校長の脅迫/フェラチオ 01

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 黒崎麗華の所属する剣道部は、当たり前だが女子部員も多くいる。麗華の凛々しい容姿は可愛らしさよりも格好良さが際立って、高い学力と全国優勝の実力を誇っている。そんな美人な先輩に憧れが集まるのも自然なことだ。
 例えばバレンタイン。
「あのっ、先輩! これどうぞ!」
「私からも!」
「私もこれ、作ってきたんです!」
 麗華は下手な男子よりもチョコレートを獲得する。無下にするのも失礼だが、部員だけでなくクラスメイトからもチョコは集まり、十個も二十個も渡されては食べきれない。やむを得ず弟や妹に分け与え、家族で食べるという方法でしか腹に収めきれなかったりする。
 例えばラブレター。
『先輩は男の子なんかよりも勇ましくて、とっても素敵で憧れます』
 女の子が切ない気持ちを綴った文面が、ある日下駄箱に入れられていた事がある。やはり無下にするのは悪くて手紙は読むが、同性愛の気がない麗華は女同士では付き合えない。嬉しい事は嬉しいが、手紙で指定されていた体育館裏での告白は断らざるを得なかった。
 それから、部活動。
「すみません先輩! ちょっとコツをお聞きしたいんですが!」
「待って! 私が先よ!」
「えー。あなたこの前二人っきりで指導受けてたじゃない!」
 麗華一人に女子部員が殺到し、教えてもらう権利を巡って言い争いを繰り広げる。
 困らされる事はしょっちゅうだが、慕ってもらえるのは悪くない。自分が素晴らしい先輩になれている実感に繋がるし、後輩に恥じぬようより精進してやろうと、自己を高めるきっかけにもなる。
 だから、本当のところ嬉しかった。

「あの、相談があるんですけど……」

 悩みを抱えた一年生が麗華を頼ってきた時、真っ先に自分のところへ来てくれたのが妙に嬉しく思ってしまった。きっと本人は真剣に悩み、考えていることがあるからこそ、相談をしにきたのだろうに。それを嬉しく感じる不謹慎さを我ながら戒めた。
「どうした? なんでも聞こう」
 思い切って悩みを打ち明けようというのだ。親身になり、できる事があれば力になるのが筋というもの。
「それなんですけど、他の人にはどうしても秘密にして欲しくて……」
 よほど言いにくいことなのか。一年女子は躊躇って、詳細を語るよりも先にそう言った。表情にも元気がなく、いかにも深刻といった雰囲気が気にかかる。
「わかった。秘密にする」
「あ、ありがとうございます。それでその、相談なんですけど。セクハラが……」
「セクハラ?」
 麗華は瞬時に目を細めた。
「信じてもらえないかもしれませんが、校長先生がその……あの……」
 思春期の少女が暗い面持ちとなって、本当に言いにくそうにしながらも、重い口を動かして話そう話そうと頑張っている。勇気を振り絞っているに違いなかった。
「うん。私は何でも信じる。私が味方だぞ?」
 麗華は相手に目線を合わせ、できうる限りの優しい声で肩を叩く。
 これはデリケートな問題だ。
 いつもハキハキしている少女が、傷ついて元気を失った顔をしている。校長というのは確かに信じがたい部分だが、淫行を働いた教師の事件を何かのニュースで見たことがある。頭ごなしに否定するわけにはいかない。
「あの……私、その……えっぐ、うっ……」
 話すどころではない。
 涙ぐんだ少女は瞳に溜め込んだ雫を放出し、声を上げて泣き出した。
「お、おい! 何があったんだ!」
 宥めるのに必死になった。優しく肩を抱き寄せ、頭を撫で、傷心の少女を包んで言葉の限りを尽くして慰めた。泣き止むまでには時間がかかったし、泣き止んだからすぐに話ができるというわけでもない。実際に相談内容を詳しくきけたのは、さらにしばらく時間が経ち、落ち着きを取り戻したあとのこと。
 初めに話を切り出されてから、一時間以上は経ってようやく本題に触れかけていた。
「校長先生に呼び出されたと思ったら、いきなり体を触られました。嫌な事をいっぱいされたんです」
 言葉の上では、触られた、嫌な事をされたとしか言っていない。
 しかし、その深刻な顔を見れば察せられる。
 彼女はおそらく、軽いタッチでは済まないような酷いことをされたのだ。内容を詳しく想像したいとは思わないが、胸やお尻は揉まれただろうし、服を脱がされた可能性もある。犯された可能性さえ頭をよぎるが、本人が詳しく語らない以上は想像の余地を出ない。
「わかった。私が力になる。約束しよう」
 麗華は小指を差し出して、指切りを結んで誓いを立てた。
 部長として、大事な後輩は必ず守る。
 だが、相手は校長。
 少女が語った言葉以外に何か証拠があるでもなく、そもそも話してもらった内容自体が受けた被害の詳細をぼかしている。詳しく喋らせる必要を感じた反面、そんな事を口にするなど辛いだとうとも思えてしまって、聞くに聞けずに終わってしまった。

 その翌日のことだった。

「えーと、麗華。校長先生がお前に話があるそうだぞ」

 担任から呼び出しが告げられたのは……。