校長の脅迫/フェラチオ 02

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 日曜日、校長室。
 進路指導についての相談があると担任から連絡を受け、この日に校長室へ行くよう命じられたのは後輩の相談を受けた翌日だった。放課後のホームルームで諸連絡として伝えられ、何故だか休日を指定されたのだ。
 何故わざわざ日曜日なのか。こうもタイミングが良いのか。疑問を抱きながら足を運んだ。
「失礼します」
 ノックをして入室した麗華は、真っ白な剣道着を纏っている。普通は制服がふさわしいところだが、部活練習を考慮され、剣道着で来るようにとの指示を同時に伝えられていた。剣道着でもいい、ではない。それで来い、というのだからおかしな話だ。
「はっはっ、よく来たね麗華君。剣道着が似合っている」
 校長はソファに腰かけ、デスクの前に立つ麗華をやけに見つめた。頭のてっぺんからつま先まで、舐めるような視線をやってきた。肉体を品定めされ、この服の内側を狙われている心地がして落ち着かない。
「お呼び出しのご用件は何でしょう」
 校長が淫行を働いたと相談を受けたばかりだが、まだ何も確証がない段階だ。いきなりは糾弾できない。警戒心は押し隠し、普段通りに丁寧な態度を心がけた。
「んまあ、端的に言うと推薦についてだね」
「推薦ですか?」
「麗華君。君は剣道で全国優勝をしているし、成績も優秀だ。というか、ウチはそもそも弱小にすぎなかったのを全国レベルへ押し上げた功績がある。当然、学校としてはより良い高校へ君を推薦したい考えがあるわけだ」
 普通に喜ばしい話だ。
 もちろんその推薦校にもよるが、これは誰にでも来る話じゃない。
「わかりました。すぐには返事は出来ませんが、是非とも詳しいお話を伺いたいです」
「うん。後日ね」
 麗華はきょとんとした。
「えっ、後日ですか? わざわざ呼び出しをなさったというのに」
「そうだね。本当は今からでも具体的な学校の話をしたいんだけど、今回はもう一件別の話があるんだよね。まずはそっちを片付けようってことだよ」
「ではそちらの用件とは」
 すると、校長は笑った。
「まずはこれを見なさい」
 校長のデスクにはノートパソコンが置かれている。校長はその画面を麗華へ向け、映し出されている画像の数々を見せてきた。
「――こ、これは!?」
 戦慄した。
 そこのあるのは、他でもないあの子の画像だった。一糸纏わぬ赤裸々な姿を写し込み、気をつけの姿勢で立たされている。一枚ではない。四つん這い、開脚して秘所を晒すポーズ、さらにか顔に精液をつけられた姿まで、あってはならない淫行の証拠が並んでいた。
 あの話はやはり本当だったのだ。
 麗華に相談をしてきた後輩は、校長にこんなことをされたのだ。
「許せない!」
 湧き上がった怒りは衝動的に麗華を動かし、ほぼ咄嗟の判断で校長のノートパソコンへ飛びかかろうとデスクへ食いつく。
 データさえ消えれば、画像さえなければ――。
 いや、証拠が手に入れば校長を告発できる。
 とにかく、校長からこのパソコンを押収するのだ。
「おっと! 待ちたまえ!」
 それを校長が手で制した。
「なんですか! これらの証拠は私が責任を持って没収します! このことはしかるべき場所へ報告し、あなたの働いた犯罪行為は全て告発させてもらう!」
「そんなことをすれば、君の後輩の裸が拡散されるのですぞ?」
「なんだって?」
 麗華はぴたりと止まった。
「まさか画像はこのパソコンだけと思っていますか? ははっ、あらゆる媒体にバックアップを取るに決まっているでしょう? 私が捕まれば、彼女の赤裸々な姿が学校中に出回るように仕掛けをしてあります」
「どういうことですか」
「私は多くの生徒と交流し、メールアドレスを交換した相手もたくさんいます。まずは彼女のクラスメイトや担任、先輩後輩。見られたくないであろう相手のアドレスは概ね知っているのに加え、既に自動送信メールの設定をしているのです」
 麗華は激しく顔を歪めて、校長を睨みつけた。
「あなたは最低だ! 教師の資格などありはしない!」
 高らかに言いつけた。
 校長の言いたい事はこうだろう。あらかじめメールを作成し、時間が来れば送信されるように設定がされている。もし校長が捕まったり、身動きが取れなくなれば、メール操作をする暇がなくなるので生徒の裸も拡散される。
 人質を取られたのと同じことだ。
「まあまあ、表向きにはちゃんとしていますよ? ただ少しだけ、年に一人か二人ほどつまみ食いしている以外は真面目にやっています」
「ふざけている! 息抜きなんかで生徒を抱くなら、風俗通いの方がずっとマシだぞ!」
「ああ、風俗だなんて年がいきすぎてて可愛くありませんよ。私は子供が好きなんです。子供がね」
「……気持ち悪い」
 麗華は顔を顰めた。
 もっと純粋な意味での子供好きなら、そういう人こそが教師や保育士なんかに向いているのだろう。非難するべきものは何もないはずだったが、ひとたび意味合いが変わればその人に対する見方は逆転する。
 そういう意味での子供好きなど、誰が評価するのだろうか。
「急に口が悪くなりましたねぇ?」
 校長は悪びれもせずにやけていた。
「あなたは尊敬できる大人ではない。そんな卑怯で下衆な方法で……。後輩を人質同然にさえされていなければ、あなたなんて今すぐにでも取り押さえている」
「おぉ、怖い怖い。麗華君ならできるのでしょうねぇ? だって、不良に襲われても追い払えるんでしょう? それ、もはや剣道という競技上の技術だけではありません。君は本当に強いということじゃありませんか」
「武力行使の恐れがなくて良かったですね」
 麗華はすごんでみせる。
「ええ、良かったです」
 校長は余裕といった顔つきで、にんまりと答えてみせた。
「何故、私を呼び出して画像を見せた」
「初めから黒崎麗華狙いだからですよ」
 ゾクッ。
 と、鳥肌が立った。
「わ、私狙い?」
「ですが、気の強い麗華君は一筋縄ではいきません。作戦を立て、まずは別の生徒の裸を確保してから君を脅迫することを思いついたのです」
「それじゃあ、あの子が相談をしてきたのは……」
「察しがいいですねぇ? 初めから君を呼び出すための布石だったんですよ」
 校長は大仰な身振り手振りで、わざとらしく肩をすくめた。嫌らしい余裕の笑みで、まるで挑発するように麗華の顔を覗き込む。ニタリと笑うその笑顔に寒気が走った。
 元々、校長は容姿が良いとは言いにくい。カッパのような円形ハゲ、小太りで出っ張った大きな腹。絵に描いたような中年の風貌は、それだけで一部の女子を引かせるには十分だ。見た目で判断するつもりはなかったが、ルックスの悪さと性格が一致することほど最悪なコンボはない。
 生理的な拒否感を覚えた。近づきたくない、同じ部屋にいたくない。もしもこんな男が自分の父親だったなら、自分の下着と父親のパンツを一緒に洗って欲しくはない。そう思える自信が正直あった。
「さて、麗華君。私のもう一つの用件もおおよそ理解できた頃でしょう?」
「くっ、卑怯者……」
 後輩の命運を握られたも同然だ。
 逆らえるわけがない。
 本当なら抵抗しない麗華などではないが、後輩の裸画像を握られ、校長の指先一つで今すぐにでも拡散する準備ができている。手足を縛られたような気持ちがして、人の人生が壊れるかもしれないのに動くに動けなかった。
 それでも、敵意が消えるわけではない。
「私に何をさせるおつもりですか?」
 その声には憎しみをたっぷり込め、恨めしい視線を向けて威嚇した。
「まずは私の椅子のところへ来て、足の間へ座って頂きたい」
 命令されただけで、そんな校長の声が耳に入っただけで虫唾が走った。
 彼は今から麗華を自分に従わせ、意のままにしようというのだ。近づくだけでも生理的拒否反応が走って、肌がネラネラと気持ち悪いような心地がするのに、足の間へ座れという。
「で? 座りましたが」
 王様気取りでふんぞり返った校長を、麗華は強く睨み上げた。
「ベルトの金具を外し、チャックを下げ、ペニスを取り出して下さい」
 優越感たっぷりに見下してくるその顔が憎らしい。そこへ拳を叩き込めればどれほどすっきりするだろうか。
 いっそ、そうしてしまいたい。
 暴力に訴えて、この性犯罪者を力づくでもねじ伏せたい衝動にかられていた。そこに倒すべき悪がいながら、我慢しなくてはいけないほどもどかしくて耐え難いことなど他にない。
「嫌だといったら?」
「後輩がどうなってもいいのなら、どうぞ拒否して下さい」
「――くっ、クズ教師……」
 選択肢はない。
 麗華は目の前にあるズボンの膨らみへ手をやって、ベルトの金具をカチャカチャと取り外しす。なるべく勃起へ触れないようにと気を遣うが、どうしても少しは勃起物に手が掠め、接触した皮膚の箇所が汚れた心地になる。
 昔は虫に触れたが、今はナメクジやゴキブリには触れたくない。苦手な虫に触った時の気持ちの悪さ、手に残る皮膚が腐り落ちるような嫌な感触とはこういう感じだろうか。ズボン越しでこれなのに、生で触って自分は平気でいられるだろうか。
「ほら、次はチャックですよ?」
「――ふんっ」
 社長気取りで偉そうにソファに座って、股元へ女を従え、校長はさぞかし良い気分なのだろう。対称的に麗華の気分は最低最悪だ。
 麗華はチャックの部分を指先でつまんだ。まるで汚いものでも触るように、指がチャックに接触する面積を可能な限り減らしながら、下げていく。トランクスの柄がみるみるうちに顔を現し、最後まで下げきったところでいよいよ麗華は息を呑んだ。
 この形を浮き出すトランクスの裏側に、それはあるのだ。
「どうしました? やることはわかっていますよね?」
「そんな事はわかっている。まさか自分が下衆な淫行教師の被害者になるなんて、意外すぎて戸惑っていただけですよ」
「いい口の利き方です。さあ、ペニスを」
「……糞教師」
 麗華は履き捨て、ナメクジかゴキブリに触る覚悟を決めるつもりで、トランクスを下げてやる。硬いペニスが飛び出して、眼前に聳えるそれに麗華は思わず仰け反った。
「――うわっ」
 気持ち悪い物体でも見た時のような、それが麗華の素の反応だった。
 これを見るのは初めてではない。
 身体検査を受けた時、精液採取の手伝いとして手淫をやらされた際、男子部員全員のものを触っている。男性器を目で見るだけなら、非常に不本意ではあるが慣れていた。あの時と同じように校長の勃起は太く、見るものを唖然とさせる迫力で目の前に立っている。
 あれだけ何本も捌いた体験があっても、下衆で卑怯な人間の一物というだけで格別におぞましい物体に見えてくる。ものは同じペニスでも、不思議と汚い生ゴミに思えた。これで臭いがプンプンしていたら完璧だった。
「はっは、失礼ですねぇ? これは汚くありませんよ? きちんと洗っていますから」
「そんな事は聞いていない」
「まあ聞いてください。私は朝風呂が好きでして、この時のために丁寧に洗ったんですよ。まるで軍人が出撃前に武器を手入れするような気持ちで、石鹸の泡で綺麗に綺麗に磨いてここまできたんです。どうです? ピカピカでしょう?」
 臭くないだけ幸いといえばそうなのだろうが、こうなった時点で何も喜べない。
「ナメクジが実は清潔だったとして、好きで触る人間がいると思いますか?」
「いい例えですねぇ? ところで、プレイの知識はありますか?」
「セクハラだ」
「はっはっは、いいですねえ元気があって。とりあえず根元を握って下さい」
「――ううっ」
 麗華はひどく顔を顰めて、やたらにゆっくり手を伸ばす。ナメクジへの例えもいいが、これに触るなど汚いゴミ箱へ手を突っ込むぐらいの覚悟が必要だ。手に汚れがこびりつき、それが生ゴミならただならぬ異臭が付き纏う。
 それに触れる覚悟。
 あるわけがない。
 だが、選択肢もない。
 麗華は唇を内側へ丸め込み、自分の右手が腐敗して腐り落ちる覚悟をしながら勃起に触れた。
「――うっ! ううぅぅぅ…………」
 熱く、硬い肉の触感が手に染みる。
 麗華の表情は顔の構造が許す限り最大限まで歪められ、いびつに顰められていく。その顔つきを見ただけで、麗華がいかにそれを気持ち悪がっているのかが万人に伝わるほど、表情には感情が滲み出ていた。
 こんなものを握ってしまった。
 いや、握らされたのだ。
 こんな男のものでなければ、麗華とて異性に興味のある年頃だ。ペニスがこういう形をしていて、硬くて熱いものだというのはわかっているが、校長のものに限っては特別な嫌悪感が湧き出てやまない。
「気持ち悪いっ」
 それを言葉にしなくては気が済まないほど、麗華の全身は鳥肌だらけで背筋にも寒気が走っていた。
「ではでは、その気持ち悪いものとやらを口でしてもらいましょう」
「く、口だと!?」
「そうです。フェラチオです」
 もはや絶望の顔を浮かべた。
 麗華の主観からすれば、それは生ゴミを口に入れることと同じである。腐敗して異臭を漂わせる食品があったとして、それに触るだけでなく、食べろという。そんな命令をされて、しかも拒否権がなかったら、そんな己の人生を呪いたくもなってくる。
「どうしてもですか?」
 麗華は校長を睨み上げた。
 もはや凶眼だ。
「当然でしょう? さあ、ペロペロとしゃぶって下さい」
 気持ち悪がる麗華を見て、校長は嗤っていた。
 やるしかないのだろうか。
 逆転の策はないかと考えるが、泣きたくなるほど何も浮かばない。どうにか画像さえ消去できれば、後輩の命運さえ握られていなければいいのだが、肝心のそれを解消する術が出てこない。むしろ頭を回せば回すほど、今は従った方が作戦上は懸命なのが理解できて泣けてきた。
 憎らしい、呪いたい。
 そんな気持ちを死ぬほど強く抱きながら、そして泣きたい思いにかられながら、麗華はペニスへ唇を接近させる。その自分自身の動作、少しずつ距離が縮まり嫌でも目前に迫ってくる感覚さえも嫌で嫌でたまらない。
「――おっ? おお?」
 しかも、校長は興奮してテンションを上げている。
(畜生! 畜生!)
 悔しい思いを心の中で叫びながら、唇が亀頭へ触れるあと数ミリまで迫っていく。
 麗華は目を閉じた。
 開いていると、嫌でも瞳が下を向くからだ。自分の唇と亀頭の口が接吻を交わす瞬間を見届けようと、目が勝手にそこへ引かれて逸らせない。嫌な物体がそこにある事が気になって仕方がなくなり、逆に視線を吸引される。
 だから、瞼を深く閉じていた。
「おっほ! ほほ!」
 テンションの上がった校長の声が鼓膜へ届く。
 そして――。

 チュッ、

 ついに亀頭とキスが交わされて、麗華の全神経に怖気が駆け巡る。ただ鳥肌が立つだけではない。こんなことをさせられる屈辱、悔しさ。校長に対する憎しみの気持ちが体中に溢れて濁流し、暴れたくて暴れたくて仕方がなかった。
 それでも、下手な行動は取れないのだ。

 チュ、チュ、チュ……。

 いきなり口内へ向かい入れるなど、フェラチオの経験がない麗華にはできない。この状況自体を拒絶したいが、それが許されない状態で、だけどやはり咥えられない。中間で板ばさみになった麗華は、唇を当てては離し、当てては離す行為から始めていた。

 チュ、チュ、チュ……。

 校長はそれを満足そうな顔で見つめていた。