第3話「風紀委員」

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 パンツは白とベージュは禁止、きちんと柄や色のあるものを履いてくる。
 普段は下着の色や柄など何だろうと構わないのだが、身体検査の当日だけは『地味な無地』が禁止されている。要するに目立たず大人しいパンツを履き、恥ずかしさを軽減しようなんて考えるなということだ。
 いつも顔を合わせているクラスの男子や先生達に裸を見せ、羞恥心を堪えることで心を鍛えよという方針である。男子も男子で、裸を見たからといやらしい顔は一切せず、紳士的に振舞うことが求められる。男に対する試練でもあった。
 そんな身体検査は何も開始からが本番ではなく、実のところ朝から学校の雰囲気は重々しく厳格なものに変わっていた。

 朝は下着チェックがあったのだ。

 登校した女子は校舎に入る前、必ずスカートをたくし上げる。風紀委員の男子に今日のパンツを見てもらい、確認した風紀委員はチェックシートにペンを走らせる。何色を履き、どんな柄をしていたのか。一人一人のパンツを用紙に書き込んでいくのだ。
「色が白のようだけど、どうしたの?」
 禁止された色のパンツを見ると、風紀委員はまず理由を尋ねる。
「水玉模様があって、ゴムの部分はピンクだから。地味ではないし大丈夫だと思って……」
「なるほど、先生と相談してみよう。あくまで恥ずかしさをやわらげるようなパンツを履かせないためだから、白だからといって一概に駄目とは言われないはず」
 風紀委員は淡々と、事務的に述べた。
「ただし、問題有りとされた場合は放課後まで没収。今日一日パンツ無しで過ごしてもらうことになるから、そのつもりで」
「う、うん。わかった」
 麗奈とも同じクラスにいるその子は、不安がりながら校舎へ駆けていった。
「一年B組、須藤麗奈です」
 次に麗奈の番となり、最初にクラスと名前を告げる。ためらいがちに、羞恥心をぐっと強く堪えるようにしてスカートをたくしあげ、黒色のパンツを見せた。
「ふむ、黒か」
 風紀委員は屈み込み、まじまじと見つめてから用紙に書き込む。確認が終わるのを見て、麗奈はすぐに手に掴んでいたスカート丈を離すのだが、しかし風紀委員は言ってきた。
「ブラジャーも見せてもらおうかな」
 基本的にはパンツだけだが、問題のある生徒の場合はブラジャーもチェックする。別に麗奈が問題児という事ではないのだが、この裁量しだいで自由に女子生徒を脱がせられる権限は、校則を破りそうな子よりも、むしろ風紀委員が自分で気に入った子に対して行使されるのが実情だ。
 これも心の鍛錬だと、学校側は黙認している。逆らえば不利になるのは女の子だ。
「……私の闇に惹かれたか」
 ぼっそりと呟きながら、麗奈はブレザーを脱ぎ始める。ワイシャツのボタンを外していき、肩をはだけるようにして上半身を曝け出した。
「上も黒、きちんと上下セットみたいだね」
 風紀委員は麗奈の胸元に顔を近づけ、淡々とした顔つきでブラジャーの胸を凝視する。視線で柄をなぞるようにして、肩紐に沿って目を動かし、さらに赤らむ表情までをチェックした。
 そして、チェックシートに書き込みをする。
「行かせてもらうよ」
 今度こそ確認は終わったと判断し、麗奈はすぐに服装を直して校舎へ進んだ。

 だが、着替えも男女同じ教室だった。
 しかも、男子が先に体操着に着替え、次に女子がパンツ一枚に。という風に、順番が決まっている。男子が着替え終わるのを、生きた心地のしない気持ちで待機して、体操着を来た男子の前で、自分達だけがパンツ一枚という恥ずかしい格好にさせられる。
 ほとんど、男に脱衣シーンを見せるべくしての規則である。
 一人一人、大いにためらいの気持ちを抱えながら、たどたどしい手つきで脱ぎ始める。麗奈もまた机の上にブレザーをたたみ、靴下を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外しきって、白い袖から腕を引き抜いてからスカートのホックを外す。
 ブラジャーを露出し、スカートを脱ぎ捨て、最後に乳房を曝け出すのが麗奈の選んだ着替えの順番だった。
 もっとも、男子には背中を向けて着替えていた上、すぐに腕で覆い隠したので、そのまま廊下へ出て教室移動を行い、身長計に背中を張り付ける瞬間になって、ようやく乳房を見られたわけだが。

 かくして身長とスリーサイズを測り終えた須藤麗奈は、次の検査へ向かっていく。