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  • 校長の脅迫/犬のお散歩 03

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     本来なら、こんな格好で出入りするなどありえない。
     教室なんかで裸とは、とんだ露出だ。廊下でもそうだったが、いつもならクラスメイトで溢れているこの場所で全裸でいるなど、落ち着かないこと極まりない。
     あまりにも落ち着かない。
     クラス中にこんな姿を見られるイメージが頭をよぎり、ありもしない蔑みや哀れみが浮かんでくる。
    「せっかくです。色々撮影しましょう」
     校長はポケットからデジタルカメラを取り出して、動画モードで麗華の姿を映し出す。
    「そんな……!」
     こんな姿で、こんなことをしている記録を撮られる。その事実に激しく顔が歪んでいき、表情筋の許す限り、限界まで顔つきが変形した。
    「ほれ、まずは教室を一周です」
    「くっ…………」
    「返事は?」
    「――ワン」
     本当に震えきった声が出た。
     カメラレンズを向けられていることを、肌でひしひしと感じながら、手と膝で歩いていく。そういえばこの姿勢で歩くお尻の良さについて、校長は散々語っていたのを思い出し、それが撮られていると思うとやりきれなくなった。
     黒板の前から、廊下側の通路を通った麗華は、教室の後ろを通して窓側の通路へ向かう。道へ入り、黒板へ向かっていき、教卓まで到着して一周となる。
    「よーく撮れましたよ? ほら、見て下さいよ」
     校長は麗華の前へしゃがんで来て、目の前で動画の再生をして見せつけた。
    「――っ!」
     顔が引き攣るほど、自分自身の滑稽な姿がよく撮れていた。
     四つん這いの背中と尻が鮮明な画質で、嫌になるほど綺麗に映し出されている。ポニーテールのうなじには首輪が見え、そこに繋がるリードもわかりやすい。
     そして、動画の中の麗華は歩いていた。
     左右に映る机の端と、床のタイルが麗華の進行に合わせてスライドして、やがて麗華は後ろの空間へ到着する。方向転換して窓側の通路へ向かう姿の記録が、容赦ない高画質で残されていた。
    「こんなもの……」
    「駄目です。しっかり見て下さい」
     思わず目を背けるが、校長はそれを許さない。
     校長の視覚からみた自分の姿を拝む羽目になり、尻の筋肉が本当に可動しているのがわかり、麗華はひどく顔を顰めた。教卓への到着で動画は終わるが、まさしく犬を見せられた気分だった。
     床に這いつくばって無様に歩く姿など、自分そっくりの人型犬と呼ばずしてなんと呼ぶか。
     そんな自分の姿を拝まされ、嫌過ぎる事実に改めて涙が出そうになった。
    「さて、じゃあ次はあなたの席へ行きましょう」
     麗華は自分の席へ向かっていくが、犬に椅子は必要ない。
     座るのはもちろん校長だった。
     いつもなら自分が座る席に麗華は座らず、ただ椅子の足元に膝をつく。人の席でふんぞり返る校長を黙って見上げ、これが自分と校長の関係であることを実感した。
     椅子に座る校長と、床に座る麗華。
     自分がどこまでもちっぽけになっていき、身分差が延々と広がり続けるのを肌で感じた。
    「よーしよし、いい子ですねぇ?」
     まさに飼い主が犬を可愛がる時の手つきで、麗華はその顔を両手で撫で回された。
    「ではエサの時間に致しましょう」
     校長はベルトの留め金を外して、チャックを下げる。硬い肉棒を摘み出し、その先端を麗華へ向けた。
     エサというなら、口でさせる気だろうと理解は及ぶ。だが、命令も受けずに自ら咥えれば、まるで麗華の方から食欲を出したように解釈されそうだ。
     だから、麗華は命令を待つ。
     本当に真っ平な指示を待ちながら、校長を睨み上げた。
    「……この性犯罪者」
     自分が不本意であること。従っているのも、仕方なくに過ぎないこと。それら示すための態度と言葉を放っていた。
    「おっ、いい表情!」
     そんな麗華の表情に向け、校長はパシャリとシャッターを鳴らしていた。犬がお座りをしている分際で、反抗心を剥き出しにした目つきの顔がカメラに収まった。
    「これだけの事をして、あなたはいつか必ず捕まる」
     ――パシャリ。
     麗華の言葉に応えるでなく、校長は二枚目の同じ写真を撮影して、それがよく撮れていることに満足げな顔をする。
    「あ、さっさとエサを食べて下さいよ」
     カメラ画面を眺めながら、校長は思い出したように命令してきた。
    「後輩のことさえなければ……。本当に食いちぎられないで済むのだから、さぞいい気分だろうね」
     わざわざ嫌味を言ってから、麗華は口を近づけた。
     例えば、チャンスを伺い隙でも突きたいのなら、本当は従順そのものになりきるのが賢いのだろう。もっとノリ良く犬になりきり、愛撫されればよがってみせ、校長が喜ぶ反応を見せてやるのが戦略ではある。
     そういう戦略を取る道が、麗華の頭の中にあるにはあった。
     だが、戦略とはいえ無様な犬ごっこを自分に許せるほど、麗華のプライドは安くない。賢い選択ではなくなるが、それでも不本意であることを表明せずにはいられなかった。
     屈辱的な目に遭えば遭うほど、意地になって折れてやるまいとする性格を麗華はしていた。
     練っていた策の一つは、こうして思いつき止まりとなり、肉棒をしゃぶるのにも嫌そうな顔を隠さない。
    「……んぷっ」
     亀頭を飲み込んだ麗華は、目で憎悪を訴えながら舌で唾液を塗りつける。到底やる気は出ないので、亀頭だけに向かって頭を動かし、唇を使って噛み付いた。
    「――んっ……んぷ……」
     本当なら、きちんと歯を使って噛んでいる。相手が単なる暴漢で、脅迫道具が刃物ぐらいであったなら、麗華の度胸であればとっくに性器に痛手を与えている。さすがに欠損を狙うほど無慈悲ではないにせよ、かなりの深い傷を与えていたはずだ。
     唇で噛むのは、それが出来ない変わりであった。
     そう思いながら、麗華は唇の肉に力を入れた。
    「ぷっ、プふぅ……」
     唇で圧するたびに亀頭は口内をつるりと抜け、唾液の途切れるような音が鳴る。先端とキスをして、唇を押し進め、亀頭を口内へ迎えて同じ事を繰り返す。
     唇を駆使した亀頭マッサージに、校長はさぞご満悦の様子であった。
    「そうだ。おっぱいに挟んで下さい」
    「チッ――。はぁ……」
     舌打ちと、ため息を出してやる。
     麗華は自分の乳房を持ち上げ、その狭間に肉棒を迎えて乳で圧する。
     あるのは猛烈な不快感だ。
     肉棒の熱さを通じて、こんな奴の体温が肌に如実に伝わる。まるで皮膚が汚染され、熱がどんどん侵食してくるような気持ちの悪さに、ゾッとしていた。
     ……こんな事に胸を使うのか!
     歯軋りしながら、麗華は肉棒をサンドイッチ状に圧迫する。左右の乳房を摺り合わせ、刺激を与えようと苦心するが、初めてなのでコツがわからずやりにくい。
     なんでこんな奴のために苦労を……。
     校長に気持ち良くなって欲しいなど、欠片も思わない。逆に殺してやりたいほどなのに、その相手に快感を与える苦労をするなど、強制労働もいいところだ。
    「はははっ、初心者ですねぇ?」
     校長は稚拙な技を嘲笑い、馬鹿にしきった顔で麗華の頭をポンポン叩く。褒められても嬉しくないが、せっかくの苦労を馬鹿にされても腹が立つ。
    「やらせておいて……」
     思っていることが口に出た。
    「だって、まさに素人技じゃないですか。いやもう、初々しくて笑いも出ますよ」
     ……こいつ、殺したい!
     黒い感情を噛み締めて、麗華は黙って睨み上げた。本当にこいつをどうにかできればと、そればかりを考えながら胸を駆使して刺激を与える。
     強く圧迫したまま上下にしごいたり、根元から絞り上げるようにしてみたり、したくもないコツの模索を続けていた。
    「いいですよ? そのまま口も一緒に使いましょうか。パイフェラですよパイフェラ」
    「調子に乗って……!」
     憎々しい。
     乳房の隙間から覗く亀頭へ向かって、麗華は頭を下げて口を近づける。あまりの憎さに、噛み切って校長の悲鳴でも聞いてみたい、残酷な欲望さえ沸いていた。
     そんな憎悪の対象を――ぺろり。
     乳房でしっかり抱き込みつつ、先端を舌で優しく撫でてやる。唇を当てて亀頭を飲み、先ほどのように唇を使う。これもいきなりコツは掴めないので、口と胸で交互に集中力を配分した。口に集中する時はただ挟み込むだけに止め、胸使いに集中する時は口を適当にした。
    「ぺろ……ぺろ……」
     続けるうちに慣れてきて、少しは同時の刺激ができるようにはなってくる。
     だが、何が悲しくて慣れなくてはいけないのか。
     こんな形で性経験を積むなど、真っ当ではない。いずれ恋人が出来たとして、相手のために発揮するのが、こんな奴から得た性技術になると思うと将来の気が重い。
     やる気など出したくなかった。
    「ほらほら、頑張ってください? だんだん上手になっていますよ?」
     校長にコツの模索を強要され、上達を求められる。適当にしていれば注意されるのは予想できたが、やはり本当に口を出された。
     拒否権が欲しくて堪らない事に耐え、麗華は麗華なりに、仕方なく上手くやろうと努力していた。
     そのため、だんだん麗華の動きは活発になっていく。
     初めは稚拙で、もっとチマチマしていたものが、少しずつ、それなりの経験者に見える動きになっていく。乳房の使い方、唇と舌による技術は向上し、こんな奴から得る経験が順調に蓄積されていた。
    「――じゅっ、じゅぅぅぅ」
     亀頭口に吸い付き汁を飲み、乳房の狭間へと沈めて亀頭を圧する。乳房による圧迫の中を出入りさせ、憎いペニスが本当に硬く雄々しく喜んでいた。
     乳房の狭間に抱きこんでいると、たまにペニスはドクンと脈を打つ。根元からピクピクと、喜ぶかのように反応する。それら全てが麗華の乳肌に伝わっていた。
     ――死ねばいいのに。
     ペニスが胸で喜ぶたびに、麗華は顔を顰めていた。
    「さて、麗華さん」
     校長は股元から麗華を離し、椅子から立つ。
     もう出すのだろう。
     どこにかける気か。あるいは飲ませでもする気かと思っていると、校長はなんと自分で肉棒をしごきだし、椅子に射出口を向けていた。
    「……なっ、何故!? そこにかける気なのか?」
     もちろん、だから自分にかけろとは微塵も思わない。ただ器物にかけたがる気持ちが、純粋に理解不能で驚きだった。
    「ああ、麗華さんにぶっかけてもいいんですけどね。せっかくなので、今回はあなたの努力の成果を、目に見えやすい形にしようと思いまして」
     とんだ余計なお世話であった。
    「目にって……。成果なんて知りたくもない!」
     麗華は声を荒げたが、校長は聞く耳持たずに射精する。
    
     ――ドクン!
    
     多量の白濁を椅子の上に、麗華がいつも座っている席に放出さる。ドロリとした液の塊が、椅子の一面をほぼ半分以上覆い隠すほどに広がっていく。
     何が成果だ。
     あなたの努力で、こんなに出ました、とでもいいたいのか。
     喜びなど到底ない。
     そんな事より、この体と心だけでなく、毎日使う席までもを校長は穢したのだ。
     死んで欲しい、殺したい。
     黒い感情が色濃くなり、この気持ちをいつまで抑えていられるのかと我ながら不安になる。
    「さて、麗華さんがあんまりエロいことをするもんですから。こんなに椅子が汚れましたよ?」
    「お、お前……!」
    「お掃除をしませんとねぇ? ほら、舌でペロペロと舐め取りなさい。これがあなたのエサなんですから」
     そんな指示を、校長はカメラを片手に出してきた。おそらくは動画モードで、精液を食するシーンを、椅子が綺麗になるまで撮るつもりだ。
     レンズが麗華を向いている。
     そして、椅子に広がる精液のツンとした匂いが、鼻腔を侵すかのようで気持ち悪い。
     今すぐ――今すぐにでも、こいつを殴りたい!
    
    「じ、地獄に堕ちろ!」
    
     麗華は衝動の叫びを上げる。
     怒りのあまりに赤い顔で、舌を伸ばして舐め始めた。嫌に青臭く、トロっとした食感が不快に舌を汚染する。
    「ん……じゅるっ、じゅっ、じゅぅぅ……」
     舐めるだけでは綺麗にできず、唇で吸うようにして口内へ導いていた。
    「じゅっ、じゅるぅぅ――」
     屈辱そのものの味を啜っていた。
     椅子の足を強く握り、腕の筋肉は震えるほどに限界まで力を込める。カメラのレンズを受けながら、自分のこんな姿を撮影されている無念と悔しさに全身を震わせてていた。
    
    
    


     
     
     


  • 校長の脅迫/犬のお散歩 02

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     ぺたり。
    
     ひんやりとした廊下の床に、手の平を二つ置く。四つん這いのまま足を進め、麗華はいくつもの感情の縄に胸の中身を絞めつけられた。喉をきつく縛りあげる見えない何かが、麗華をひどく息苦しくさせていた。
     まず、この首輪で繋がれた状況そのものだ。
    「うーん。やっぱり、こうして眺めるお尻っていうのは、なかなか実に素晴らしいものがありますねぇ?」
     まるで品評家が芸術を語る時のように、校長が麗華の尻を眺めてニヤけている。
     校長は麗華に前を歩かせ、歩行に伴いプリプリ動く尻たぶを楽しんでいる。犬が前を歩くのが普通だからだ。そして上から背中を見下ろして、さぞかしいい気になっている。
     人をこんな風に扱えるなど、どうかしている。
     頭の血が沸騰して、今にも爆発してしまいそうだ。
    「こんな大型犬が欲しかったんですよ。ははっ、最高最高」
     肌に巻かれた首輪の感触と、リードを握る人間がこんな男であることが信じられない。
     殺したい! 殴りたい!
     それが出来たらどんなにいいか……。
     女の身とはいえ、鍛え抜かれた麗華であれば、素人にすぎない校長を沈めるなど本当は造作もない。剣道部で全国優勝を果たす実力もそうだが、麗華の武力は単に競技上のものだけではない。実際に喧嘩沙汰になり、相手を気絶なりさせる必要性が出来たとしても、麗華には実践的実力があるのだ。
     だというのに、立派な性犯罪者を相手に正当防衛のチャンスさえも与えられない。
     それがどんなに歯がゆいことか。
     暴力で、蹴るなり殴るなりして解決という発想が、安直なのはわかっている。過剰防衛という言葉もある。だが、自分の身がこんな状況下に置かれ、それが許されればどんなにいいかと考えるのも、自然な心の動きに過ぎなかった。
     抵抗できず、受け入れるしかない。
     それは人権を取り上げられた気分そのものだ。
    「四足歩行のお尻っていうのは、とても良い眺めですよ?」
    「……知るか」
     麗華はぐっと頭を下げ、床だけを見つめながら歩いていた。
     今日は他の教員や生徒がいないという話だが、例えそれが事実としても、気が気でない。本当は誰かに見つかるのではないかと、焦燥にかられてしまう。
     ガラン。
     と、今にも教室の戸が開き、こんな事をしている麗華の姿を目撃するのではないと大いに不安だ。嫌な想像に限って頭の中を占領し、そして不安が心臓を打ち鳴らす。
    「ほら、歩く際の足って前後に動くでしょう? 太ももとお尻は繋がっているでしょう? すると、お尻の丸みも四つん這いだと上下プリプリなんですよ」
     大きな声で平気で語られ、麗華の不安は増幅していた。
     苛立ちも、屈辱も、恥ずかしさも、全てが増幅した。
    「ペラペラと」
    「ん? どうしました? 麗華さん」
    「人にこんなことをさせて、さぞかし満足だろうが」
    「……はあ」
     校長のとぼけたような声。
    「散歩くらい、黙ってやったらどうだ」
     唯一可能な、言葉と態度による反抗で、その口だけでも閉じてもらえないかと、怒気の篭った目で肩越しに睨む。ニヤニヤとした校長と目が合うと、校長は大げさに肩を竦めた。
    「そんな勿体無い。そのふんわりとしたお尻を褒めなくて、一体どうするんです? 綿みたいに柔らかそうな白い色艶が素敵じゃないですか。プリっとして肉厚なのが見てわかります」
    「だ、だから……」
    「それに、麗華さんとお喋りをするのも、なかなかオツでいいもんです。ほら、普通は犬語なんてわからないでしょう? 犬と会話をしながらする散歩って、貴重な体験じゃないですか」
    「うっ……!」
     麗華は泣きたいほどに顔を歪めた。
    「あなたは賢い大型犬ですから、今みたいに人間相手に意志を伝えられるわけです。全く、これが楽しい」
     校長はあくまで、麗華が動物だという前提なのだ。まるで本当は犬の鳴き声が出ているだけで、賢い犬だから犬語で意思を伝達できる。動物と人間の意思疎通が成立する。そういう設定のごっこ遊びで、麗華は本物の犬ということにされている。
    「くっ――こっちは全然楽しくない!」
     自分が情けなくなった。
     麗華の喋る全てが、校長の中では「ワン!」という鳴き声に設定されている。
     惨めな役柄のあまり、いっそ死にたくさえなってくる。自殺など本当には実行しないが、舌を軽く噛んでみる程度のことはしてしまった。
    「ほら、麗華さん。止まらないで歩きなさい」
     人間の黒崎麗華としてではない。犬にそういう名前をつけ、校長の中では渾名を呼んでいることになっている。完膚無きまでの犬扱いに、もう上を向けなくなった。
     本当に床だけを見つめたまま、麗華は進んだ。
    「床をクンクンする姿、いいですねえ?」
     言われた途端に反発が沸き、麗華は瞬時に頭を上げて前を見るが、気分は下を向いたままだった。
     二階の廊下を渡りきり、階段を上っていく。膝の置き方に若干戸惑い、少しだけ苦戦しながら段を進んで、三階の廊下へ到着する。
     三階は三年生の階である。すなわち、麗華の過ごす教室がこの廊下の先にある。
    「えーと。とりあえず、黒崎麗華って子のクラスにでも行ってみましょうか。場所はもちろんわかりますね?」
    「…………」
     麗華は何も答えない。
     ただ、無言で足を進める。
     すると、リードを軽く引っ張られ、校長はいきなり止まるように言ってきた。
    「返事はワンでしょう?」
    「はい?」
     思わず声に敵意を込めていた。
    「イエスかノーで答えられる質問には、イエスの時は『ワン』と返事をしてもらいます」
    「くぅ……! 人をこれだけコケにしといて、まだ落とし足りないか!」
     麗華は喚いていた。
     校長の中だけで喋り声を鳴き声に変換される分には、麗華が実際に鳴き真似をする必要はない。その意味では、米一粒程度にはマシだった。
     しかし、今度は本当の鳴き真似を要求している。
    「さあ、ワンと言ってみて下さい?」
    「こ、このぉ………………」
     とても言えなかった。
     人権を奪われ、尊厳を剥奪され、その上さらに何かを失うような気がして口が固く結ばれる。気がつけば、自分でも驚くほど唇は固く閉じられ、内側へ丸め込まれていた。
    「どうしたんですか? 麗華さん」
    「…………」
    「言わないと、大変なことになりますよ?」
    「………………」
    「写真、流してもいいんですか?」
    「それは……」
     頭ではわかっている。
     校長の言う事なら、どんな事でも従わざるを得ない。自分の状況など重々理解しているつもりだが、この犬の役とて、まともなごっこ遊びではない。校長にとっては正真正銘、麗華は犬にされている。その上、自分でも犬を演じれてしまえば、もうそういう事にされてしまう。
     ただマニアックなプレイに付き合うのではなく、本当のペットと飼い主の関係が成立する。
     ワンと鳴くか鳴かないかが、その最後の防衛線のように思えて躊躇いは強かった。
     だが……。
    
    「…………………………わん」
    
     本当に小さく小さく、蚊のような声で麗華は言った。
     このまま言わずにいれば、校長は携帯でも取り出して、今すぐに後輩の写真をバラ撒くと言うだろう。今でなくとも、後でバラ撒くと言うだろう。こうしていても、要求を取り下げてはもらえない。
     抵抗権がないことはわかっている。
     それこそが、人権の無さ。
     どんな大きな屈辱を飲み込んででも、こうなったらたかが二文字の言葉くらい、言ってやる以外に道はない。
    「聞こえませんよ?」
    「――ワン!」
     苛立ちに任せて、大きく鳴いた。
     その瞬間、手続きが完了して思えた。
     心の中では断じて認めていない事だが、書面上は主従関係が成立し、本当に自分がペットになった感覚がした。
     麗華は犬だというルールが生まれ、本人の認める認めないに関係なく、ペットと飼い主という事になった気した。その見えない鎖に喉を縛られ、息苦しい。まるで本当に呼吸困難になったような錯覚を覚えていた。
    「もう一回!」
    「ワン!」
    「クラスまで行けますね?」
    「……ワン!」
     もう泣きたい。
     こんなにも服従させられている自分が、あまりにも悲しく思えて泣けてくる。
    「では行きましょう」
     本当に涙目になりながら、それでも涙を堪えて前へ進んだ。
     プリッと動く美尻を無様に見せつけ、拷問的な精神の苦痛を堪えて手足を動かす。手の平をぺたりと置き、膝を前へ動かすたびに、針山を歩くようなありもしない激痛に悶絶した。
     一歩一歩が本当に痛い。
     拷問を受けた被害者さながらに顔を歪めて、いっそ自殺したい気分で歩き続けた。麗華の性格で本当に自殺はないが、死ぬ想像くらいはしてしまっていた。
     死んではいけない。
     麗華は自分に言い聞かせる。
     こんな男を野放しにしておいたら、この心の激痛をまた別の誰かが味わうはずだ。自分はまだ、肛門の皺を数えられても意地でも折れない性格だが、もっと気弱で折れやすい子がこうした目に遭ったらどうなるか。
     自分の打たれ強さを持ち上げたいわけではないが、ここまでされたら本当に死ぬ子がいるかもしれない。
     校長を許すべきではない。
     犬と飼い主の関係も、必ず破棄できる時がくる。
     自分の胸に炎を点すことで苦痛を和らげ、必ず逆転してやるという、もう何度したかわからない決心を更に改め、心が死なないように維持していた。それはまるで、瀕死寸前の延命治療をしている気分だった。
    「いやぁ、本当に楽しい。私は子供の頃は犬が怖い時期がありましたけど、今ならワンちゃんを欲しがる人の気持ちがよーくわかりますよ」
     そうやって言葉を口にし、惨めな思いをさせたいがために喋るのだろう。
    「……」
     麗華はなるべく聞かないようにして、黙って床の景色を眺めてみた。廊下の微妙な模様が流れていくのを、無意味に見つめて歩いていた。
     たまに横を見上げてみて、クラスの表札を観察する。
    「何も答える事がなくても、相槌でワンって言うんですよ」
    「……ワン」
     別に体力など有り余っていたが、やけに疲れた声が出た。
     こいつのせいで、とんだ心労だ。
    「元気がないですねぇ?」
    「誰のせいだ」
    「そうだ。語尾にもワンってつけましょう!」
    「冗談じゃない」
    「その台詞にさっそく!」
    「冗談じゃない…………わん…………」
     特殊な語尾を付けて喋るなど、言ってみればダサい。裸を見られるよりも、もっと別の意味で恥ずかしい気がして、無意識に声が縮まっていた。
     自分のクラスの表札が見えて、麗華は戸の前へ立ち止まる。
    「ここですか?」
     イエスで答えられる内容は『ワン』だったか。
    「ワン」
     頷く意味で、言ってみる。
     嫌々ではあるが、言わなければ訂正を要求される気がした。
    「だったら、早く入りましょう。麗華さんでも戸ぐらい開けられるでしょう?」
     確かに、犬にも戸の開閉はできるのだろう。
    「くっ、うぅ……」
     本当に徹底した動物扱いに、怒りに息を荒くしながら手で戸を引く。
     全裸で、リードなんかを繋げられた状態で、麗華は自分の教室へと足を踏み入れる事となった。
     床のタイルを手で踏んで、ペタリペタリと入っていった。
    
    
    


     
     
     


  • 校長の脅迫/犬のお散歩 01

    目次 次の話

    
    
    
     次の日曜日も、麗華は校長の呼び出しを受けていた。
     用事は当然、一つしかない。
     決まりきった用件を断るわけにはいかず、嫌でも従うしかない立場の麗華は、憎悪と苛立ちを抱えて学校へ向かう。今回はどういう事をやらされるのか。最悪の仕打ちを受けるため、麗華は校長室を訪れた。
     コンコン。
     性行為なんかのために、わざわざ外出し、ここまでやって来る手間なんかをかけた嫌さを噛み締め、半ば暗い気持ちでノックしていた。
    「おはようございます。麗華さん」
     厚顔無恥な校長の笑み。
    「どういった用件にせよ、最速で済ませて下さい」
    「おや」
    「自分のやってる事をわからないとは言わせない。そんな奴の顔も見たくないのは、当然です」
    「嫌われましたねぇ? いいですよ? あなたがどう思っていようと、懸命なあなたは従ってくれるのですから」
    「……っ!」
     麗華は歯噛みした。
     脅迫対象が自分一人であれば、麗華はとっくに警察へ行くなりしているのだ。屈辱的体験を喋ることになっても、こんな犯罪者を野放しにしないためだ。自分ならば、それくらいは耐えられる。
     だが、後輩女子の写真を盾に、自分以外の人の命運を握られ、麗華としては勝手な行動が一切取れない。
     相談はした。
     問題の後輩と話をして、一緒に警察へ行かないかと。
     結果、後輩は首を振った。
     後輩はこの一件にすっかり弱気だった。例え写真を握られようともお構いなく訴えよう。などと気概を持てるのは麗華だけで、後輩はひたすら自分の裸の流出を恐れている。
     問題が問題だけに、気合いや根性論で「立ち向かえ!」とはさすがに言えず、具体策を思いつけないまま時間だけが経ち、この日曜日に再び呼び出しに応じている。
     それはまるで、校長の手の平の上にいる気分だった。自分だけの問題なら、むしろその方が戦いやすかったこと。後輩を気遣うあまり、そのせいで手も足も出せないこと。それら全てが校長の計算通りで、気ままに踊らされているこの状況が、とにかく恨めしい。
     後輩のことさえなければ……。
     とにかく、歯がゆかった。
     優れたプランが浮かばない自分にも、腹が立つ。
     今は耐え、無残な扱いを受け入れながら隙を伺う。確実性のない、賭けに近い計画だけが麗華の中には薄っすらと、浮かんではいる。それさえも、実行の段階には至っていない。
     唯一の救いは、現在の被害者は自分だけらしいことだ。後輩はもう過去の被害者で、ひとまず手は出されていない。他のクラスや学年にも、特に脅迫を受けている者はいない。
     救いとはいえない救いだが、これ以上他に人質同然の生徒がいない事は、麗華にとって有り難かった。
    「さーて。前回は胴着でフェラチオをしてもらいましたが、今回はなにをしましょうかねぇ?」
     校長はわざとらしく、嫌に高い声を上げて迷ってみせる。首を大きく傾げ、どうしよう、どうしよう、と執拗に声に出して見せながら、全身の挙動まで交える。その姿は完全に舞台演技じみており、麗華の苛立ちを煽りたいのがよくわかった。
     そして、相手がわざと煽っているのだとわかったところで、苛立ちを上手く抑えられるほど感情のオン・オフなど器用にできない。
     剣道の試合でなら話は別だ。その強さ故、執拗な煽り行為や挑発を受けたこともあり、多少のことは無視したり、軽く流せるような耐性がある。
     だが、自分の体、性の強要に関わる内容なのだ。
     どうしても感情が沸き立って、ふつふつと心が煮えるようになってしまう。こんな状況でまで感情をオフにして、何も感じずにいられるほど、高度な心のスイッチはさすがになかった。
    「ま、ず、は。全裸にでもなってもらいましょうか?」
     腰を折り曲げ、わざわざ下から顔を覗き込む、鬱陶しい上目遣いで麗華を見る。
    「どうする気ですか?」
     麗華は校長を睨み返す。
    「心配なさらず。今日は貸切ですよ? 他の先生方はいらっしゃらない予定なので、見つかる心配はありません」
     いや、そもそもこの部屋で何かをする分には、鍵でも閉めておけばいい。貸切、誰もいないという言葉自体が、まるでこれから行うプレイ内容を暗示しているようで、麗華に若干の不安がよぎる。
    「警備は? 用務員は」
    「ああ、それはいますよ? ま、そんなに歩いちゃいませんから大丈夫ですよ。見つかる心配をするほどではありません」
    「……やっぱり。全裸で、外でも歩けと?」
    「あくまで校舎内です。本当に外に出すほど、私も馬鹿ではありませんから、ご安心を」
    「何がご安心だ……」
     手や口を使う分には、もちろん死にたいほど真っ平なのが本心とはいえ、微粒子程度にマシではある。部屋を出て、校舎内とはいえ全裸徘徊を強要されるくらいなら、室内で胸でも揉まれた方がいくらかいい。
     どうせ、いつ本番まで要求されるかわからない身だ。
     貞操の危機に変わりはない。
     人に見つかるスリルなんかに肝を冷やすくらいなら、まだ安全な室内を望みたい。全裸徘徊を行うなど、ただでさえ嫌なこの状況に、屈辱の上乗せだ。
    「万が一見つかりでもしたら、あなただって困るはず」
    「大丈夫ですよ」
    「なんでそう楽観的なんだ!」
     麗華は自分の意見を通そうと食い下がり、なんとか校長側に妥協させようと押し問答を繰り広げる。あくまでも譲らない姿勢の校長は、余裕と煽りを交えた嫌らしい笑みで、適当な言葉を並べて麗華の意見を跳ね除ける。
     大丈夫、平気平気、問題ない。
     そんな言葉を無造作に並べられ、それでも麗華は交渉を試み続けた。
     だが……。
     結局、校長を折れさせるのは無理だと、麗華がそう悟るまでのあいだ、無意味なやり取りが続いただけだった。無理だと判断してようやく、麗華は悔しい思いで校長の指示に従った。
    「さ、全裸ですよ?」
     麗華はスムーズに服を脱ぐ。躊躇い、恥じらいで手を止めることなくセーラー服を脱ぎ、スカートを脱ぎ、下着を外しにかかっている。
     恥じらいはある。屈辱もある。
     怒りで手も震えていた。
     ただ、初々しく脱ぐのを躊躇ってみせたところで、それが校長を喜ばせる事くらいは想像がつく。少しずつ肌が見えていく瞬間こそ、男を余計に楽しませる。どうせ全裸を強要されているというのに、脱ぐ行為までジロジロ見られるのは、プラスアルファで不愉快だ。
     だから、麗華はさっさとブラジャーを外していた。
     一見ケロっとして見える表情の裏側で、本当はこんな男の目など潰してやりたい激しい気持ちを抑え、パンツを脱ぐ。もはや下の毛を見られようとも、表面上は動じなかった。
    「脱いだけど?」
     どうせ全て観察される。
     全裸になった麗華は腰に手を当て、片手で机をバンと叩くようにしながら、そこへ脱いだものを置く。手で胸を隠したり、アソコを隠すような動作は取らなかった。
     恥じらいはある。証拠に顔が染まっている。
     怒りか羞恥か。あるいはその両方か。
     それはともかくとして、身体にも微かな痙攣に見える震えがあり、肩が薄っすら揺れていた。
     我慢強さがよく出ていた。
     麗華はとっくの昔に、もっと尊厳を剥奪するような無様な扱いを受けている。あらゆる体の記録を取られ、その上、校長相手のフェラチオだ。羞恥心が薄れるというよりも、それに耐え抜く我慢強さが身についていた。理不尽な状況下でも決して狂わず、自己を保てる芯の丈夫さが備わっているのだ。
     とはいえ、耳も赤い。
     麗華がどう耐え抜いていたとしても、その見た目は、このくらいは全然平気だと言い張って、まるでやせ我慢をしている姿に見える。
     校長がその内面に気づいていても、いなくても、関係ない。
     それは立派に、男目線から面白く見える光景だった。
    「どれどれ?」
    「んっ……」
     校長は両手で乳房を揉み始めた。まるで自分には人の胸を揉む権利があるかのように、まさしく当然の行為として校長は指を躍らせる。
     手の平から伝わる体温、食い込む指の感触。
     全てが不快に思えた。
    「おやぁ、やっぱり柔らかいですねぇ?」
     猫なで声が、麗華の苛立ちを刺激した。
     下から持ち上げ、プルプルと揺らして遊ぶ。玩具遊びの感覚で胸を触られ、心底腹が立っていた。
     何よりも、こんなことで乳首が突起する、自分自身の肉体の反応さえも、麗華にとっては気に食わない。こんな時こそ身体のスイッチを切り、できることなら全ての性感帯をオフにしてやりたかった。
     心の中ではそう努めているが、まるで成功していなかった。
    「さてさて、今日は首輪を用意しています。どんなプレイをすると思いますか?」
    「とんだ変態行為でしょう?」
     もう、内容には想像がついている。
    「その通り! 昨日ほど、ペットショップで犬用の首輪とリードを購入しましてね? 麗華さんには犬になって頂きます」
    「……そんな事だと思った」
    「ほら、首を出して下さい?」
     校長が首輪を用意するのを見て、麗華はくいっと顎を上げ、自分の首を差し出した。歯を食いしばり、呪い殺さんばかりの眼差しで睨みながら。
     カチリ。
     首輪がはめられる。
     確かに、今の麗華は立場が低い。脱衣命令を拒否できないような状況だが、それがこの瞬間、明確に形にされたような気がした。首輪を付けることで、立場の違いをはっきりと目に見える形にされた。
     リードを繋がれ、お散歩の準備が完了する。
     こんなゲスな男を相手に、リードを握られたというだけで、自分という存在の手綱を握られた気分がした。自分の体の主導権を取られた気がした。
    「黒崎麗華さん。あなたは犬です」
    「……」
     そんな事を宣言され、麗華は大きく顔を歪める。
    「どうしました? 犬といったら四足歩行でしょう。いつまでも人間みたく直立するんじゃありません」
     そこに人権の保障はない。すっかり、麗華を奴隷扱いした気でいる校長は、直立する麗華の尻を叩いた。
    「――ほら!」
     ペチン!
     さも親が幼い子供でも叱るような、理不尽極まりない扱いである。
    「早くしなさい?」
     ペチン!
     尻たぶが揺らされた。
    「私は……こんなことじゃ……」
     あえて、全ては言わない。
     だが、絶対に屈してはやらないという決意を。最後には必ず逆転して、目にもの見せてやろうという意地を、心の中に深く宿した。
     麗華はそして、膝をつく。
     両手を床にぺったり置き、四つん這いの姿勢を取る。丸い尻がよく目立ち、そして校長がリードを握っている。服を着た男が全裸の女を従えるその構図は、まさしく奴隷とその飼い主そのものだった。
    「さ、行きましょうか」
     校長がリードを引き、麗華はその後へついていく。
     戸が開かれ、麗華の犬のお散歩が始まった。
    
    
    


     
     
     


  • 校長の脅迫/フェラチオ 03

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     根元を握るだけでも右手に腐敗が侵食し、みるみると血肉を穢されていく。汚染物による腐食が皮膚の内側へとみるみる進み、右手全体、そして手首を通じて右腕全体を満たす。それほどの気持ちがして、ただ触っているだけでも泣きたくなった。
     それに唇をつけるなど、それだけで体中がブルっと震えた。
    「ふふっ、念願が叶いましたよ」
     校長の浮かべる嬉しそうな顔に、麗華は心底腹を立てた。
     生徒にこんな思いをさせ、愉悦に浸るなど最低だ。
    「……うるさい」
     一度睨み返したあとは、なるべくヘソを眺めることにした。自分にこんなことをさせ、喜ぶ顔が視界に入ること自体が腹立たしい。かといって、ペニスを見つめるのも気分が悪い。麗華にできる精一杯の対処は、最も不快感の少ない部位に視線を集中することだった。
     ――ちゅっ。
     亀頭の唇とキスをする。
     自分の大切な唇がこんな形で穢されているのが無念でならない。
     脅迫で仕方がないとはいえ、自らこんなことをしている悲しさにも泣けてくる。
     なんとか方法を思いつき、この状況を逃れて後輩を助け出す道を考えはしているが、何も思いつかないのだ。せいぜい武力行使で痛めつけ、麗華が脅迫に回って画像を消させる程度の稚拙な作戦がせいぜいだ。
     絶対的暴力で従わせる。麗華の武力でなら可能ではある。しかし、非道な方法に手を染めておきながら、もしも校長が屈しなければ。むしろ暴力を働いたせいで自体が悪化し、後輩も救えないとなれば目も当てられない。
     非道なばかりか、確実性にも欠ける手段など麗華には選べない。
     ――ちゅっ。
     なんらかの交渉をしようとも考えてみるが、では何を話してどう駆け引きをするか。大人を口車に乗せられる上手い口実が浮かばない。そもそも、麗華が一方的に不利な状態からする交渉でどんな話を結べたものだろうか。
     ――ちゅっ。
     結局、何度目かもわからないキスを繰り返す。
     作戦が編み出せず、脅迫に甘んじる人間の何が成績優秀だろう。麗華は過去に成績優秀賞で表彰され、体育館で全校生徒の前に立たされた事がある。表彰状を受け取った時は素直に自分が誇らしかったが、いざという今の事態に頭脳を活用できていない。
     仕方がないといえば、仕方がない。
     しかし、そんな事で麗華の中にゆらめく激しい悔しさは鎮まらない。
    「可愛いですねぇ?」
     煽るような口調が麗華の神経を逆なでする。
    「何が」
    「恥ずかしくて咥えられないんですね? 可愛い可愛い。ウブでいいですねぇ?」
     猫なで声で、馴れ馴れしく頭を撫でてくる。
    「やめろ!」
     麗華はその手を振り払った。
     舐められている。馬鹿にされている。
     いや、自分の優位に校長が調子に乗っているという方が正しいのか。
     何にせよ、校長が口を開くたびに怒りを煽られ、それを堪えなくてはならない屈辱感が増大していく。コップに水でも注ぐかのように、その感情はみるみると増量していた。
    「さ、舐めて下さい」
     ギリッ。
     口内で、歯を食い縛って摺り合わせる音が鳴る。
    「さ、どうしたんですか?」
     腹立たしい高い声が、麗華の苛立ちを増していく。
    「ほらほら、言う事を聞かないと後輩が大変ですよ?」
     校長は煽ってくる。
    「さあさあさあさあ」
    「…………うざい」
     麗華は低く呻いた。
     どうして、こんな奴のを舐めなくてはいけないのか。
     何が悲しくて、こんな奴に奉仕するのか。
     ――ぺろり。
     涙を堪えるような気持ちで、麗華は亀頭を舐め上げた。アイスクリームをそっと舐めるようにチロチロと、細やかにゆっくり唾液を塗る。
     怒りと悲しみと、そして悔しさで全身が震えていた。真冬の寒さか、それとも全身の痙攣かと思うほど、麗華は感情に打ち震えていた。
     まるで無残な敗北だ。厚顔無恥な勝者にかしずき、その股座で奉仕をする。打ち負かされ、自分をいいように扱い調子をこかれる屈辱は途方もない。一歩間違えば、沸き立つ感情のままに亀頭を噛み切り、校長を悶絶させかねない気さえしていた。
     いっそ、本当に噛み切ってはどうだろうか。
     男性器に重大な損傷を与えることを思いはするし、そうしてやりかねない自分がいる。
     そんな自分を抑えているのが、こんな状況でも冷静な思考だけは失わない麗華自身だ。ここで食いちぎれば、少なくとも校長は二度と性犯罪は犯せない。ただ、その結果として自分の処遇はどうなるのか。自分一人が困るだけならいざ知らず、家族は一体どう思うか。後輩の写真はどうされるか。
     想定しうる不安が払拭されない限り、とてもそんな行動には出られない。
     もっとも、確たる反撃のタイミングさえあれば話は別だ。後輩を辱め、今までにも性犯罪を繰り返していることを明言した校長など、到底放置できる存在じゃない。できるなら正当な告発を、それが駄目なら自分にできうる私刑を下したい。
     だが、そんなチャンスは少なくとも今この瞬間にはありはしないのだ。
    「ではでは、もう少し奥まで咥えてみましょうか」
    「くっ、うぅっ……」
     麗華は歯が砕けそうなほど、アゴの筋力が許す限りに歯軋りした。ギリッ、と歯の摺り合わさる音が鳴り、そこまで固く閉じ合わされた歯を震えながら開いていき、ひどく顔をしかめながら亀頭を含んだ。
    「いいですねぇ? とても気分がいい」
     可愛がるようにして頭を撫でられ、麗華は校長を睨み上げた。
     吐きたい、気持ち悪い。
     こんな奴のものなのだ。
     たとえ実行できなくとも、想像の中では汚い一物を無残に食い千切り、卑劣な校長を絶叫させることを考えていた。
    「さあさあ奥まで」
     手で頭を押すようにされ、麗華は竿を深く飲み込む。
     心理的拒否感からなる吐き気もあるが、単純に口を大きく開けておく負担もあった。歯を当てないよう気を使っていると、アゴがしだいに疲れてくる。太い体積に口内を圧迫され、狭苦しさで息がしにくい。
    「舌を休めない」
     理不尽な注意。
     これで舌までしっかり使えというのだから、初めての麗華にとっては大変だ。自分なりに舌を動かし、できうる限り肉竿を撫でながら頭を動かす。どうすれば、どんな風に舐めれば気持ちいいのか。何もわからないまま、とりあえず頭を前後させている。
     こんなに奥まで咥えてしまった以上、もうこの状況からの脱出は放棄した。どんなに真っ平だと思っても、他に手などないからだ。
    「んっ、んっふぁ……」
     唇のわずかな隙間から、吐息が漏れ出た。
     涙が出る。
     卑劣な人間の満足そうな表情など、想像するだけで腹が立つ。しかし、その腹の立つ顔をさせてやれるために、一生懸命に舌を動かさなくてはならない。相手に優越感を与えるために自分は必死に頭を動かし、嫌な思いをしなくてはいけない。
     想像を絶するほどの理不尽さだ。
    「おっと、射精感が込み上げてきました。そろそろ休んでいいですよ?」
     すぐに頭を引っ込め、吐き出した。
    「……満足ですか?」
     敵意を込めて、睨み上げる。
    「満足ですよ? 満足すぎて、すぐに出してしまうのは勿体無い。ここは出そうになるたびに休憩を挟んでいって、長時間の奉仕をしてもらいましょう」
    「そんな……。私にだって都合があるのに、こんな事で人を拘束するんですか?」
    「ええ、こんな事でです」
     校長は麗華の頭を撫でていた。無論、そこに親が子を可愛がるような気持ちはない。ただ男が異性の体に触れ、髪は耳を勝手気ままに弄り回している。頬、うなじ、頭部のあらゆる箇所を校長の手が這い回り、全身鳥肌が立っていた。
     もしナメクジが自分の体を這い回ったら、これくらい不快で気持ち悪いに違いない。
    「写真は消してくれますよね?」
    「何故です?」
    「私が狙いだったなら、もう後輩は関係ないはず。消してください」
    「ま、考えておきましょう」
     校長は麗華の頭を押し、再び舐めるように強要する。
     促されるままに麗華は根元から先端へと舐め上げて、また根元へ戻って舐め上げる往復行為を開始した。最初は舌先をそっと当てるだけで済ませようとしてみるが、すぐに注意され、しっかり舐めることになる。べったりと舌を貼り付け、味わいながら舐め続けることとなった。
    「そうそう。そうやって唾液をまぶすんです」
    「細かいことを……」
    「たくさん舐めて下さいね?」
    「……何がだ」
     まるでご馳走でも用意して、遠慮なくお食べ下さいとでもいう口調だ。そうやって猫なで声で煽ってくるのが癪に触り、麗華は顰める。
     根元から上へと舐めていくのも、校長の顔が視界に入りやすくなって嫌だった。もちろん奉仕自体が最悪なのだが、ニヤけた顔を見せられると余計に耐え難い気持ちがする。
     だったら咥える方がマシだろうかと考えてみる。確かに顔は見なくて済むが、口内へ広がる気持ち悪さが耐え難い。
     結局はどっちもどっちか。
    「んレロ……レロぉ……」
     繰り返しの舐め上げで、自分の唾液の味と香りがしてくるほどになっていたが、それでも麗華は舐め続ける。
    「んロ……レロ……」
     硬い肉棒の、しかし皮の表面は麗華の唾液でふやけている。
    「亀頭をペロペロ」
     指図され、先走りの味がする部分を舌で拭った。昔、ソフトクリームを食べた時の舌使いがちょうど今と同じだったかもしれない。塗りつけるようにして舌を当て、舐め取り、それを何度も繰り返す。舌先の動作だけなら、相手が食品かペニスかの違いだけで、動きとしては完全に同一だ。
     ぺろ、ぺろ、ぺろ……。
     舐め続ける。
    「咥えましょうねぇ?」
     両手で頭を掴まれ、肉竿を飲み込むように導かれる。
    「じゅっ、じゅぷん……じゅるっ、じゅぅぅ――」
    「そうそう。いやらしい音を立てて」
    「じゅぅっ、じゅぅぅぅ――じゅるん――じゅぽ――」
     自然と分泌される唾液が肉棒へ絡み、卑猥な音が響き渡る。
     今すぐやめたい、噛み切りたい。
     そんな事を考えて、竿に歯を沿えこそしてみるが、とてもでないが実行できない。
    「じゅるるっ、じゅるん――」
     だから、舐め続けた。
    「じゅじゅっ、じゅぅぅ――じゅぷぅ――」
     卑猥な水音を立てながら。頭を前後に動かし続けた。
    「出しますよ」
     全身が強張った。
     ほとんど、麗華は反射的に背を仰け反らせ、頭を後ろへ引いて逃げようと動いていた。無意識のうちに素早くだ。
     だが、そんな麗華の頭を校長は両手で押さえる。
    「飲んでください?」
     肉竿を頬張らされ――
    
     ドクン! ドクドク――ビュル――ドピュ――ジュクン!
    
     多量の精液を流し込まれ、息が苦しくなって咳き込んだ。
    「んん! ――げほっ、うえぇ……」
     ただ苦しくて吐き出したというより、気持ち悪いものを自分の口内から追い出したい気持ちが半分以上を占め、麗華は嗚咽したようになっていた。
     少しは飲み込んでしまった。
     こんな奴の出す精液が胃袋へ収まったのだ。
    
     悔しい……。
    
     麗華は打ちひしがれた。
     それが許されるのなら、いくらでも抵抗していたのに。
    
     悔しい――!
    
     ぎりっ、と歯を噛み合わせ、口元から垂れる白濁を手の甲で拭いながら、麗華は校長をにらみ返していた。
    
    「今後ともよろしくお願い致しますね? 麗華さん」
    
    
    


     
     
     


  • 校長の脅迫/フェラチオ 02

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     日曜日、校長室。
     進路指導についての相談があると担任から連絡を受け、この日に校長室へ行くよう命じられたのは後輩の相談を受けた翌日だった。放課後のホームルームで諸連絡として伝えられ、何故だか休日を指定されたのだ。
     何故わざわざ日曜日なのか。こうもタイミングが良いのか。疑問を抱きながら足を運んだ。
    「失礼します」
     ノックをして入室した麗華は、真っ白な剣道着を纏っている。普通は制服がふさわしいところだが、部活練習を考慮され、剣道着で来るようにとの指示を同時に伝えられていた。剣道着でもいい、ではない。それで来い、というのだからおかしな話だ。
    「はっはっ、よく来たね麗華君。剣道着が似合っている」
     校長はソファに腰かけ、デスクの前に立つ麗華をやけに見つめた。頭のてっぺんからつま先まで、舐めるような視線をやってきた。肉体を品定めされ、この服の内側を狙われている心地がして落ち着かない。
    「お呼び出しのご用件は何でしょう」
     校長が淫行を働いたと相談を受けたばかりだが、まだ何も確証がない段階だ。いきなりは糾弾できない。警戒心は押し隠し、普段通りに丁寧な態度を心がけた。
    「んまあ、端的に言うと推薦についてだね」
    「推薦ですか?」
    「麗華君。君は剣道で全国優勝をしているし、成績も優秀だ。というか、ウチはそもそも弱小にすぎなかったのを全国レベルへ押し上げた功績がある。当然、学校としてはより良い高校へ君を推薦したい考えがあるわけだ」
     普通に喜ばしい話だ。
     もちろんその推薦校にもよるが、これは誰にでも来る話じゃない。
    「わかりました。すぐには返事は出来ませんが、是非とも詳しいお話を伺いたいです」
    「うん。後日ね」
     麗華はきょとんとした。
    「えっ、後日ですか? わざわざ呼び出しをなさったというのに」
    「そうだね。本当は今からでも具体的な学校の話をしたいんだけど、今回はもう一件別の話があるんだよね。まずはそっちを片付けようってことだよ」
    「ではそちらの用件とは」
     すると、校長は笑った。
    「まずはこれを見なさい」
     校長のデスクにはノートパソコンが置かれている。校長はその画面を麗華へ向け、映し出されている画像の数々を見せてきた。
    「――こ、これは!?」
     戦慄した。
     そこのあるのは、他でもないあの子の画像だった。一糸纏わぬ赤裸々な姿を写し込み、気をつけの姿勢で立たされている。一枚ではない。四つん這い、開脚して秘所を晒すポーズ、さらにか顔に精液をつけられた姿まで、あってはならない淫行の証拠が並んでいた。
     あの話はやはり本当だったのだ。
     麗華に相談をしてきた後輩は、校長にこんなことをされたのだ。
    「許せない!」
     湧き上がった怒りは衝動的に麗華を動かし、ほぼ咄嗟の判断で校長のノートパソコンへ飛びかかろうとデスクへ食いつく。
     データさえ消えれば、画像さえなければ――。
     いや、証拠が手に入れば校長を告発できる。
     とにかく、校長からこのパソコンを押収するのだ。
    「おっと! 待ちたまえ!」
     それを校長が手で制した。
    「なんですか! これらの証拠は私が責任を持って没収します! このことはしかるべき場所へ報告し、あなたの働いた犯罪行為は全て告発させてもらう!」
    「そんなことをすれば、君の後輩の裸が拡散されるのですぞ?」
    「なんだって?」
     麗華はぴたりと止まった。
    「まさか画像はこのパソコンだけと思っていますか? ははっ、あらゆる媒体にバックアップを取るに決まっているでしょう? 私が捕まれば、彼女の赤裸々な姿が学校中に出回るように仕掛けをしてあります」
    「どういうことですか」
    「私は多くの生徒と交流し、メールアドレスを交換した相手もたくさんいます。まずは彼女のクラスメイトや担任、先輩後輩。見られたくないであろう相手のアドレスは概ね知っているのに加え、既に自動送信メールの設定をしているのです」
     麗華は激しく顔を歪めて、校長を睨みつけた。
    「あなたは最低だ! 教師の資格などありはしない!」
     高らかに言いつけた。
     校長の言いたい事はこうだろう。あらかじめメールを作成し、時間が来れば送信されるように設定がされている。もし校長が捕まったり、身動きが取れなくなれば、メール操作をする暇がなくなるので生徒の裸も拡散される。
     人質を取られたのと同じことだ。
    「まあまあ、表向きにはちゃんとしていますよ? ただ少しだけ、年に一人か二人ほどつまみ食いしている以外は真面目にやっています」
    「ふざけている! 息抜きなんかで生徒を抱くなら、風俗通いの方がずっとマシだぞ!」
    「ああ、風俗だなんて年がいきすぎてて可愛くありませんよ。私は子供が好きなんです。子供がね」
    「……気持ち悪い」
     麗華は顔を顰めた。
     もっと純粋な意味での子供好きなら、そういう人こそが教師や保育士なんかに向いているのだろう。非難するべきものは何もないはずだったが、ひとたび意味合いが変わればその人に対する見方は逆転する。
     そういう意味での子供好きなど、誰が評価するのだろうか。
    「急に口が悪くなりましたねぇ?」
     校長は悪びれもせずにやけていた。
    「あなたは尊敬できる大人ではない。そんな卑怯で下衆な方法で……。後輩を人質同然にさえされていなければ、あなたなんて今すぐにでも取り押さえている」
    「おぉ、怖い怖い。麗華君ならできるのでしょうねぇ? だって、不良に襲われても追い払えるんでしょう? それ、もはや剣道という競技上の技術だけではありません。君は本当に強いということじゃありませんか」
    「武力行使の恐れがなくて良かったですね」
     麗華はすごんでみせる。
    「ええ、良かったです」
     校長は余裕といった顔つきで、にんまりと答えてみせた。
    「何故、私を呼び出して画像を見せた」
    「初めから黒崎麗華狙いだからですよ」
     ゾクッ。
     と、鳥肌が立った。
    「わ、私狙い?」
    「ですが、気の強い麗華君は一筋縄ではいきません。作戦を立て、まずは別の生徒の裸を確保してから君を脅迫することを思いついたのです」
    「それじゃあ、あの子が相談をしてきたのは……」
    「察しがいいですねぇ? 初めから君を呼び出すための布石だったんですよ」
     校長は大仰な身振り手振りで、わざとらしく肩をすくめた。嫌らしい余裕の笑みで、まるで挑発するように麗華の顔を覗き込む。ニタリと笑うその笑顔に寒気が走った。
     元々、校長は容姿が良いとは言いにくい。カッパのような円形ハゲ、小太りで出っ張った大きな腹。絵に描いたような中年の風貌は、それだけで一部の女子を引かせるには十分だ。見た目で判断するつもりはなかったが、ルックスの悪さと性格が一致することほど最悪なコンボはない。
     生理的な拒否感を覚えた。近づきたくない、同じ部屋にいたくない。もしもこんな男が自分の父親だったなら、自分の下着と父親のパンツを一緒に洗って欲しくはない。そう思える自信が正直あった。
    「さて、麗華君。私のもう一つの用件もおおよそ理解できた頃でしょう?」
    「くっ、卑怯者……」
     後輩の命運を握られたも同然だ。
     逆らえるわけがない。
     本当なら抵抗しない麗華などではないが、後輩の裸画像を握られ、校長の指先一つで今すぐにでも拡散する準備ができている。手足を縛られたような気持ちがして、人の人生が壊れるかもしれないのに動くに動けなかった。
     それでも、敵意が消えるわけではない。
    「私に何をさせるおつもりですか?」
     その声には憎しみをたっぷり込め、恨めしい視線を向けて威嚇した。
    「まずは私の椅子のところへ来て、足の間へ座って頂きたい」
     命令されただけで、そんな校長の声が耳に入っただけで虫唾が走った。
     彼は今から麗華を自分に従わせ、意のままにしようというのだ。近づくだけでも生理的拒否反応が走って、肌がネラネラと気持ち悪いような心地がするのに、足の間へ座れという。
    「で? 座りましたが」
     王様気取りでふんぞり返った校長を、麗華は強く睨み上げた。
    「ベルトの金具を外し、チャックを下げ、ペニスを取り出して下さい」
     優越感たっぷりに見下してくるその顔が憎らしい。そこへ拳を叩き込めればどれほどすっきりするだろうか。
     いっそ、そうしてしまいたい。
     暴力に訴えて、この性犯罪者を力づくでもねじ伏せたい衝動にかられていた。そこに倒すべき悪がいながら、我慢しなくてはいけないほどもどかしくて耐え難いことなど他にない。
    「嫌だといったら?」
    「後輩がどうなってもいいのなら、どうぞ拒否して下さい」
    「――くっ、クズ教師……」
     選択肢はない。
     麗華は目の前にあるズボンの膨らみへ手をやって、ベルトの金具をカチャカチャと取り外しす。なるべく勃起へ触れないようにと気を遣うが、どうしても少しは勃起物に手が掠め、接触した皮膚の箇所が汚れた心地になる。
     昔は虫に触れたが、今はナメクジやゴキブリには触れたくない。苦手な虫に触った時の気持ちの悪さ、手に残る皮膚が腐り落ちるような嫌な感触とはこういう感じだろうか。ズボン越しでこれなのに、生で触って自分は平気でいられるだろうか。
    「ほら、次はチャックですよ?」
    「――ふんっ」
     社長気取りで偉そうにソファに座って、股元へ女を従え、校長はさぞかし良い気分なのだろう。対称的に麗華の気分は最低最悪だ。
     麗華はチャックの部分を指先でつまんだ。まるで汚いものでも触るように、指がチャックに接触する面積を可能な限り減らしながら、下げていく。トランクスの柄がみるみるうちに顔を現し、最後まで下げきったところでいよいよ麗華は息を呑んだ。
     この形を浮き出すトランクスの裏側に、それはあるのだ。
    「どうしました? やることはわかっていますよね?」
    「そんな事はわかっている。まさか自分が下衆な淫行教師の被害者になるなんて、意外すぎて戸惑っていただけですよ」
    「いい口の利き方です。さあ、ペニスを」
    「……糞教師」
     麗華は履き捨て、ナメクジかゴキブリに触る覚悟を決めるつもりで、トランクスを下げてやる。硬いペニスが飛び出して、眼前に聳えるそれに麗華は思わず仰け反った。
    「――うわっ」
     気持ち悪い物体でも見た時のような、それが麗華の素の反応だった。
     これを見るのは初めてではない。
     身体検査を受けた時、精液採取の手伝いとして手淫をやらされた際、男子部員全員のものを触っている。男性器を目で見るだけなら、非常に不本意ではあるが慣れていた。あの時と同じように校長の勃起は太く、見るものを唖然とさせる迫力で目の前に立っている。
     あれだけ何本も捌いた体験があっても、下衆で卑怯な人間の一物というだけで格別におぞましい物体に見えてくる。ものは同じペニスでも、不思議と汚い生ゴミに思えた。これで臭いがプンプンしていたら完璧だった。
    「はっは、失礼ですねぇ? これは汚くありませんよ? きちんと洗っていますから」
    「そんな事は聞いていない」
    「まあ聞いてください。私は朝風呂が好きでして、この時のために丁寧に洗ったんですよ。まるで軍人が出撃前に武器を手入れするような気持ちで、石鹸の泡で綺麗に綺麗に磨いてここまできたんです。どうです? ピカピカでしょう?」
     臭くないだけ幸いといえばそうなのだろうが、こうなった時点で何も喜べない。
    「ナメクジが実は清潔だったとして、好きで触る人間がいると思いますか?」
    「いい例えですねぇ? ところで、プレイの知識はありますか?」
    「セクハラだ」
    「はっはっは、いいですねえ元気があって。とりあえず根元を握って下さい」
    「――ううっ」
     麗華はひどく顔を顰めて、やたらにゆっくり手を伸ばす。ナメクジへの例えもいいが、これに触るなど汚いゴミ箱へ手を突っ込むぐらいの覚悟が必要だ。手に汚れがこびりつき、それが生ゴミならただならぬ異臭が付き纏う。
     それに触れる覚悟。
     あるわけがない。
     だが、選択肢もない。
     麗華は唇を内側へ丸め込み、自分の右手が腐敗して腐り落ちる覚悟をしながら勃起に触れた。
    「――うっ! ううぅぅぅ…………」
     熱く、硬い肉の触感が手に染みる。
     麗華の表情は顔の構造が許す限り最大限まで歪められ、いびつに顰められていく。その顔つきを見ただけで、麗華がいかにそれを気持ち悪がっているのかが万人に伝わるほど、表情には感情が滲み出ていた。
     こんなものを握ってしまった。
     いや、握らされたのだ。
     こんな男のものでなければ、麗華とて異性に興味のある年頃だ。ペニスがこういう形をしていて、硬くて熱いものだというのはわかっているが、校長のものに限っては特別な嫌悪感が湧き出てやまない。
    「気持ち悪いっ」
     それを言葉にしなくては気が済まないほど、麗華の全身は鳥肌だらけで背筋にも寒気が走っていた。
    「ではでは、その気持ち悪いものとやらを口でしてもらいましょう」
    「く、口だと!?」
    「そうです。フェラチオです」
     もはや絶望の顔を浮かべた。
     麗華の主観からすれば、それは生ゴミを口に入れることと同じである。腐敗して異臭を漂わせる食品があったとして、それに触るだけでなく、食べろという。そんな命令をされて、しかも拒否権がなかったら、そんな己の人生を呪いたくもなってくる。
    「どうしてもですか?」
     麗華は校長を睨み上げた。
     もはや凶眼だ。
    「当然でしょう? さあ、ペロペロとしゃぶって下さい」
     気持ち悪がる麗華を見て、校長は嗤っていた。
     やるしかないのだろうか。
     逆転の策はないかと考えるが、泣きたくなるほど何も浮かばない。どうにか画像さえ消去できれば、後輩の命運さえ握られていなければいいのだが、肝心のそれを解消する術が出てこない。むしろ頭を回せば回すほど、今は従った方が作戦上は懸命なのが理解できて泣けてきた。
     憎らしい、呪いたい。
     そんな気持ちを死ぬほど強く抱きながら、そして泣きたい思いにかられながら、麗華はペニスへ唇を接近させる。その自分自身の動作、少しずつ距離が縮まり嫌でも目前に迫ってくる感覚さえも嫌で嫌でたまらない。
    「――おっ? おお?」
     しかも、校長は興奮してテンションを上げている。
    (畜生! 畜生!)
     悔しい思いを心の中で叫びながら、唇が亀頭へ触れるあと数ミリまで迫っていく。
     麗華は目を閉じた。
     開いていると、嫌でも瞳が下を向くからだ。自分の唇と亀頭の口が接吻を交わす瞬間を見届けようと、目が勝手にそこへ引かれて逸らせない。嫌な物体がそこにある事が気になって仕方がなくなり、逆に視線を吸引される。
     だから、瞼を深く閉じていた。
    「おっほ! ほほ!」
     テンションの上がった校長の声が鼓膜へ届く。
     そして――。
    
     チュッ、
    
     ついに亀頭とキスが交わされて、麗華の全神経に怖気が駆け巡る。ただ鳥肌が立つだけではない。こんなことをさせられる屈辱、悔しさ。校長に対する憎しみの気持ちが体中に溢れて濁流し、暴れたくて暴れたくて仕方がなかった。
     それでも、下手な行動は取れないのだ。
    
     チュ、チュ、チュ……。
    
     いきなり口内へ向かい入れるなど、フェラチオの経験がない麗華にはできない。この状況自体を拒絶したいが、それが許されない状態で、だけどやはり咥えられない。中間で板ばさみになった麗華は、唇を当てては離し、当てては離す行為から始めていた。
    
     チュ、チュ、チュ……。
    
     校長はそれを満足そうな顔で見つめていた。
    
    
    
    


     
     
     


  • 校長の脅迫/フェラチオ 01

    目次 次の話

    
    
    
     黒崎麗華の所属する剣道部は、当たり前だが女子部員も多くいる。麗華の凛々しい容姿は可愛らしさよりも格好良さが際立って、高い学力と全国優勝の実力を誇っている。そんな美人な先輩に憧れが集まるのも自然なことだ。
     例えばバレンタイン。
    「あのっ、先輩! これどうぞ!」
    「私からも!」
    「私もこれ、作ってきたんです!」
     麗華は下手な男子よりもチョコレートを獲得する。無下にするのも失礼だが、部員だけでなくクラスメイトからもチョコは集まり、十個も二十個も渡されては食べきれない。やむを得ず弟や妹に分け与え、家族で食べるという方法でしか腹に収めきれなかったりする。
     例えばラブレター。
    『先輩は男の子なんかよりも勇ましくて、とっても素敵で憧れます』
     女の子が切ない気持ちを綴った文面が、ある日下駄箱に入れられていた事がある。やはり無下にするのは悪くて手紙は読むが、同性愛の気がない麗華は女同士では付き合えない。嬉しい事は嬉しいが、手紙で指定されていた体育館裏での告白は断らざるを得なかった。
     それから、部活動。
    「すみません先輩! ちょっとコツをお聞きしたいんですが!」
    「待って! 私が先よ!」
    「えー。あなたこの前二人っきりで指導受けてたじゃない!」
     麗華一人に女子部員が殺到し、教えてもらう権利を巡って言い争いを繰り広げる。
     困らされる事はしょっちゅうだが、慕ってもらえるのは悪くない。自分が素晴らしい先輩になれている実感に繋がるし、後輩に恥じぬようより精進してやろうと、自己を高めるきっかけにもなる。
     だから、本当のところ嬉しかった。
    
    「あの、相談があるんですけど……」
    
     悩みを抱えた一年生が麗華を頼ってきた時、真っ先に自分のところへ来てくれたのが妙に嬉しく思ってしまった。きっと本人は真剣に悩み、考えていることがあるからこそ、相談をしにきたのだろうに。それを嬉しく感じる不謹慎さを我ながら戒めた。
    「どうした? なんでも聞こう」
     思い切って悩みを打ち明けようというのだ。親身になり、できる事があれば力になるのが筋というもの。
    「それなんですけど、他の人にはどうしても秘密にして欲しくて……」
     よほど言いにくいことなのか。一年女子は躊躇って、詳細を語るよりも先にそう言った。表情にも元気がなく、いかにも深刻といった雰囲気が気にかかる。
    「わかった。秘密にする」
    「あ、ありがとうございます。それでその、相談なんですけど。セクハラが……」
    「セクハラ?」
     麗華は瞬時に目を細めた。
    「信じてもらえないかもしれませんが、校長先生がその……あの……」
     思春期の少女が暗い面持ちとなって、本当に言いにくそうにしながらも、重い口を動かして話そう話そうと頑張っている。勇気を振り絞っているに違いなかった。
    「うん。私は何でも信じる。私が味方だぞ?」
     麗華は相手に目線を合わせ、できうる限りの優しい声で肩を叩く。
     これはデリケートな問題だ。
     いつもハキハキしている少女が、傷ついて元気を失った顔をしている。校長というのは確かに信じがたい部分だが、淫行を働いた教師の事件を何かのニュースで見たことがある。頭ごなしに否定するわけにはいかない。
    「あの……私、その……えっぐ、うっ……」
     話すどころではない。
     涙ぐんだ少女は瞳に溜め込んだ雫を放出し、声を上げて泣き出した。
    「お、おい! 何があったんだ!」
     宥めるのに必死になった。優しく肩を抱き寄せ、頭を撫で、傷心の少女を包んで言葉の限りを尽くして慰めた。泣き止むまでには時間がかかったし、泣き止んだからすぐに話ができるというわけでもない。実際に相談内容を詳しくきけたのは、さらにしばらく時間が経ち、落ち着きを取り戻したあとのこと。
     初めに話を切り出されてから、一時間以上は経ってようやく本題に触れかけていた。
    「校長先生に呼び出されたと思ったら、いきなり体を触られました。嫌な事をいっぱいされたんです」
     言葉の上では、触られた、嫌な事をされたとしか言っていない。
     しかし、その深刻な顔を見れば察せられる。
     彼女はおそらく、軽いタッチでは済まないような酷いことをされたのだ。内容を詳しく想像したいとは思わないが、胸やお尻は揉まれただろうし、服を脱がされた可能性もある。犯された可能性さえ頭をよぎるが、本人が詳しく語らない以上は想像の余地を出ない。
    「わかった。私が力になる。約束しよう」
     麗華は小指を差し出して、指切りを結んで誓いを立てた。
     部長として、大事な後輩は必ず守る。
     だが、相手は校長。
     少女が語った言葉以外に何か証拠があるでもなく、そもそも話してもらった内容自体が受けた被害の詳細をぼかしている。詳しく喋らせる必要を感じた反面、そんな事を口にするなど辛いだとうとも思えてしまって、聞くに聞けずに終わってしまった。
    
     その翌日のことだった。
    
    「えーと、麗華。校長先生がお前に話があるそうだぞ」
    
     担任から呼び出しが告げられたのは……。
    
    
    


     
     
     


  • 始に攻められる麗華 スパンキング 02

    前の話 目次

    
    
    
     「あーあ、負けちゃいましたねぇ? 麗華先輩」
     剣道着を纏った麗華は、正座する始の脚に腹這いで体を預け、振り上げられた手の平を受け止める。袴越しに叩いているので、生尻を叩くのとは違う微かに篭った音が鳴らされる。その音が響いているのは、誰にも見つかる恐れの少ない体育倉庫のマットの上だ。
    「どんな気分ですか? 先輩」
     嬉しそうに興奮する始の声が癪に障った。
    「……うるさい! 最悪だ!」
    「へぇ? 僕は最高ですよ?」
     ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン……。
     休むことなくお尻を叩く始の手は、ある程度の加減がされている。過度の痛みを与えたり、腫れさせるつもりはないようだが、身体的な痛みの有無は問題じゃない。一撃ごとに心の中に杭を打ち込まれるような、深く突き刺さってくる精神的痛みに苛まれた。
    「――くっ、くぅぅっ、うぅぅ……」
     拳を固く握り締め、麗華は耐えた。
     精神を鍛え直してやるつもりで課した特訓は、始を悪い意味で強化していた。確かに身体能力は向上し、剣道での腕も上がったが、肝心の精神面はそのままだ。セクハラを平気で行う重要部分が直らないまま、繰り返し麗華と戦うことで強くなり、連戦に連戦を重ねた挙句に一本取られた。
     自分が負けたら言う事を聞いてやる。だから、こちらが勝ったらこちらに従え。
     そういう条件で勝負を持ちかけ、良かれと思って特訓に従わせてきた。今度は情欲を抱く始が麗華を従わせる番という事だ。
    「どうですか? こんなことされてる気分は? 感想を語ってくださいよ」
    「……さ、最悪に決まっているだろ!」
     麗華は喚いた。
     勝利した始が尻を叩かせろと言った時、もちろん最初は断った。こんな事を好きで受け入れるわけがないのだが、しかし麗華とて散々勝利を重ねて始に命令を下してきた。改心して欲しい気持ちからとはいえ、苦行を強いたことに変わりはない。なのに自分が嫌な命令を受けたらそれは拒否するのでは、全く筋が通らない。
     始にそう説得され、麗華自身も頭では納得した。だから尻を叩かれていいなど到底思いはしないのだが、筋を通すべく嫌々ながらも受け入れた。
     約束通りに自分も勝者に従うという、条件は平等である事を示す意味でもある。そのために恥を忍んで、麗華は尻に平手を受けているのだ。
    「いやぁ、勝つって最高ですねぇ? 努力を重ねた達成感がたまりません」
    「始君、お前の目標はこんな事なのか? あれだけ頑張ってきたというのに、人の尻なんかを叩いて満足するのか?」
    「そこらの女子だったらしませんけど、黒崎麗華のケツを叩けるなら満足ですよ?」
     ペチン、ペチン、ペチン。
     平手打ちのたびに発生するピリっとした尻肌の痺れに、麗華は自分がまさに受けている扱いを実感した。目上であるはずの自分が下位に置かれて、上から一方的に叩かれる。慢心するつもりはないが、こうして尻を鳴らしているのは、以前なら負けることのなかった後輩の手だ。
     それが悔しい。
    「いやぁ、楽しいですねぇ? これ」
     ペチン、ペチン、ペチン。
    「ぐぅ……!」
     お尻を遊び道具にされている。その事実に体中から屈辱感が沸き起こり、胸の器が満タンになって溢れそうなほどの感情量で全身が満たされる。全身が震えて、無意識のうちに歯軋りの音を鳴らし、顔を強く顰めていた。
    「そうだ。顔じゃないけど、言いやすいので面ってことにしましょうか」
    「何? 一体何を思いついたように……」
    「こういうことですよ――メーン!」
     ペチン!
    「メーン!」
     ペチン!
    「胴! 小手!」
     ペチン! ペチン!
    「――は、始君! 何もそこまで侮辱しなくても……」
     人の尻を弄び、あまつさえ馬鹿にしてコキ下ろす。始にとっては楽しい遊具なのだ。ペチペチと音を立て、人格を持った相手をそんな風に扱う優越感にどっぷり浸る。そういう玩具として使われていた。
     猛烈な恥をかかされているような悔しさに打ちひしがれ、何かを睨まずにはいられない。腹這いで膝に乗せられていては始を睨み返すことは出来ないが、それでも麗華は床を睨んだ表情で顔を赤く染めている。
    「メーン!」
     ペチン!
     尻肌への痛みはごく軽いが、心への打撃としては重かった。
    「……くっ! いい加減にしないと、そろそろ抵抗させてもらうぞ」
    「ああ、すみません。じゃあ普通に叩きますね」
     ペチペチペチペチ――。
     今度は優しくいたわるような叩き方で、より小刻みに連打する。
     あのままエスカレートするようなら抵抗して説教をするつもりがあったが、即座に取りやめにされ、口実を失った麗華は再び耐えるしかなくなった。拘束されているわけでも、脅迫を受けているわけでもないが、精神的に自由を失い、身動きできない身の苦しさが息苦しい。
    「まだか? いつ終わる」
     それはドスの利いた声だった。
     やたらに低い威嚇の声は、それだけで相手を脅しかねない凶器にも達している。並の人間なら、今にも自分を殺しにかかってきそうなほどの凶悪な声を聞かされれば、たちまち縮み上がって逃げ出していただろう。
     たが、始は――。
    「まだですよー」
     ペチペチペチ。
     それでもなお、楽しそうにしているのだ。
    「あと何分続ける気だ? もう十分だろう!」
     怒気を含めて声を荒げているのは、それが麗華なりの威嚇行為だからだ。麗華は既に始を何度も苦しめており、ならば自分の敗北に対してペナルティはきちんと受けるのが筋だと、やはり麗華自身も思っている。筋と礼儀を重んじるが故に、こんな状況でも自分を締め付け、スパンキングそのものには抵抗できない。
     今の麗華にできるのは、こうして威嚇の声を上げることだけだ。
     だが、それは檻の中からの威嚇と同じ。手も足も出せないことがわかっていれば、目の前にクマがいようとライオンがいようと恐怖は生じない。麗華なら罰をきちんと受けることを、始は十分に理解してやっているのだ。
    「まだ二十分くらいですが」
    「二十分もこんな……」
     楽しむ側にとっては短くとも、麗華からすれば随分長くやられて思える。
    「あと三十分は続けてあげますよ? こんなに楽しいことってありませんから」
    「こっちは何も楽しくないというのに」
    「そうですか? 喜ぶと思ったのに」
     始はそこで、麗華の尻に手を乗せ撫で始める。
    「――っは!」
     麗華は身をよじるようにしてもがいたが、腰が左右に動いただけでまともな抵抗にはなりはしない。これだけ叩かれている時点で執拗なタッチを許しているも同然なのに、軽く撫でられているだけで怒鳴るのもおかしい気がして、言うに言えない心理が働いていた。
    「ねっ、先輩。せっかくですから、楽しんじゃいましょうよ」
    「な、何が楽しめだ! 私はそんなマゾではないぞ?」
    「でも、お尻は喜んでいましたよ? 叩くたんびにフリフリって動いて、あれはてっきり喜びを表しているのかとおもいましたが――」
    「動いてない! 喜ぶわけがないだろう! だいたい撫でるな!」
     言えない心理を振り切って、麗華は始の逸脱行為を指摘する。最初に要求され、そして許したのはお尻を叩くことのみで、それ以外を受け入れた覚えは欠片もないのだ。
    「わかりましたよ。ちゃんと叩きます」
     ――もみっ。
    「……っ!?」
     麗華は驚き目を丸めた。
     始は確かに平手打ちを繰り出したのだが、それは尻に手を貼り付けるための一撃である。ヒットさせると同時に一緒に指を食い込ませ、ぐにぐにと揉みしだいたのだ。
     ペチン。
     打ち付ける。
     モミモミモミ――。
     打撃のまま尻房を掴み、ほんの数秒ほど揉んでから手を離す。叩き、揉み、手を離しては同じ行為を繰り返す。確かにスパンキングでありながら、そこにマッサージを織り交ぜる抜け道を使ってきたのだ。
    「お、おい始君」
     麗華は声を荒げた。
    「なんですか?」
     始はとぼけた顔で尻を揉み、指を躍らせ堪能する。
    「揉むのは無しにしろ。叩くだけという約束のはずだぞ」
     抗議の声を上げても、その指は止まらない。むしろより活発に動き出し、尻全体を撫で回して尻愛撫を開始した。
    「ええ、合意の上のプレイでしたね」
    「――ぷ、プレイじゃない! 勝負でのペナルティだ。私が勝っていたら、私に同じだけの権利があったというルールだからだろうが!」
    「ええ、散々鍛えてくれましたよね? あれはなんでしたっけ。腕立て伏せ千回はさすがに筋肉繊維がどうにかなって両腕が死んじゃうかと思いましたよ。ま、おかげで腕力は上がったし、マラソン千キロだとか色々言ってくれたおかげで強くなりましたよ。他でもない先輩自身のおかげで先輩に勝てました」
    「くぅ……お前という奴は……」
     自分の尻を這い回る手が、よからぬ刺激を与えてくる。嫌なことをされているのに、不本意にも胸がドキドキして心臓が止まらない。始の指を感じて括約筋が引き締まり、肛門がヒクヒクと反応して収縮を繰り返す。
     例えばナイフを首元に突きつけられたとしても、生死の危険を前に人は緊張して心臓をバクバクさせるだろう。それと同じ。尻を揉まれて、麗華は本能的に自分の貞操の危機を感じたに過ぎないが、本人に細かい区別はつけられない。つけている余裕がなかった。
    「二十三本の皺はどこでしたっけ」
     割れ目へ指を沈め込み、上下に動いて肛門を探ってくる。
    「や、やめないか……」
     麗華は冷や汗を流した。ネット上で公開された医学データにはスリーサイズのような数字情報も含まれており、二十三本というのは麗華の肛門の皺の数なのだ。始はそれを記憶し、わざわざ本人に呟いたのだ。
     嫌な思い出に顔が染まって熱くなる。
    「みーつけた」
     始は探り当てた肛門の位置へ中指を付き立てて、挿入せんばかりにぐいぐい押した。
    「いぃっ!」
     麗華は引き攣った。
     乙女心ある少女が肛門に指を置かれて、ギュウギュウと押されているのだ。自分のそんな場所に置かれた指の圧力を嫌というほど感じ取り、顔を歪めた。
     ――なんだこの気持ちは……悔しすぎる……。
     折れるつもりは毛頭ないが、そういう意地がなければ心などポキっと折るほど、巨大な屈辱が麗華の胸を押し潰す。ただ悔しいという感情一つで、これほどまでに体中がいっぱいになるものなのか。いっそ自分の精神状態が新鮮に思えるほど、圧し掛かってくる屈辱の感情量は途方もない。
     ――悔しすぎる……。
     悔しいあまり、何か仕返しをしないと気が済まない心境にかられてくる。だからといって大きすぎる抵抗は出来ず、せいぜい背中へ手をやり、始の手首を掴むに留まった。
    「……や、やめろ」
    「あ、すみません。つい」
    「ついじゃないだろう? 終わったのなら、これで今日は――」
    「おっと」
     ペチン!
     起き上がろうと思った矢先に再び叩かれ、その行動意志をキャンセルされる。終わったのなら、という流れで立ち上がるつもりでいた麗華の心は、元の腹這いへと戻されスパンキングを再開された。
     ペチペチペチペチペチペチ。
    「く、くっぅ!」
     ペチペチペチペチペチペチ。
     優しげなタップが小刻みな連打を行い、尻たぶはぷるぷる揺れる。袴の下で尻房が上下に震動するのがよくわかり、麗華は自分の受ける連打の感触に強く顔を歪め続けた。
    「つ、次は負けない……」
     強がったことを言わずにはいられない。このままでは、単なる試合の勝ち負けからくる悔しさ以上に、もっと深い敗北感に打ちのめされる。心に乗せられた重りを相手に、ただ黙っていては潰される。意地を持ち、心で抗うのでなければいけない気がした。
    「へえ、まだ勝負してくれるんですか? また勝ってもいいんですよね?」
    「勝てるものなら勝ってみろ! だが、始君はこんな奴ではなかった。こんな事をして人を辱める奴ではなかった。きっと元の始君に戻ってもらうぞ」
    「ふーん? 頑張ってくださーい」
     ペンペンペンペン――。
     小一時間。
     終わる頃には白い尻肌が桃色だった。長く叩かれ続けた麗華のお尻は、服の上から軽い力でだったにも関わらず赤くほんのり変色して、桃の果実のように赤い斑がまんべんなくまぶされていた。
    
    
    
    


     
     
     


  • 始に攻められる麗華 スパンキング 01

    目次 次の話

    
    
    
    
     ――文句がある奴はかかって来い!
    
     あの時、黒崎麗華は叫んだ。
     二度と堕ちない、何者にも屈しはしないという決意を。
     その決意を持って剣道部の後輩を叩き直し、散々拝まれた痴態を忘れさせるため。あるいは先輩としての威厳を取り返すため。
    
     ――もし私を倒せるようなら、お前達、私に何をしても構わないぞ?
    
     出来る出来ないではなく、やるのだ。
     人前で快楽に溺れた自分自身と、それを目にして大悦びした後輩全員の根性を鍛え直し、部活全体を本来の形へ戻してやる。表面こそ変わりはしないが、麗華に向けられるギラギラとした視線と頭の中で膨らむ妄想、練習への集中力を鈍らせる煩悩を打ち払うのだ。
     負けたら次に勝てばいい。倒れたら、立ち直ればいい。
     だが、そんな麗華の肉体に執念を燃やす少年がいた。
    
     ――麗華先輩、勝ってもいいんですよね?
    
     その肢体を狙って剣を振る竹内始。
     始は数いる後輩の中では最強といっても過言ではない。見た目こそ子犬のようで、身長も低く小柄な体躯だ。外見上は完全に可愛らしい部類に入るのだが、鋭く速い剣捌きは全国常連の麗華から見ても驚くほど、センスに溢れていた。
     彼はしかし、満面の笑みを黒く浮かべる。
     ギラつく視線は麗華の足腰を舐めるように見て回し、剣道着に隠された乳房を透かさんばかりに見つめてくる。
     竹内始が入部してきたのは一年前。
     部活見学の時期だった当時の始は何をやりたいのかも決まっておらず、別に帰宅部でも構わないとさえ思っていた。各部活の様子を一応見ていただけで、どの部活にもさほど興味は抱いていない。無関心だった始の心を揺らしたのは、麗華の見せる華麗な剣捌きの数々だった。
     軽やかなステップを踏み、勇ましい掛け声と共に竹刀を打つ。素早い動きでまるで映像がブレる瞬間のように身体を移動し、集中力の限りを費やさなければとても捉えていられないほどの身のこなしでガンガン攻める。攻撃性もさることながら、相手が面を打ち込むパワーさえもしなやかに受け流し、柔良く剛を制する技巧は素人にも伝わるほどの芸術だった。
     もう、その時から始は麗華に一目惚れしていた。
    『最初は何の部活がやりたいかなんて決めてなかったし、そもそも帰宅部でもいいかなって思いかけてたくらいなんですが。でも、麗華さんの動きって素人にもすごさが伝わってくるくらい物凄くて、感動しちゃったんです! で、憧れてしまいました!』
     そうやって子犬のように尻尾を振り、可愛らしく懐いてきたのが最初の頃の始である。誰よりも早く本入部届けを提出し、いち早く麗華の元へ駆け寄ってきた彼は、当時二年生に上がったばかりだった麗華にとっても初めての後輩だ。
     お互い好き合っていた。
     それは恋愛感情か、単なるライクか。仲良しな姉と弟ぐらいの感情か。どういう『好き』なのかは自分でも計りかねるところがあったが、何にせよ始は麗華を一番に慕っていて、麗華も始を気に入って多少贔屓していたところがある。
     だが、あの身体検査を受けて以来、始はどこか変わってしまった。
     医学用だったはずの写真はネット公開され、名前は一切伏せられているとはいえ、顔まで同時に流出されたのだ。家族を除けば一番近くにいた始なら、きっと他人の空似など想像もしなかったのだろう。すぐに麗華本人だと気づき、豹変したのかもしれない。
     ――疲れてますよ?
     と言い寄って、麗華にマッサージを施した。
     その際に行われたセクハラ、痴漢、脱衣の指示の数々は忘れない。乳房を揉み、尻を撫でてきたあの手の感触は今でも鮮明に思い描けた。女の自分とは違うややゴツゴツとした、しかし男としては柔らかい手つきが自分の肢体を揉み潰し、手の体温を染み込ませる。あれには間違いなく快感を覚えてしまった。
     口が裂けても言えないが、実のところマッサージ体験は麗華のオカズになっている。
     それはここ最近に入ってのこと。
     検査直後の頃は下衆で卑劣な医師や担任の顔がフラッシュバックして、一時はオナニーなど出来ない心境に陥ったこともあった。今にも最低な出来事をネタにしそうな自分がどうしても嫌で、その時は絶対に自慰に堕ちたくはなかった。もっとも、全ては終わった。その後、己を鍛え直す決心を固めた事で精神的な傷は塞がり、元の性生活へ戻ることができていた。
     トラウマが全くないわけではない。傷心の傷跡は残っているが、強くあろうとする精神でもって、心の傷口を無理矢理縫い合わせてでも塞ごうとする姿勢が見事に効果を現していた。
     決まったオカズを気に入って、全身を揉まれた記憶を利用し始めたのはそれからだ。
     麗華は自分自身に決まった勉強量や部活の練習量を課し、やるべき努力をきちんとこなした自分へのご褒美として自慰をしていた。専ら土曜か日曜日の夜、戸締りをしてからパジャマを脱いで秘所を弄くる。
     その際、ふとマッサージの記憶が蘇ったのだ。
     異性の指に触れられる刺激を想像して、全身をたっぷりと撫で回されることを考えながら床を愛液で汚していく。始の手で、恥骨へのマッサージが実際にあると仮定して、だからこそそこに指が挿入される。
     気持ち良かった。
     妄想をしながら行うオナニーは全身をカァァァっと熱くさせ、体中が汗でしっとりするほど熱気で蒸れる。火照った体の内側には甘い電流が流れていて、それが指先や足のつま先までかけて肌面積を一切余すことなく駆け巡る。
     甘く切ないピリっとした痺れだ好きだなど、誰にも言えない秘密である。
     その妄想を行う相手が、肉体を求めて挑んできた。
    
    「やぁ!」
    
     声を張り上げ、竹刀を打ち付けてくる始。
     麗華はそれを受け止め、お互いの竹刀を絡め合いながら力で押し合う。素早く一歩引き、再度前方へ攻めることで肩口を打とうとするが、始もバックステップで回避する。そして始の次の手はこう。空振りとなった麗華の竹刀を上から打ちつけ、無防備に追い込みトドメを刺す。
     狙いの読めた麗華はあえて相手の出方を待った。手を読みきるということは、相手が竹刀を振る一連のモーションさえも見切るということ。それが事前にわかっていれば、タイミングを見定め、カウンターで逆に斬りつけてやることなど造作もなかった。
    
     パシィィ!
    
     麗華の竹刀が、始の着ていた剣道鎧を打ち鳴らす。
     決着。
     その日は全員に勝利して、勝負の約束として取り付けていた根性の叩き直し。要するに普段の部活動よりも一層厳しい鍛錬に全員を付き合わせる計画を発表し、祝日を含んだ連休日を利用して山に篭った。
     坂道をアップダウンで往復する、半日以上は筋トレや素振りを続けさせる。滝に打たれる。自分達で薪を割って火を起こす。サバイバルじみたキャンプ生活を送り、夜は山から見上げる星空を天井にして寝袋で眠りにつく。
     そのようにして、自分自身と共にみんなを鍛え直した。ただの坂道の上り下りにしても、休憩禁止で一時間以上は通しで続ける。その疲れた体でさらに訓練を積ませ、食事を準備するのも自分達出だ。
     さながら軍隊で行う訓練に匹敵する厳しさを提案し、自分自身が先陣に立って実行していた。
     さすがに麗華自身にも厳しかったが、過ぎてしまえば思い出になる。
     それらの活動を経て、部員達の心は入れ替わったように思う。
     その後の部員達は麗華にセクハラを働くことはなく、あからさまにギラついた視線を向けることも決してしない。ただ密かに画像を楽しんだり、思い出をオカズに使われはするが、健康的な男子を相手にそこまで制約することは不可能だ。
     諦めるしかない部分もある。
     ネットに流れた画像は回収不可能だ。世のアダルト画像は星の数ほどあるのだから、その中から偶然にも知り合いが麗華の画像を引き当てる。といった嫌な奇跡が二度と起きないように願うしかない。
     後輩にはそういう形でバレているが、同じ偶然が連続で起きることはないはずだ。
     有象無象の遠くの他人は、数ある画像の一つとして麗華を見る。麗華が麗華であることなど知ることはなく、ただ画像がオカズに使えるかどうかだけを見て利用する。そう考えると、今こうしている間にも画像を通じて麗華は視姦されている事になるのだが、それを防止しようと思ったら地球に住む男性ほとんどが消えるのでなければ成立しない。
     肛門の皺の数、乳首のサイズ。
     それらを後輩全員は暗記してしまっているが、人の記憶を消すなどできない。
     認めたくなどないが、諦める以外に方法がない。それらに関する点を思うと心が沈むが、気を強く持って立ち続ければ、少なくとも麗華は麗華でいられるはず。そのためにこそ、思いついたことを実行してやってのけた。
     これでいい、大丈夫だ。
    
    「僕は何度でも挑戦しますよ? 麗華先輩」
    
     始にさえ、負けなければ。
     たった一度の敗北では諦めず、始は何度でも竹刀を握って麗華に挑戦状を出してきた。訓練を通して散々しごいたはずなのだが、始だけは反省せずに部活中に堂々と麗華を視姦する。耳元でセクハラを呟く。触ってくる。
     いつかはやめてくれるだろうと、麗華もまた何度でも挑戦を受け、破ってきた。
     勝者は敗者の命令に従う。
     そんな条件の元で二人は竹刀をぶつけ合い、始に相応の試練を課していく。罰としての正座二時間、書初め百枚、厳しい特訓。根性を叩き直すであろう内容を思いついては命令し、特訓のときは麗華自身も付き合った。
     なのに、変わらない。
     変わることなく、始は何度でも挑んでくる。
     何度でも。
     やがて、とうとう……。
    
     ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン……。
    
     膝の上へ乗せられて、尻を叩かれている敗北者の姿があった。