第2話「密かなエッチ」

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  キアランは弱い。
 いや、両親がそれぞれ傭兵と女剣士だったらしいリーナの方が、他の誰と比べても強すぎるのかもしれないが、それにしたってキアランは弱い。
 いつもジョードに虐められ、仕返しをしたくても負けてしまう。
 勝とうとする気持ちがあって、それをやろうと稽古を積んでいるだけまだ良いが、実際に勝てたことは一度もない。
 そのことをキアランは気にしていた。
「はぁ……」
 気にして、ため息をついていた。
「気にしない気にしない。アンタにはあいつと違って良いとこがあるんだから」
 リーナはそう肩を叩いてくれるが、気にせずにはいられない。
 本当なら、リーナにはあんな情けのない姿を見せたくないのだ。喧嘩に負けて虐められ、泣かされている姿を見られ、格好悪いことこの上ない。これを気にせずにいろなど、どうして出来るものだろうか。
 キアランの家は服飾屋だ。
 洋服類、アクセサリー類などを作って売る。商品制作は自分でやるため、職人的な技量もいれば、接客も行う。制作材料もどこからか取り寄せる。それらを全てこなしていかなくてはならないのだ。
 そんな家を継ぐため、キアランは職人技術を身に付けている。
 リーナはそれを褒めてくれているのだろう。
 しかし、当たり前だ。小さいころから親に習って、家業を継ぐためにキアラン自身も努力を重ねてきた。
 だから出来ないわけがない。
 出来なければまずい。
 あって当然の能力を褒められるより、キアランとしてはジョードに勝ちたいのだ。
「ねっ、キアラン。あれ、してあげる」
 リーナに手首を掴まれて、キアランは引かれるままに歩いていく。
 この草原一帯の先には森の広がる景色があり、三十分も歩いていれば、青っぽい緑の香りに多い尽くされた森林の中へ入り込める。緑色の若葉が頭上をほとんど多い尽くし、その隙間から太陽の光をこぼしているが、明かりが届く量は限られているので、少しだけ薄暗い。
「こっちこっち」
 旅人などが通る獣道から脇へと外れ、リーナは茂みを掻き分けキアランを先導する。
 リーナは人目につかない木陰を探し、二人で密かに過ごそうと考えているのだ。そのために人が通るかも知れない獣道を離れていき、巨木の裏へと身を潜める。
「ここならいいよね。キアラン、出して?」
「う、うん」
 巨木に寄りかかったキアランは、ズボンの中から肉棒を摘み出す。地面に膝をついたリーナが優しく握り、そっとした手つきで肉棒に刺激を与え始めた。
「……気持ちいい?」
 伺うような上目遣いでリーナは尋ねる。
「うん。気持ちいい」
 実のところ、二人は恋人同士だ。
 ジョードが執拗に絡んでくるのは、ジョードもリーナが好きだったからに違いない。ところがリーナはキアランばかりを贔屓して、それが気に入らないあまりに虐めてくる。そういう流れであろうことは察していた。
 しかし、キアランだってリーナが好きなのだから、そこは譲れない。
 いつかはジョードに勝ちたいのも、虐めっ子に対してきちんと決着をつけたいからだ。
「ねえ、もっと悪いことしない?」
「でも、誰かにバレたら……」
 性的なことは悪いこと。そういった価値観が国にはある。
 二人はつまり、密かに悪い遊びを覚えて、共通の秘密を抱えてドキドキしているといったところだ。
 もしバレたら、見つかったら、といった不安や後ろめたさは大きいが、リーナがしてくれることには興味がある。
「バレないためにここでシてるんでしょ?」
「そ、そうだよね……。ええと、どんなこと?」
「こういうこと。チュッ」
 亀頭に口付けがされ、唇の柔らかい刺激に肉棒が弾んだ。
「――! こ、これ! すごく悪いこと」
「そうよ。すっごく、いけないこと」
 リーナは先端を舐め始めた。
 優しい握り具合の手淫に咥え、リーナは亀頭の先を少しばかり口に含んで、その内側で舌をチロチロと動かしている。
「こんなのバレたら、俺達……」
 背徳感にキアランは興奮する。
「そうね。これ、犯罪だもんね」
 と、リーナも盛り上がった目つきをして、より活発に舌を動かした。
 精霊信仰や神々の伝説など、それらの思想に基づいた法の存在するシェーム王国では、未婚の男女がキス以上のことをするのは罪とされている。胸を揉むのも、ましてや手や口で淫らなことをするのは、それだけで罰金や懲役に値するのだ。
 だから、これは犯罪。
 二人で密かに悪いことをして、リスクを背にしながらもお互いに盛り上がっている。
「ちゅぷっ、ぷちゅぅ」
 いつしかリーナの瞳は熱にとろけ、何かを求めた表情で懸命な口付けを繰り返す。亀頭の口から先走りの汁を吸い上げ、熱烈なキスに夢中になっている。
 動いていた右手は止まり、手ぶらだった左手が根元へ来る。両手で握る形となったリーナの姿は、淑女が神に祈りを捧げている姿とよく似ていた。そんな切なそうな目でキアランを見上げながら、あまりにも一生懸命舐めるので、その刺激は恐ろしく強かった。
「じゅっ、じゅぷん――ぢゅるぅぅぅ……」
 熱が入るあまり、リーナは肉棒を頬張り始めていた。
 自分の股に向かって前後している金髪の頭を見ていると、リーナが自分のものとなっていることを実感できて、キアランはますます昂ぶってくる。
「気持ちいい……! リーナぁ……!」
「――ちゅぷぅぅっ、じゅっ、じゅじゅ! じゅくん。んぷっ」
 キアランが感じている事実が嬉しくてたまらないかのように、リーナはより活発に一生懸命頭を動かし、口の中で舌を蠢かせる。
「の、飲んで!」
 射精までそう時間はかからなかった。
「――んっ!? んんっ、ごく……ゴクン! ぷはぁっ」
 唇の輪で強く肉棒を締めることで、リーナは口から精液をこぼさないように、一滴残らず喉の奥まで飲み込んだ。
 自分の出した体液がリーナの腹に収まった事実で、キアランはより興奮を覚えた。
「リーナ!」
「きゃっ!」
 キアランはリーナを押し倒した。まさぐるように胸を揉み、秘所の方へと手を伸ばす。リーナはとろんとした目で身体をくねらせて、キアランのする愛撫に全身を悦ばせていた。
 乳首に触れれば、リーナの瞳は満足そうに細められる。
 秘所から愛液をかきとると、もっと物欲しそうな顔をする。
 しかし、肉棒を押し当てると、リーナはハッとしながら言うのである。
「駄目っ! セックスはバレちゃう……」
「そ、そうだよね。ごめん……」
 挿入のつもりはなかったが、リーナを驚かせてしまったらしい。
「別にいいわよ。入れるのが無しなら、何でも大丈夫だから」
「じゃあ、ここに擦っていい?」
「どうぞ? キアラン」
 秘所の割れ目にぴったりと沿うように、押し当てた肉棒を前後する。太ももによる圧迫と絡みつく愛液が快感となり、キアランは夢中で腰を動かした。
「ねえ、リーナ。結婚したい」
 教会で結ばれれば、性交も罪ではなくなる。
 今は本当は悪いこととして性的なことをしているが、結婚さえすれば、もっと堂々と何も気にせずできるのだ。
「……うん。私もしたいな」
「約束だよ」
「うん」
 二人はキスで舌を絡ませ合った。