼんやりしながら、現場の指揮官に言われるがまま働く人形と化している。生きる希望などありもせず、これが自分の人生だと受け入れてしまった者達の、悲しい姿に溢れている。
     その中に母娘は混じっていた。
     男しかいない現場の中の、ただ二人の女としてチラチラと注目を集めつつ、母娘揃ってあらゆる感情に飲み込まれることとなる。
    「お母様。これが……」
    「ええ、そうよ。アリシア」
     魔力主義が生み出す奴隷階級の扱いは、母娘の二人とも、市街地の視察によって見たことはあった。だが、それは町中の店で鞭打たれながら働いたり、力仕事や床掃除といったことは全て奴隷に任せた上で薄給といった酷さが中心だ。
     虐待同然の扱い、まともに服も着せてもらえない扱い。
     確かに間違いなく、奴隷の実態を目の当たりにした経験はあるのだが、とはいえ全て何もかものケースを確認しきったわけでもない。広々とした現場に大量の奴隷を投入して、大がかりな作業に大勢で当たるというのは、二人にとって初めて目の当たりにするものだった。
     しかも、見るどころか自分達が投入され、周りと同じ扱いで働かされる。
     モニュメントを作る手順は単純だ。
     必要な石材を採石場から地道に運び、所定の場所へ積み上げる。指定の石材は粘土化加工が可能なものらしく、魔法を使える者が逐一粘土化していくが、作られた粘土を捏ねて固める作業は奴隷に任されている。
     乾燥すれば再び石に戻るので、魔法によって乾燥までの時間を調整されたものを扱って、デザイン通りの形に近づけていく。
     巨大なモニュメントになるため、木材によって高台を組み上げて、高所作業のための足場を作る。その組み上げ作業もまた、やはり奴隷の役目とされていた。
     どの奴隷がどの役割に回るかは、現場監督の采配によって決定される。
     母娘の場合、採石場との往復で地道に運び出す役が任されていた。
     重労働なのは言うまでもない。
     それは本来、男の体力で行うべき作業であり、しかも魔封じの首輪があるために、魔力による補助も利かない。
     たったの一往復をするだけで、二人して足腰に負荷を感じていた。
     棒に紐を括り付け、カゴを吊したものを使って、地道に往復を繰り返しての運搬となるのだが、肩に棒を担いでいれば、肌に食い込む痛みがしだいに現れる。蓄積された皮膚への負荷で、少しずつ赤らみも帯びてきていた。
     何度か往復するうちに、母娘はもう音を上げそうになっていた。
     他の周りの奴隷は問題なく作業を続け、ペースも変えずにやっている中、母娘だけの足取りが明らかに重くなっていた。
     そのうち、二人は気づく。
     奴隷といっても、それぞれ体格に違いがある。おそらくは過酷な現場で鍛えられ、嫌でも屈強にならざるを得なかった男の、筋肉に満ちた体つきをちらほらと見かけるのだ。体力のある面々が采配によって配置され、そうでない者は他に向いている作業に回されていた。
     もちろん、奴隷を使う側には奴隷への気遣いなどなく、ただ作業効率を気にしているだけなのだろう。
    「いいケツだなぁ?」
     時折、卑猥な言葉を投げかけられた。
    「重くて大変だろう」
    「おっぱいがゆさゆさしてるもんなぁ?」
     惨めにもほどがあった。
     仮にも、奴隷のこうした身の上を案じて、そんな現実を変えようと目標を持っていたのに、その奴隷から蔑まれるのは堪えるものがあった。
     しかも、言葉の辱めだけではない。
     急に後ろに近づいて来た男が尻を触って通り過ぎる。すれ違いざまに胸に手を伸ばして揉んでくる。そういった行為がたびたび繰り返され、母娘はそのたびに声をあげていた。
     やめてください。触らないで。
     拒むための言葉をその都度口にして、しかし一度としてやめてもらえることはなかった。
    
     ユミルが直々に許可を出しているのだ。
    
     二人へのセクハラは自由であると、正式な触れをユミルが直接発することで、奴隷達の誰もがそういう認識を抱いていた。
    
         *
    
     ユミルは大喜びだった。
     モニュメントの建造を命じて、そこにわざわざ母娘を放り込んだのは、もちろん奴隷と同じ扱いで働く王族の惨めな姿が見たかったからだ。魔力主義を象徴するためのモニュメントを王族参加の作業で作らせる。政治的な意図は大いにあるが、しかしこの優越感こそがユミルにとっては本命だった。
    「実に気分がいい」
     母娘が運搬作業を行っていた。
     マリエルが前に、アリシアは後ろに、それぞれ棒の前後を肩に担いで、吊したカゴに石材を積み上げている。肩と足腰に負担を感じながらの運搬作業で、早速のように二人は顔をやつれさせていた。
     その周りでは男同士のペアも同じ作業に当たっているが、屈強な男だけあり、一時間やそこらでは音を上げない。
     それどころか、二人にいやらしい言葉を投げかける余裕があった。
    「今日もおっぱいがゆさゆさだなぁ?」
    「後で揉んでやるよ」
    「そのケツ、いっぱい触ってやっからな!」
     後ろから追い抜かれていきながら、あるいはすれ違いざまに、母娘はしょっちゅう言葉のセクハラを受けている。
     触られる場面を目の当たりにできるまで、そう時間はかからなかった。
     数十分も見ていれば、尻に触ろうと石材をその場に置き、後ろからこっそりと駆け寄る男を何度か見かけた。急に尻をタッチして驚かせる場面を複数回にわたって目撃して、奴隷ごときに触られる王族という素晴らしい光景をユミルは存分に楽しんでいた。
     土や石に触った手だ。
     その汚れが手から母娘へと移っていき、白かったブラジャーや透き通っていたはずの素肌が土汚れを帯びてきている。それぞれの金髪も、まともに洗う機会がないせいで、艶がすっかり落ちていた。
     やつれた顔で美貌も損なわれつつあった。
     さらに採石場での様子を見ると、カゴへの積み込みを行う最中に、二人の周りに男達が集まる場面さえあった。
    「へへへっ」
    「領主様の許可だってあるんでな」
    「遠慮無く休憩させてもらうぜ?」
     男の群れに取り囲まれ、逃げ場もなく二人そろって触られていた。
     後ろから抱きつくように、両腕を巻きつける形で捕らわれて、その上で正面から胸を揉まれる。背後に組み付く男は擦り付けんばかりに腰を動かし、明らかに尻へ股間を押しつけ楽しんでいた。
    「や、やめて……」
     アリシアの声がか弱い。
    「まだ……作業が……」
     だから許して欲しいとばかりのマリエルの声も、実に弱々しく覇気がない。
     いい光景だった。
     ユミルはそのまま見学を決め込んで、まさか止めに入るはずもなくニヤニヤと見ていると、状況は悪化する一方だ。
     ショーツの中に手が入る。
     ブラジャーを取り外され、生の乳房を直接揉まれる。
     四つん這いのポーズを取らされ、肛門を視姦された挙げ句に性器を愛撫され、快楽魔法の効果があるので簡単に絶頂する。
     もはや陵辱の光景に近づいていた。
     男の群れが女二人を取り囲み、思い思いに恥部へ触って愛撫して、二人の感じた様子を見ながらケラケラと笑っている。いい休憩が得られたと、奴隷の身分ではそうそうありつけないご馳走で有り難いと、男達は実に楽しそうに母娘を嬲っていた。
     その皮肉を彼らはわかっているのだろうか。
     母娘の政治が成功して、魔力主義の撤廃が進んでいれば、向こう数年ほどで奴隷生活から解放される未来もあったかもしれない。そんな恩人になり得た王族に、奴隷自らが辱めを与えているのだ。
    「ま、仕方あるまい?」
     彼らは小さい頃から奴隷として生きてきた。
     外の政治などろくに知らず、王族がいかに理想や正義感を抱いていたかなど知る由もない。支配者階級など皆同じと、悪い方へと盲目的に信じ込んでいてもおかしくないのだ。
    「気分はどうだ? ええ? 王族さんよォ?」
    「政治争いに負けるってのは恐ろしいもんだなぁ?」
    「王族だろうとこんな目に遭うとは、世の中わからねーもんだ」
    「おかげで俺達はいい思いをしてるわけだがな」
     男達の手という手の数々に嬲り尽くされ、しかし彼らはある程度のところで切り上げる。そうしなければ、作業の成果が遅れすぎると、管理者にどんな罰を受けるかもわからない。その懲罰はおよそ虐待的なものであり、奴隷側の言い分が聞き入れられることなどまずないため、遊びすぎてはまずいという焦りもあったはずである。
     そして、男達が去った後には、まるで虫の死骸でも放ったように、手足をだらりと伸ばした二人の姿が残されていた。
    「まったく、いい姿だ。面白くてたまらない」
     ユミルの口角は吊り上がる。
     体中が汚れまみれに、下着をどちらも脱がされその辺りに放られての、愛液を存分に垂らして放心しきった姿は、まるでレイプでもされたかのようだ。
    「ま、似たようなものか」
     性器の挿入がなかっただけで、あれだけやられれば精神的な苦痛も大きなものになっただろう。愛液の広がりようはさながら失禁、目の虚ろぶりも魂が抜けたようだった。
     二人の心は着実に死に近づいている。
     夢も希望も失って、絶望に飲み込まれるのは時間の問題だった。
    
         *
    
     二人はそれでも、最後の最後まで希望を抱き続けようとしていた。
     きっと助けは来る。
     必ず逆転のチャンスは来るはずだと、そう信じながら励まし合い、身を寄せ合いながら重労働に耐え忍ぶ。痴漢やセクハラの日々に心を削られ、死んだような虚ろな眼差しを浮かべることがどんなに増えても、心のどこかにはまだ諦めない気持ちは残っていた。
     しかし、一向に助けが来ることはなく、モニュメントは完成に近づく一方だった。
     やがて、完成の時を迎えた。
    
     モニュメントは腕だった。
    
     土台から直接腕を生やして、その手には杖が握られている。
     特定の人物を称えるなら、その人間の銅像を建てればいい。
     腕というパーツだけを切り取って、誰というわけでもないモニュメントをデザインしたのは、誰か一人でなく、この国の全ての魔術師の栄光を象徴するためだ。魔力を持つものの輝かしさを殊更にアピールするための、逆に言うなら魔力を持たない者への蔑みの意図を裏に隠したモニュメントであった。
     その式典の場に母娘はいた。
    
    「ご覧になるといい! この貧相な奴隷と化した王族の姿を!」
    
     ユミルは演説を始めていた。
     モニュメントを背に高台へ上がった上で、その左右には首輪の付いた母娘を並べている。ユミルの握った鎖が首輪に繋がり、両手を見れば腕は手枷に封じられている。もちろんまともな衣服は着せず、ボロボロになった下着だけを着用させての、はしたなさに加えて汚らしさまで兼ね備えた格好は、王家の転落を象徴するには十分だった。
     ユミルは市民に説いていた。
     この二人の王族がいかに愚かな政策を試みて、その結果として捕らわれの身となっているのか。屋敷で使用人としての日々を過ごしてきたか。さらに奴隷として働いて、この魔力主義の象徴を作り出す一員となったことも強調した。
     しかも、ユミルはおもむろに市民に背を向けた。
     いや、母娘と向かい合ったのだ。
     それぞれのショーツを脱がし、右手と左手を母娘の膣に挿入する。
    「あぁ……!」
    「いやぁぁ……!」
     軽く上下にピストンして、たったそれだけの刺激が腰がくねくねと動き回った。甘い強制を上げ、淫らなよだれを散らして仰け反って、二人揃って簡単に絶頂していた。
     そして、二人は膝をつく。
     もう逆らう気力などないように、ぐったりと肩を落としてへたり込み、それと入れ替わるようにユミルは立ち上がっているのであった。
    
    「見ろ! これが王族の姿だ! 奴隷にも等しい卑しいメスこそ、ここにいる二人の姿なのだ! もはや王族に権威などない! 我を称えよ! 王族をこの手で堕とし、栄光を穢してみせた我こそが、この国の王に成り代わる資格を持つのだ!」
    
     その論調に市民は湧く。
     集まっている人々は、誰もがそれなりの魔力を持ち、奴隷制度を土台に贅沢をしている中流以上の人間達だ。良い暮らしをしている彼らがユミルに疑問を抱くことはなく、むしろ自分達の生活を壊しかねない敵として、王族のことを認識していた。
    
     ユミル! ユミル! ユミル! ユミル!
    
     熱い喝采が広がっていく。
     その熱気に満ちた空気の中、母娘はいよいよ希望の二文字を失っていた。
    
     これでは……もう…………。
    
     この場に集まっていた市民はもちろん、他の領地や王都にも、この報せは行き届く。王族二人の惨めな姿が国内に広まって、もう二度と権威が発揮できなくなるのは、もはや目に見えた未来であった。
     たとえ今更になって助けが現れ、逃げ出すことに成功したとして、もう二人に国を変える力は残っていない。
     夢が、目標が、完膚なきまでに叩き潰された。
     魔力主義の時代は以降も延々と続いていくことが、こうして決定付けられてしまったのだ。
     心の中に抱き続けたもの、辛抱強く未来を信じる気持ちをついに手放し、二人は完全なる敗北を受け入れていた。
    
    
    


     
     
     


  • フォリニックの情婦契約

     ウォルモンドでの一件を経て、ロドス本艦へ機関するはずだった一行だが、天災のために移動ルートを失い、付近の貴族への支援要請を余儀なくされる。幸い、快い返事が返って来るものの、その貴族はフォリニックに密かな情婦契約を求めてくるのであった。

    第1話 情婦契約~経験不問~
    第2話 媚薬 快楽+40%
    第3話 奉仕 男のピストン速度上昇
    第4話 快楽耐性半減
    第5話 陥落率+60%
    第6話 狂楽の会場へ