始に攻められる麗華 スパンキング 01

目次 次の話





 ――文句がある奴はかかって来い!

 あの時、黒崎麗華は叫んだ。
 二度と堕ちない、何者にも屈しはしないという決意を。
 その決意を持って剣道部の後輩を叩き直し、散々拝まれた痴態を忘れさせるため。あるいは先輩としての威厳を取り返すため。

 ――もし私を倒せるようなら、お前達、私に何をしても構わないぞ?

 出来る出来ないではなく、やるのだ。
 人前で快楽に溺れた自分自身と、それを目にして大悦びした後輩全員の根性を鍛え直し、部活全体を本来の形へ戻してやる。表面こそ変わりはしないが、麗華に向けられるギラギラとした視線と頭の中で膨らむ妄想、練習への集中力を鈍らせる煩悩を打ち払うのだ。
 負けたら次に勝てばいい。倒れたら、立ち直ればいい。
 だが、そんな麗華の肉体に執念を燃やす少年がいた。

 ――麗華先輩、勝ってもいいんですよね?

 その肢体を狙って剣を振る竹内始。
 始は数いる後輩の中では最強といっても過言ではない。見た目こそ子犬のようで、身長も低く小柄な体躯だ。外見上は完全に可愛らしい部類に入るのだが、鋭く速い剣捌きは全国常連の麗華から見ても驚くほど、センスに溢れていた。
 彼はしかし、満面の笑みを黒く浮かべる。
 ギラつく視線は麗華の足腰を舐めるように見て回し、剣道着に隠された乳房を透かさんばかりに見つめてくる。
 竹内始が入部してきたのは一年前。
 部活見学の時期だった当時の始は何をやりたいのかも決まっておらず、別に帰宅部でも構わないとさえ思っていた。各部活の様子を一応見ていただけで、どの部活にもさほど興味は抱いていない。無関心だった始の心を揺らしたのは、麗華の見せる華麗な剣捌きの数々だった。
 軽やかなステップを踏み、勇ましい掛け声と共に竹刀を打つ。素早い動きでまるで映像がブレる瞬間のように身体を移動し、集中力の限りを費やさなければとても捉えていられないほどの身のこなしでガンガン攻める。攻撃性もさることながら、相手が面を打ち込むパワーさえもしなやかに受け流し、柔良く剛を制する技巧は素人にも伝わるほどの芸術だった。
 もう、その時から始は麗華に一目惚れしていた。
『最初は何の部活がやりたいかなんて決めてなかったし、そもそも帰宅部でもいいかなって思いかけてたくらいなんですが。でも、麗華さんの動きって素人にもすごさが伝わってくるくらい物凄くて、感動しちゃったんです! で、憧れてしまいました!』
 そうやって子犬のように尻尾を振り、可愛らしく懐いてきたのが最初の頃の始である。誰よりも早く本入部届けを提出し、いち早く麗華の元へ駆け寄ってきた彼は、当時二年生に上がったばかりだった麗華にとっても初めての後輩だ。
 お互い好き合っていた。
 それは恋愛感情か、単なるライクか。仲良しな姉と弟ぐらいの感情か。どういう『好き』なのかは自分でも計りかねるところがあったが、何にせよ始は麗華を一番に慕っていて、麗華も始を気に入って多少贔屓していたところがある。
 だが、あの身体検査を受けて以来、始はどこか変わってしまった。
 医学用だったはずの写真はネット公開され、名前は一切伏せられているとはいえ、顔まで同時に流出されたのだ。家族を除けば一番近くにいた始なら、きっと他人の空似など想像もしなかったのだろう。すぐに麗華本人だと気づき、豹変したのかもしれない。
 ――疲れてますよ?
 と言い寄って、麗華にマッサージを施した。
 その際に行われたセクハラ、痴漢、脱衣の指示の数々は忘れない。乳房を揉み、尻を撫でてきたあの手の感触は今でも鮮明に思い描けた。女の自分とは違うややゴツゴツとした、しかし男としては柔らかい手つきが自分の肢体を揉み潰し、手の体温を染み込ませる。あれには間違いなく快感を覚えてしまった。
 口が裂けても言えないが、実のところマッサージ体験は麗華のオカズになっている。
 それはここ最近に入ってのこと。
 検査直後の頃は下衆で卑劣な医師や担任の顔がフラッシュバックして、一時はオナニーなど出来ない心境に陥ったこともあった。今にも最低な出来事をネタにしそうな自分がどうしても嫌で、その時は絶対に自慰に堕ちたくはなかった。もっとも、全ては終わった。その後、己を鍛え直す決心を固めた事で精神的な傷は塞がり、元の性生活へ戻ることができていた。
 トラウマが全くないわけではない。傷心の傷跡は残っているが、強くあろうとする精神でもって、心の傷口を無理矢理縫い合わせてでも塞ごうとする姿勢が見事に効果を現していた。
 決まったオカズを気に入って、全身を揉まれた記憶を利用し始めたのはそれからだ。
 麗華は自分自身に決まった勉強量や部活の練習量を課し、やるべき努力をきちんとこなした自分へのご褒美として自慰をしていた。専ら土曜か日曜日の夜、戸締りをしてからパジャマを脱いで秘所を弄くる。
 その際、ふとマッサージの記憶が蘇ったのだ。
 異性の指に触れられる刺激を想像して、全身をたっぷりと撫で回されることを考えながら床を愛液で汚していく。始の手で、恥骨へのマッサージが実際にあると仮定して、だからこそそこに指が挿入される。
 気持ち良かった。
 妄想をしながら行うオナニーは全身をカァァァっと熱くさせ、体中が汗でしっとりするほど熱気で蒸れる。火照った体の内側には甘い電流が流れていて、それが指先や足のつま先までかけて肌面積を一切余すことなく駆け巡る。
 甘く切ないピリっとした痺れだ好きだなど、誰にも言えない秘密である。
 その妄想を行う相手が、肉体を求めて挑んできた。

「やぁ!」

 声を張り上げ、竹刀を打ち付けてくる始。
 麗華はそれを受け止め、お互いの竹刀を絡め合いながら力で押し合う。素早く一歩引き、再度前方へ攻めることで肩口を打とうとするが、始もバックステップで回避する。そして始の次の手はこう。空振りとなった麗華の竹刀を上から打ちつけ、無防備に追い込みトドメを刺す。
 狙いの読めた麗華はあえて相手の出方を待った。手を読みきるということは、相手が竹刀を振る一連のモーションさえも見切るということ。それが事前にわかっていれば、タイミングを見定め、カウンターで逆に斬りつけてやることなど造作もなかった。

 パシィィ!

 麗華の竹刀が、始の着ていた剣道鎧を打ち鳴らす。
 決着。
 その日は全員に勝利して、勝負の約束として取り付けていた根性の叩き直し。要するに普段の部活動よりも一層厳しい鍛錬に全員を付き合わせる計画を発表し、祝日を含んだ連休日を利用して山に篭った。
 坂道をアップダウンで往復する、半日以上は筋トレや素振りを続けさせる。滝に打たれる。自分達で薪を割って火を起こす。サバイバルじみたキャンプ生活を送り、夜は山から見上げる星空を天井にして寝袋で眠りにつく。
 そのようにして、自分自身と共にみんなを鍛え直した。ただの坂道の上り下りにしても、休憩禁止で一時間以上は通しで続ける。その疲れた体でさらに訓練を積ませ、食事を準備するのも自分達出だ。
 さながら軍隊で行う訓練に匹敵する厳しさを提案し、自分自身が先陣に立って実行していた。
 さすがに麗華自身にも厳しかったが、過ぎてしまえば思い出になる。
 それらの活動を経て、部員達の心は入れ替わったように思う。
 その後の部員達は麗華にセクハラを働くことはなく、あからさまにギラついた視線を向けることも決してしない。ただ密かに画像を楽しんだり、思い出をオカズに使われはするが、健康的な男子を相手にそこまで制約することは不可能だ。
 諦めるしかない部分もある。
 ネットに流れた画像は回収不可能だ。世のアダルト画像は星の数ほどあるのだから、その中から偶然にも知り合いが麗華の画像を引き当てる。といった嫌な奇跡が二度と起きないように願うしかない。
 後輩にはそういう形でバレているが、同じ偶然が連続で起きることはないはずだ。
 有象無象の遠くの他人は、数ある画像の一つとして麗華を見る。麗華が麗華であることなど知ることはなく、ただ画像がオカズに使えるかどうかだけを見て利用する。そう考えると、今こうしている間にも画像を通じて麗華は視姦されている事になるのだが、それを防止しようと思ったら地球に住む男性ほとんどが消えるのでなければ成立しない。
 肛門の皺の数、乳首のサイズ。
 それらを後輩全員は暗記してしまっているが、人の記憶を消すなどできない。
 認めたくなどないが、諦める以外に方法がない。それらに関する点を思うと心が沈むが、気を強く持って立ち続ければ、少なくとも麗華は麗華でいられるはず。そのためにこそ、思いついたことを実行してやってのけた。
 これでいい、大丈夫だ。

「僕は何度でも挑戦しますよ? 麗華先輩」

 始にさえ、負けなければ。
 たった一度の敗北では諦めず、始は何度でも竹刀を握って麗華に挑戦状を出してきた。訓練を通して散々しごいたはずなのだが、始だけは反省せずに部活中に堂々と麗華を視姦する。耳元でセクハラを呟く。触ってくる。
 いつかはやめてくれるだろうと、麗華もまた何度でも挑戦を受け、破ってきた。
 勝者は敗者の命令に従う。
 そんな条件の元で二人は竹刀をぶつけ合い、始に相応の試練を課していく。罰としての正座二時間、書初め百枚、厳しい特訓。根性を叩き直すであろう内容を思いついては命令し、特訓のときは麗華自身も付き合った。
 なのに、変わらない。
 変わることなく、始は何度でも挑んでくる。
 何度でも。
 やがて、とうとう……。

 ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン、ペン……。

 膝の上へ乗せられて、尻を叩かれている敗北者の姿があった。