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  • 第2話「触診編」

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     白粉は衝立の裏でスカートをバサっと床に落とし、脱衣カゴに入れていく。ゆっくりとショーツを引き下げ、下半身裸になった。
     医師は脱ぐ瞬間は見ないようにしてくれていたが、衝立の裏から出ると容赦なく視線を向けてくる。
     白粉は制服の丈を下に引っ張り、陰部を隠しながらモジモジした。できればお尻も隠したいが、布が足りない。前か後ろかしか隠せないので、陰部を優先するしかない。
     真っ赤に俯きながら、診察台へ向かう。すると尻肉とは柔らかいもので、足が地面を付くたびにプルっと振動するのだ。そんな自分の肉の揺れが感触でわかり、白粉はさらに俯く。
     診察台に上り、仰向けになった。もちろん陰部は丈を引っ張るようにして隠したまま、ほんのりと頬を染めながら身をモジモジさせていた。
     医師がすぐ横にやって来て、見下ろしてくる。
    「お腹を出してください」
     その指示に白粉は泣く泣く従い、お腹をきちんと医師に見せた。下半身裸でこれなのだから、当然アソコは丸見えだ。なるべく太ももを締めて見えにくくなるようにしてみるが、到底隠しきれなかった。
     医師はヘソや腹筋を手でペタペタ触ってくる。
    「この辺が痛みますか?」
     お腹の中央を押しながら聞いてくる。
    「もう少し下の方が」
    「ここですか?」
     手はやや下にスライドされ、指が陰部に近づいてくる。このまま貝に触れられそうな予感がしてドキドキした。
     再び押されて、キリっとした軽い痛みが走る。
    「そこです」
    「なるほど、腸に近いあたりですね」
    「腸、ですか?」
     自分では胃が痛んでいると思っていたが、悪いのは腸なのだろうか。
    「お尻の穴もヒリヒリするって言いましたよね? 腸の調子が悪くなったせいで、直結している肛門にも影響が出たってことかもしれません」
    「胃は関係ないですか?」
    「あるかもしれませんが、決めるのは最後まで診察してからですね。うつ伏せになって、それからお尻を高くした姿勢になってもらえますか?」
    「はい」
     白粉は身体をひっくり返し、うつ伏せで医師に背中を向ける。そのまま膝を縦にして、お尻を高く突き出した。
     恥ずかしい穴が二つとも丸見えになる姿勢だ。
     どちらの穴も見られているかと思うと、耳までじわじわ熱くなる。
     尻たぶを両手に鷲掴みにされ、割れ目をグイっと開かれた。肛門に痛いほどの視線が注がれて、白粉はその恥ずかしさにひたすら耐える。
    「少し腫れっぽいですね」
     尻たぶから片手が離れたかと思うと、カチっと音が鳴る。それはペンライトのスイッチの音だと悟り、そしてお尻を照らされているのだとわかって、白粉は歯を食いしばった。
     ――恥ずかしいし屈辱だし、これがお尻を覗かれる時の気持ちなんですね。サイトウ刑事もこんな風に、こんな風に……!
     普段はできない羞恥体験を味わっているのだ。自分の小説の中にいるサイトウもこんな猛烈な羞恥心に悶えているのだろうと、白粉は身を持って理解する。
     やがて触れられてもいないのにアソコがじわりと熱くなり、ムンッとした湿り気を帯びていく。熱がうごめいて皮膚の内側を這い回るような感触が、肛門と性器全体を襲った。
    「ちょっと触診しますね」
     ペンライトのスイッチが切られ、お尻の穴にヌルりとした液体が塗りつけられる。指を挿入しやすくするための活性湯だ。指の腹がシワをじっくり伸ばすようにしてきて、白粉の肛門はほぐれていく。
     ――恥ずかしいけど、気持ちいい……。
    「はぁ……ぁっ……はあ…………」
     男の太い指が心地良くて、白粉は息を荒げ始めた。
     肛門マッサージの快感に白粉の瞳は熱を帯びて、吐息も色っぽいものに変わっていく。穴周りを責める指の感触を味わって、触れられていないはずのアソコが愛液を垂らす。しだいに量の増えた愛液は、太ももをつたって流れて始める。
    「そろそろ入れますよ」
    「……お願いします」
     何がお願いしますだろう。これではまるで期待しているみたいだが、身体は素直に反応してしまっている。少しでも快楽に浸ったことが医師にバレやしないかと、白粉は内心ヒヤヒヤした。
     しかし、どちらにせよ医師はただ診察をこなすのみなのだろう。
    「ではゆっくりいきますからね」
     肛門に人差し指が突き立てられ、白粉の中へゆっくりと侵入していく。
    「ひゃっ! あぁっ……!」
     内側に入り込まれる感触に、白粉はたまらず喘いでいた。
     挿入された指はそのまま沈んでゆき、ゆっくりと置くまで入り込む。お尻の穴は人差し指という栓で締められ、フタをされる形となった。
     ズプ、ズプ、ズプ……。
     肛門に指が出しいれされる。
    「ひゃぁぁぁ……」
     不思議な快感に白粉は喘いだ。
     ――サイトウ刑事はこうして尻穴をむさぼられ、ついにはより太いものをブちこまれ……。
    「はい、いいですよ」
     触診が終了する。
    「……あ、ありがとうございました」
     ショーツを履き直して診察室を後にした白粉は、処方箋を片手に肛門での快感を振り返る。サイトウ刑事が感じているであろう快楽の数々の実体験、思いのほか最高の取材ができてしまった。
    「また、来てみようかな」
     白粉はそして病院を後にしていった。 
    
    
    


  • 第1話「問診編」

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     近頃、お腹の調子が悪い。胃の内側から感じるキリキリとした痛みが何日も続いて、一向に治る気配がない。
     白粉花はさすがに心配になっていた。最初は一日もすれば何とかなるだろうと思っていたのに、それが全く治らない。何日経っても一向にお腹の痛みが引く様子はないのだ。
     下痢の出そうな痛みとは違って、胃のあたりがキリキリする。痛みの度合いも深刻というわけでなく、日常生活に支障はない。が、食べ物を飲み込むたびにお腹の内側からズキンとくるので、せっかく美味しいものを食べても味わう気分になれないのだ。
     心なしか、お尻の穴もヒリヒリする。胃の痛みに呼応するかのように、胃がキリっと痛むたびに肛門にもヒリヒリとした感覚が走る。お腹だけでなく、肛門も悪くなっているのだ。
     白粉は散々悩んだ。
     ちょっと痛むくらいで病院など、大げさではないか。そこまで大変な病気とも限らない。いや、病気には病気なのだろうが、肛門が痛む以上は肛門科を受診しなければならない。女の子である白粉にとって、お尻を診察してもうらう決意など中々できなかった。
     とはいえ、やはり何日も何日も痛みが続くのだから、やはり治療は必要かもしれない。
     最終的に決断を下すきっかけになったのは部活だった。せっかく好物の半額弁当を奪取できたのに、それを胃まで運ぶとズキンとくる。舌には確かに美味しい味がジワリと広がっているのに、それを楽しむ余裕が出ないのだ。
     これでは弁当を取る意味があるだろうか。
     負けた時に食べるどんべえもそうだ。部室で佐藤や槍水先輩と一緒に食べる食事なのに、楽しく食べられなくては二人にも悪い。最初は二人も気にかける様子はなかったが、ここ数日でさすがに顔色に出てしまったようで、「具合でも悪いのか?」と心配されてしまった。
     ちゃんと病院へ行かなくては、やはり心にも体にも悪い。
     白粉は肛門科を受診する決意をした。
     受付を済ませたのちに待合室から医師に呼ばれ、診察室の丸イスに座って医師と向かい合う。
    「えーっと、今回はどういった具合で?」
    「えっと、お腹が痛くて……」
     しどろもどろになりながら、白粉は自分の症状を伝えていく。途中で最近食べたものや便通の具合について聞かれたので、それにも答える。どんな病気かの検討がつき始めたようで、医師は「確かに病気かもしれませんね」と言った。
     肛門についても散々聞かれる。
    「ヒリヒリするんですよね」
    「はい」
    「穴の内側ですか? それとも、シワのあたりですか?」
    「……シワのあたり、です」
     お尻の穴に関する質問は、やはり恥ずかしい。――サイトウ刑事もこういう気持ちになってそれから……。筋肉刑事の内容を想像しつつ、白粉はほのかに赤くなり、俯きながら答えていく。
    「トイレのあとはきちんと拭いていますか?」
    「はい、一応」
    「紙に色がつかなくなるまでですか?」
    「それは、まあ」
     でなければ清潔にならない。それでなくとも肛門は菌のいる部位なのだから、トイレのあとは丁寧に紙で擦っている。色がつかなくなっても、あと一度だけ紙越しにお尻の穴をマッサージして、確実に汚れを除いておく。
    「じゃあ、便の残りは関係なさそうですね。拭く時もヒリヒリしますか? 指がお尻の穴にあたった時は」
    「はい。触るたびにも、少しヒリヒリ」
    「なるほど。あと、これも正直に答えて欲しいんですが、トイレでお尻を拭く意外の時も、肛門に触れたりはしていませんか?」
     その質問に白粉はドキリとして、みるみるうちに耳まで赤くなった。太もものあいだに両手を挟むようにして、白粉はモジモジする。
     白粉はたまに肛門でオナニーをしているのだ。
     そんなことを口にできるはずがない。かといって、医者に大事な情報を隠しては診察に師匠が出るかもしれない。
     言おう言おうと口をパクパクさせるものの、中々喋るまでいかない。答えるまでには大分時間がかかった。
     しかし、やっとの事で白粉は小さく声を発する。
    「……はい」
    「触れているということですね?」
    「ええ……」
    「それは自慰行為で触れている、ということですか?」
    「…………はい」
     性生活に触れられて、白粉の声はだんだん小さくなっていく。
     そして猛烈な恥ずかしさの反面、頭の中には小説の内容が浮かんでくる。――そう、サイトウ刑事はある日無実の罪にかけられ、取調室で性生活について根堀葉堀……。自分自身の羞恥心を種に、頭の中では新しい構想を練り始めてしまっている自分がいた。――私って、こんな時でも小説のこと考えていられるんですね。
    「どんな風にしていますか?」
    「えっと、それは……」
    「シワの表面をマッサージするようにしていますか?」
    「え、えと……」
    「指は出し入れしていますか?」
    「それは、その……」
     普通は堪えられるはずのない質問だ。相手が医者でなければ、患部が肛門でなければ、明らかにセクハラである。
     だが、それも必要な情報に違いない。
    「マッサージもするし、指の挿入もしているのでしょうか」
    「…………はい」
     白粉は取り調べで自白でもさせられたような気分になった。誰にも知られたくなかった自分だけの秘密を晒させられ、悔しい気持ちも湧いてくる。
     ――そうですね。無理矢理されるのはきっとこれ以上の屈辱感があって、サイトウ刑事はいつもこんな状況に耐えているんですね。
     小説の濡れ場では、羞恥心や屈辱感といった感情は何となく描写していた。実際に自分が羞恥や屈辱を覚えると、これがサイトウ刑事の気持ちなのかと理解が深まる気もしてくる。
     恥ずかしい診察を受けるのは、小説の発展にも繋がるだろうか。
     しかし、だからといって二度も三度も進んでこういう目に遭いたいかといったら微妙なところだ。
    「ちゃんと綺麗なときにしていますか?」
     まだ自慰について聞き続けるらしい。
    「一応、風呂場でしているので」
     恥ずかしさでか、白粉は膝の上でスカートを握り、太ももをモジモジとすり合わせていた。
    「場所が場所ですからね。石鹸で洗ってから、ということでしょうか?」
    「その、石鹸の泡を使って……です」
    「石鹸で洗いがてら、穴の周りをマッサージするのですね」
    「は、はい」
     菌のある箇所なのだから、石鹸は外せない。風呂場の椅子で股に手首を挟むようにしながら、泡でヌルりとした指先をつかって肛門をほぐす。お尻のシワを伸ばすように意識して、指の腹を使ってじっくりと撫で回すのだ。
     そうしていると、しだいに穴の周りがじんわり熱くなってくる。その快感を味わうと、しだいにアソコも濡れてくるのだ。
    「で、滑りも良くなるから指も出し入れできると」
    「……はい」
     ここまで詳しく情報を引き出されるなど、自分の胸の内を覗かれるかのようで何ともいえない心地だ。
     石鹸の泡があれば、確かに滑りは良くなる。肛門は何も入りにくい口の固い場所なのだが、泡さえあれば指の一本はすんなり入る。慣れていくうちに二本は入れるようになり、今では三本入れることも珍しくない。
     指をピストンさせていると、穴周りのじんわりとした快感はみるみる濃くなっていく。するとアソコも切ない感じになり、だらりと愛液をこぼすのだ。
    「昨日もしましたか」
    「…………」
     さすがに声が出せず、白粉はこくんと首を縦に振る。「したんですね」と、医師は何か納得したかのように頷いていた。
     そう、ヒリヒリしているにも関わらずシたくなった。白粉は昨夜の風呂場でも肛門でオナニーをした。それも壁に手を当て腰を突き出し、バックで突かれる想像をしながら弄っていたのだ。
     ――おら、お前の恥ずかしい穴をきちんと見せろよ。――は、はい。無理矢理命令されるような想像を元に、お尻の割れ目を両手で開いて、誰かに覗いてもらうイメージもしていた。とても気持ちよかった。羞恥心が胸を突き刺してくるようで、病み付きになって風呂も長引いてしまった。
     そうしたことまで喋らされないかと、白粉は内心ビクビクする。
     ――サイトウにもAVの趣味を聞かれて恥ずかしがるシーンを作って……。
     ビクビクするにも関わらず、やはり頭の片隅には小説のイメージが浮かぶ。
    「なるほど、わかりました。じゃあ、診察しますね」
    「あ、はい」
     ようやく問診が打ち切られ、少しほっとした。
     しかし。
    「パンツとスカートを脱いで、診察台に上がってもらえますか?」
     次の診察が待っていた。
     顔中に血流が上ってきて、白粉は耳まで真っ赤になった。ある程度の覚悟は決めていたが、やはり下半身を晒さなければいけないのだ。
     白粉は衝立の裏に隠れてスカートを脱ぎ始めた。
    
    
    


  • 菌なんてない!(非エロ)

    
    
    
     僕はいい加減に苛々していた。
    「すみません! また菌が……」
     スーパーで打撃を受けた帰り、ベンチで一緒にどんべぇを食べていた時のことだ。ほんの少し手が触れただけで、白粉花はそう言い出しハンカチを取り出し、僕の手を拭き始めた。
     この日、僕はただ半額弁当を買いたいだけだったのだが、どういうわけだか幾人もの客が売り場へ群がり、乱闘を巻き起こした。戦いの余波で茶髪の拳をもろに浴び、氷結の魔女――と呼ばれているらしい生徒に蹴り飛ばされる羽目になった。何故弁当を狙うだけでこんな怪我のリスクを負わなければならないのか理解できなかったが、とりあえず、今はそんな疑問はどうでもいい。僕は別に、弁当コーナーにあった美味しそうな一品を取れなかったから機嫌が悪いわけでは、決してない。決してないのだ。
     はっきり言ったところ、僕は菌だの何だのと言って接触した手を拭こうとしてくる、そんな白粉に対して機嫌を悪くしていた。
     初めて会った時から、ずっとこんな調子じゃないか。最初は逆潔癖症だなーとか、小学校にそういえば誰それに菌があるなんていう苛めがあったなーとか、そんなしみじみとした感想と抱いた程度で、別にイラつくなんてことはなかったのに……。
     最近になってから、どうにも胸の内がむかむかして仕方がない。ずっとこの胸のむかつきの正体は何だろうと考え続けてきたけど、今日になってとんでもない結論に辿り着いてしまった気がする。だが、自分の抱く心の正体に気づいてしまった以上、男としては積極的に行くしかあるまい。
    「あの、すみません。私、何か気に障るようなことしましたか?」
     僕はひょっとして怖い顔でもしていたからだろうか。白粉は心配そうな、不安そうな表情をして聞いてくる。
    「別に? 何も気に障ってはいないよ。ただ、言いたい事がある」
    「はい。えーと、何でしょうか?」
     この瞬間、僕は白粉の手を握った。強く、しっかりと、決して離さないように。
    「あ、あのっ! ささっ、佐藤さんっ、そんなにしたらまた菌が――」
    「白粉花!」
     真剣な想いを込めて、名前を呼んだ。すると白粉は慌しくしていた口を止め、緊張しながら僕を見つめ返してくる。
     僕は言った。
    「白粉、お前に菌なんてない」
    「えっ、でも……」
     顔を背けて肩を縮め、自信なさげに萎縮してしまう姿を見て、僕は握った手にさらに力を込めた。
    「菌なんてない! だってお前は、こんなに綺麗じゃないか!」
     後で思い出したら恥ずかしくなるとか、人に聞かれたら絶対に笑われるとか、色々とリスクを孕んだ台詞だったかもしれない。だけど、それでも一度言っておかずにはいられなかったのだ。白粉ほど可愛い女の子に、菌なんてあるわけがない。
    「そんな、私なんて……。綺麗、なんかじゃ……」
     白粉は顔を真っ赤にしつつ、それでも後ろ向きに沈んでいく。僕は一瞬、そんな白粉をどうすればいいのかわからなくなるが、ここで男が引いてはいけないんだ。白粉にどんな過去があるのか、以前イジメでも受けていたのかは知らないが、そのために気持ちを沈めてしまうのであれば、僕がその分引き上げてやる。
    「お前がどう思ってようと、少なくとも僕にとっては綺麗だ。だから菌なんていないし、だいたいそんなこと言ったら、人間の皮膚には誰だって何かしら付着してるんじゃないのか?」
    「えーと、すみません。私、菌の種類までは……」
     種類などと、こいつは最後の一文だけ聞いて前半の台詞は聞いていなかったのか? いいだろう。だったら、何べんでも繰り返してやるまでだ。
    「白粉花は充分綺麗な子だ。だから菌なんていない」
     僕は顔をぐいっと押し寄せ、力を込めて言葉を発した。
     そうしたら……。
    「えっ……ぐっ……」
     声だけ聞いて、一瞬何かと思ったが。
     白粉は何と泣き出した。ぐすん、と肩を振るさせながら、片手で自分の涙を拭う。僕が握ったままだから、右手は使えないのだ。
    「お、おい。もしかして、僕の方こそ変なこと言っちゃったか?」
    「違うんです! その……嬉しくて」
    「嬉しく――て?」
     僕はてっきり、自分の過ちで女の子を悲しませてしまったのではと不安になっていたから、これにはどんなに安心したことだろう。まったく、随分ひやひやさせられた。
    「ほんと、すみません。そんな風に言ってもらえたの、初めてで……。だから嬉しいくて。なのに涙が……」
     僕は白粉の頬に手を当て、こぼれた涙を指で拭った。その力加減のせいで、白粉の首の角度が変わってしまい、僕達は視線を重ね合う形になる。
    まずい、緊張する。胸の内側で心臓が早鐘のようになっているのがわかるどころか、鼓動の音までもが鼓膜に伝わってくる。こうも僕がドキドキしているのは、単純に女の子と目が合っているからか?
     いや、違う。白粉花と目が合っているからじゃないか。スーパーで初めて出会って、ハンカチで手をごしごし拭かれた時から、僕はずっとこの想いを抱き続けていたのだと思う。
     菌がどうだのに苛々したのも、そのせいなんだ。
     だから、伝えなければ。
     この胸の奥にある、もっと大事な気持ちを……。
    
    「白粉、好きだ」
    
     僕は柔らかな体をそっと抱き寄せ、両腕で包み込む。白粉は抵抗なく、ただ黙って胸に顔を埋めてくる。
    「はい、佐藤さん」
     背中を抱き返された時、僕にはしっかりと白粉の想いが伝わってきた。
     良かった、受け入れてもらえたんだ。
     僕の中にあった苛立ちは、すーっと消滅していった。
    
     ――翌朝、僕は白梅梅に殺された。僕は死んだ。